
巨匠の溢れんばかりの映画愛がつまった『ヒューゴの不思議な発明』
#映画
第84回アカデミー賞は、白黒サイレント映画『アーティスト』の作品賞など5冠獲得で幕を閉じた。日本では4月に公開される同作の紹介は別の機会に譲るとして、やはり今年のアカデミー賞に多くの部門でノミネートされた実力も話題性も十分の注目作2本を取り上げたい。
3月1日公開の『ヒューゴの不思議な発明』(2D/3D上映)は、世界中でベストセラーとなった冒険ファンタジー小説を巨匠マーティン・スコセッシ監督が映画化したハートウォーミングな作品。1930年代、パリ駅の時計塔に隠れ住んでいる少年ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)。亡き父(ジュード・ロウ)が遺した機械人形を修理するため、駅構内の玩具屋で部品やオモチャを盗もうとするが、老店主ジョルジュ(ベン・キングズレー)に見つかってしまう。ジョルジュは機械人形の秘密を知っている様子で、彼の養女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)は機械人形の鍵穴にぴったり合う鍵を持っていた。ついに機械人形が動き出すとき、3人の運命も大きく変わり始める。
映画草創期の監督ジョルジュ・メリエスとその作品群に、スコセッシ監督が心からのオマージュを捧げた作品。溢れんばかりの映画愛に加え、自らの監督人生をジョルジュに託した心情がうかがわれ、何やら切なくもある。当時のパリの街並みや駅構内、時計塔内部を、CGを駆使して味わい豊かに再現。完璧にコントロールされた3D映像は、タイムスリップしてその場に居合わせているかのような臨場感をもたらす。今年のアカデミー賞では最多11部門ノミネート、撮影賞・美術賞・視覚効果賞・録音賞・音響編集賞という『アーティスト』と並ぶ5部門での受賞を果たした。ピュアな存在感が光るヒューゴ役のバターフィールド(『縞模様のパジャマの少年』)、演技面でも身体的にも成長を感じさせるイザベル役のモレッツ(『キック・アス』『モールス』)の2人にももちろん要注目だ。
続いて3月2日に封切られる『戦火の馬』は、1980年代にイギリスで発表された小説をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化した感動の歴史ドラマ。第1次大戦前夜のイギリスのある農村。農家の少年アルバートは、父が競り落としてきた美しいサラブレッドにジョーイと名付け、農耕馬として育てて苦楽を共にしてきた。だがある日、ジョーイは軍馬として騎馬隊に売られてしまう。フランスの戦地に赴いたジョーイを探すため、アルバートは徴兵年齢未満で入隊し、ドイツと激戦を繰り広げるフランスの地へと向かう。
主人公アルバート役のジェレミー・アーヴィン、母親役のエミリー・ワトソンらによる好演も光るが、本作の目玉は何と言っても、表情豊かで説得力ある馬の演技。しかも、危険なシーンでごくわずかにCGが使われただけで、ほぼすべて実写で撮影されたというから一層驚かされる。傷を負った仲間の馬を助けるため、自ら苦役を買って出るシーンなど、涙なくして見られない名場面も数多い。英国ダートムアの雄大な景観の中、人と馬が力を合わせて過酷な試練を乗り越えていく姿は、どこか米国の西部開拓史の情景にも似た映画的郷愁を誘う。6部門にノミネートされたアカデミー賞の受賞はならなかったが、戦争で人間同士が傷つけ殺し合うことの愚かさ、厳しくつらい時代にも希望を失わず未来を信じることの素晴らしさを教えてくれるスピルバーグ監督の最新作、どうぞお見逃しなく。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ヒューゴの不思議な発明』作品情報
<http://eiga.com/movie/56064/>
『戦火の馬』作品情報
<http://eiga.com/movie/55976/>
映画界の魔術師。
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