
映画マニアもうなるスタイリッシュな映像美『ドライヴ』
#映画
今週は、新進俳優たちによる見応えたっぷりの演技が楽しめる話題作2本を紹介したい。ともに小説を原作とするフィクションのドラマ映画だが、アメリカ社会のリアルな面を映し出す秀作でもある。
3月31日公開の『ヘルプ 心がつなぐストーリー』は、人種差別が根強い1960年代初頭の米国南部ミシシッピ州を舞台に、白人女性の熱意と黒人メイドたちの勇気が旧態依然とした町を変える様子を描く感動のドラマ。作家になることを夢見て、地元新聞社に就職したスキーター(エマ・ストーン)。白人上流社会によるメイドへの扱いに疑問を抱いた彼女は、「黒人メイドの現実を伝える本を書こう」と思い立つ。黒人が差別に抗議すると身の危険を招く時代だけに、スキーターの取材に応じるメイドはなかなか現れない。だが、エイビリーン(ビオラ・デイビス)がインタビューを受ける決意をしたことで、状況は少しずつ変わり始める。
本作は第84回アカデミー賞で作品賞にノミネートされたほか、ビオラ・デイビスが主演女優賞候補に。さらに、エイビリーンのメイド仲間ミニーを演じたオクタビア・スペンサーが助演女優賞を受賞、ミニーを雇う白人女性シーリア役のジェシカ・チャスティンも助演女優賞にノミネートされた。シリアスなテーマが描かれているものの、ミニーが繰り広げる騒動などユーモアもほどよく配分され、泣いたり笑ったりしながら女優陣の競演を堪能できる。題名の『ヘルプ』は“お手伝いさん”を指すが、本の出版で彼女らの立場を改善しようと奮闘するスキーターの“援助”にも重なる。悩み苦しみながらも自分が正しいと信じることをやり抜く、その想いが人々をつなげることで、やがて大きな力になる。悩める現代の私たちを、優しく励まし、助けてくれる温かな作品だ。
同じく3月31日に封切られる『ドライヴ』(R15+指定)は、ライアン・ゴズリング(『ラースと、その彼女』)が主演のクライムサスペンス。天才的な運転テクニックを持つ“ドライバー”は、昼は映画のカースタント、夜は強盗の逃走を請け負う寡黙な男。同じアパートに暮らすアイリーン(キャリー・マリガン)と出会い、互いに引かれ合うが、ほどなくアイリーンの夫スタンダードが服役を終え戻ってくる。多額の借金を負ったスタンダードに懇願され、彼の強盗実行を助けることにしたドライバーだったが、押し入った店で予期せぬ事態が発生する。
口数が少なく、どんな状況下でもポーカーフェイスを保ち、名前さえ明かされない謎めいた男という難役を、ゴズリングが見事に演じきっている。クールに車を操るアクション、アイリーンとその息子に垣間見せる優しさ、そして内なる衝動に駆られるかのように爆発させる暴力。スタイリッシュな映像でゴズリングの新境地を引き出したのは、デンマーク出身の新鋭ニコラス・ウィンディング・レフン監督。疾走感を巧みに表現したカーチェイスシーンと、静かなシークエンスで不意に訪れる過激なバイオレンス描写は、卓越した映像センスを確かに感じさせる。昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した本作は、娯楽アクション大作のような過剰な派手さこそないものの、映画マニアもうならせる実力派の1本だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ヘルプ 心がつなぐストーリー』作品情報
<http://eiga.com/movie/56860/>
『ドライヴ』作品情報
<http://eiga.com/movie/57216/>
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