プロマイドの殿堂・マルベル堂で俺プロマイドを作る
#サブカルチャー #突撃取材野郎
珍奇なものをこよなく愛するライター・北村ヂンが、気になったことや場所にNGナシで体当たり取材していく【突撃取材野郎!】。第14回は、プロマイドの殿堂・マルベル堂に行ってきました。
■ちょっと変なことになっている最近のプロマイド
アイドルにまつわるグッズは数あれど、ファンにとって最もうれしいグッズといえば、やはりアイドルの姿をバッチリ拝むことができる、いわゆる「生写真」ってヤツだろう。飾ってよし、眺めてよし、持ち歩いたってバッチグー。中にはペロペロハムハムしちゃっているファンもいるんじゃないだろうか。
まあ、それくらいファンが狂喜乱舞するグッズだけに、近年では非常にビジネス臭プンプンなアイテムと化しており「全144種類の生写真がランダム封入!」みたいな売られ方をしているケースも少なくないんだけど。「そんなのコンプするためにはいくら銭ッコをつぎ込めばいいんだ!」ということで、「生写真は麻薬。一度手を出したら後戻りできない!」などという裏・スローガンがアイドルファンの間で口伝されているほどなのだ。それでもやっぱ、他のファンがナイスな生写真を持っているのを見るとうらやましいやら欲しいやらでねぇ……。レアな生写真はリアルに麻薬級のプライスで取引されているとかいないとか。
最近ではそんな殺伐としちゃっている生写真界隈だが、芸能界がもうちょっと牧歌的だった昭和時代、アイドルグッズの代表格だったのがいわゆる「プロマイド」と呼ばれる生写真。もちろん当時はランダム封入なんてことはなく、好きな写真を好きな枚数買えるというよい子のお財布にも優しい親切システムで、プロマイドの売上枚数がそのままアイドル人気のバロメーターとなっていたらしい。
そんなプロマイドの元祖といえば「マルベル堂」。名前くらいは聞いたことがあるんじゃないかと思うけど、昭和の頃から自社でプロマイドを撮影・製造しているマルベル堂は今でも浅草で店舗を営業していて、8万種類以上もの懐かしいスターたちのプロマイドを買うことができる。
しかし、こんな伝統あるマルベル堂が、最近ちょっとどーかしちゃってるみたいなのだ。だって、店頭にズラッと並んだ昭和スターたちに混じって、なぜか掟ポルシェ、杉作J太郎、吉田豪といった、ロフトプラスワン、新宿歌舞伎町地下2階感のただようサブカル者たちのプロマイドが置かれているんだもん。しかも掟さん、杉作さんにいたっては尻丸出し状態の写真まである始末!
のプロマイドが……どーなってるの!?
従来のプロマイドといえば、スターがキッチリポーズをつけてニコパチ……というのが常識だったが、平成のプロマイド業界はこんな方向に進化を遂げていたとは。
こりゃあ取材しておかなきゃなるまい、ということでマルベル堂の店長・武田さんと、30年間スターのプロマイドを撮り続けてきたカメラマンの中村さんに話を伺った。
■新旧プロマイド事情を訊く
――あの、明らかに昭和スターという枠から外れているイカれたプロマイドはどうして作ることになったんですか。
武田さん 偶然、掟ポルシェさんを電車でお見かけしまして、その場で「プロマイドを作りませんか?」と声をかけて……まあナンパですね(笑)。実は以前からロマンポルシェ。のライブに行ったりするくらいファンだったので。
――あ、やっぱり店長さんの趣味なんだ……。
武田さん ちょうど、方向性を模索している時期でもあったんですよね。昔は各芸能事務所からデビューする新人アイドルさんはウチでプロマイドを作るというのが恒例になっていたんですけど、ある頃から事務所さん自身で生写真を作って売るようになってしまって、マルベル堂で新たにプロマイドを作ることってなくなってしまったんです。
中村さん 昭和のアイドルはみんなプロマイドを作ってたんだけどね。俺も、山口百恵ちゃんから、キャンディーズ、ピンク・レディー、郷ひろみ、西城秀樹……ジャニーズ系もかなり撮ってきたけど、最後は男闘呼組くらいかな? 光GENJI以降は作らなくなっちゃったんだよ。
武田さん なので、新たにプロマイドを作らせてくれる人はいないかな……と考えていたときに、人を通じてDDTプロレスリングの高木三四郎さんと知り合って、DDTのレスラーさんのプロマイドを作ることになったんです。アイドルだけじゃなく、そういうサブカル路線っていうのもアリかなと思い、掟さんたちのプロマイドも作らせてもらったんですが、バカ売れってほどではないですけど、コンスタントに売れ続けていますよ。
中村さん でもあの撮影はまいったよね。男の尻を撮ったのなんて初めてだからさぁ。
――サブカル寄りな人以外だと、やはり昭和スターのプロマイドが中心ですけど、今でも売れているのはどなたですか。
武田さん やっぱりジュリーこと沢田研二さんが圧倒的に強いですね。キャンディーズあたりの人気も根強いですが、それは「キャンディーズのプロマイドが欲しくて」と狙ってウチに来てくださるお客さんがメインなんですね。でもジュリーの場合、通りがかりの観光客の方がフラッと見かけて買っていくことも多いんですよ。やっぱり今見てもカッコイイですし、スター性が違うんですかね?
――やっぱりジュリーは永遠のスターですねぇ。昭和のプロマイド全盛期にもやはりジュリーが売れていたんでしょうか。
武田さん 昔もジュリーはすごく売れていたらしいですけど、ピンク・レディーが出てきた頃はもっとすごかったみたいですね。
中村さん あの頃、マルベル堂のプロマイドを扱っているお店が全国で2,000店舗以上あったんだけど、生産が全然追いつかなかったから。当時は一枚しかないネガを使って手作業で写真を焼いていたんで、大量生産するのは本当に大変だったんだよ。
――いろんなスターを撮ってきた中でもとくに印象に残っている人は。
中村さん みんなそれぞれ印象に残ってるけど……、西城秀樹なんかは自分をプロデュースする能力がすごくあったね。普通の新人アイドルだったらこっちの指示するポーズを取るので精一杯なのに、秀樹は「こういうポーズはどうですか?」って自分から提案してくるんだよ。それがまたファンの心理をちゃんとつかんでるポーズで、よく売れたんだ。
――最近の生写真とプロマイドの違いってなんだと思いますか。
中村さん 完全に別物だと思ってるよ。プロマイドと生写真の一番の違いって、ポーズを取っているかどうか。今の生写真って、まあ言っちゃえばスナップ写真みたいなものだけど、プロマイドはキッチリとポーズを決めて作られたものだから、頭の先から爪先まで神経を配って撮っているからね。昔、ジャニー(喜多川)さんから「ユー、ただの写真を撮ってほしいんじゃない、プロマイドを撮って欲しいんだ!」って言われたのはよく覚えている。ファンがほしがっているのはただの写真じゃなくて、キッチリ作り込まれたプロマイドなんだってことだよね。……それを言われたとき、ジャニーさんと夜中に部屋でふたりっきりだったからいろいろと緊張したけどねぇ(笑)。
――最近のアイドルでプロマイドを作れるとしたら誰のものを撮りたいですか。
中村さん やっぱり嵐かな。それはオレが撮りたいかどうかっていう話じゃなくて、子どもたちが喜んでくれるプロマイドを作りたいんだよ。今だったら嵐のがあったらうれしいでしょ。
武田さん せっかくお店に来てくれたお客さんに「嵐のはないんですか?」って聞かれるのはやっぱりつらいですよね。
中村さん ジャニーさんも、その辺のところを考えてくれて、プロマイドを作らせてくれればいいんだけどね。
■ついに俺プロマイドの撮影……そして販売開始!?
……と、こんな感じで今昔のプロマイド事情を聞かせてもらったのだが、なんとマルベル堂では最近、スターのプロマイドを販売するだけではなく、「あなたのプロマイド撮影します」というサービスもやっているそうなのだ。
その名の通り、数々のスターを撮影してきた中村カメラマンがオリジナルのプロマイドを撮影してくれるというこのサービス。プロのカメラマンさんに撮影してもらう機会なんて滅多にないし、ましてやプロマイドを作ってもらうことなんてこのチャンスを逃したら二度となさそう! ……ということで、取材のついでにこのサービスも体験させてもらった。
幾多のスターたちがプロマイドを撮影してきたスタジオにドキドキしながら足を踏み入れると、ものすごいゴツいカメラが。さすがに最近では予備でデジカメも用意されてはいるらしいが、やはりプロマイドを撮影するのはフィルム。しかもポスターサイズまで引き伸ばしても粒子が粗くならないほどの巨大なフィルムを使用しているんだとか。
デジカメが主流になってからはとくに、シャッターをバシバシ切るカメラマンが多くなったけど、この道30年以上の中村さんは一枚入魂!(フィルムも高いし)「もうちょっと身体をひねって……指は伸ばして」などと細かくポーズや衣装を指示して、なかなかシャッターを切らないのだ。
ホントにコレでいいの!? バカみたいじゃない?
あまり写真を撮られ慣れてないモンで、ボクも言われるがまま、カウボーイハットをかぶらされ、ギターを持たされ、椅子に足を乗せられ……こんなヤツが道を歩いていたら大バカ丸出しとしか形容しようのない珍妙な格好&ポーズを決めた状態で撮られてしまったのだが、出来上がりを見ると……確かに顔はともかくとして、昭和スター感がちゃんと出ていてプロマイドっぽい!
「こういうポーズのパターンっていっぱいあるんだけど、ワイルド系、ブリッ子系、女優系……と相手に合わせたポーズを選んで撮っていくんだよ。じゃあ次はブリッ子っぽいので撮ってみようか」
「なんで俺がブリッ子!?」と文句を言う間もなく、持ってこられた椅子がまたすごかった。かつて、キャンディーズや近藤真彦、吉永小百合も座ったという、まさにスターのみが座ることを許された(!?)椅子なのだという。
この椅子にまたがって、またしても中村さんの言われるがままにブリッ子っぽいポーズを取っていく。
「あーカワイイ! そうそうカワイイ!」
……中村さんも、30代男を前にしてどんな気持ちでそんなことを言っていたのかは分からないが、意外とうれし恥ずかしいモンで「いやいや、何言ってんですかー」と言いつつも顔はニヤニヤしてしまい、先ほどよりも自然な笑顔を作ることができたような気がする。おお、コレが数々のスターを撮ってきたプロフェッショナルの技か。
ポーズを。さすがです! 左から武田店長と中村カメラマン。
約一週間ほどで完成した俺プロマイドは、どれも撮影の腕もさることながら、やはりポーズの指示が的確で実に昭和感あふれる、プロマイドらしい出来栄えに。いやぁ、なかなかイイものができたんじゃないの!?
そこで調子に乗って、店長の武田さんに「あのー……せっかくなんでボクのプロマイドも店頭に置いて売ってくれませんかねぇ……スターたちの中にシレッと紛れ込ませて」とダメ元で頼んでみたところ、「いいですよー!」と快諾!
……というわけで、浅草・マルベル堂さんの店頭でしばらくボクのプロマイドが販売されているようです。30代半ばの男が必死にアイドルポーズを決めている写真が欲しい、バカなプロマイドが欲しいという方は、ぜひお買い求めを!(一枚くらい売れないとさすがにマルベル堂さんに申し訳ないんで……)
(取材・文・イラスト・写真=北村ヂン)
掟さん、杉作さん、豪さんという思いっきりサブカルゾーンですが……(妥当)。
■マルベル堂 新仲見世店
住所:東京都台東区浅草1-30-6
電話・FAX:03-3844-1445
営業時間:平日11:00~19:00 土日祝10:30~19:00 年中無休
<http://marubell.co.jp/>
ジャニさん、どうっすか?
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