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CIA女性工作員がブッシュ政権と対決  実録サスペンス『フェア・ゲーム』

fairgame000.jpg実在の元女性工作員とその夫がホワイトハウスとの戦いに挑んだ『フェア・ゲーム』。DVDとブルーレイが3月2日(金)よりリリース。
(c)2010 SUMMIT ENTERTAINMENT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 戦争は一体どのようにして起きるのか? 最初の引き金は、誰がどのようなタイミングで引くのか? ポリティカルサスペンス『フェア・ゲーム』は戦争が始まる瞬間の内幕を描いた実録ドラマだ。フェア・ゲームとは”正しいゲーム”ではなく、”格好の標的”という意味。禁猟期間が開け、ハンターたちが狙いを定めたシカなどの獲物のことを指す。2003年、大量破壊兵器を保有しているという理由からイラク戦争に踏み切ったブッシュ政権に対し、大量破壊兵器は存在しないという”真実”を公表したために、政府側の”標的”となったCIA女性工作員とその夫の孤立無援の戦いを描いたノンフィクションストーリーだ。

 本作のモデルとなったのは「プレイム事件」。イラクのフセイン政権が核兵器を開発しているらしいという噂をキャッチした米国政府は、CIAに調査を指示。現地に飛んだCIAの女性工作員ヴァレリー・プレイム(金髪の美女!)は民間人の協力を得て、湾岸戦争後のイラクには核開発する技術はないことを確かめる。さらに中東・アフリカを専門とした元外交官の夫ジョー・ウィルソンも協力し、イラクにイエローケーキ(ウラン燃料)を入手した事実はないという裏付け調査を行なう。だが、イラクとの開戦を既定路線としていたブッシュ政権は、CIA上層部に圧力を掛けた上でプレイム夫妻の調査報告は不十分とし、イラクの脅威を世論に訴え続ける。2003年3月のイラク開戦後、大量破壊兵器が見つからなかったことは周知の事実だ。

 同年9月に夫ジョー・ウィルソンが「ブッシュ政権は正しい情報をねじ曲げた」との批判記事をNYタイムスに寄稿したところ、これに怒った副大統領チェイニーの首席補佐官ルイス・リビーらが懇意にしている記者を動かし、ジョーの妻はCIAの工作員であることをマスコミに暴露してしまう。CIAの秘密工作員がその身元を明かされれば、その工作員は社会的に抹殺されたことを意味する。職務が続けられないだけでなく、海外にいる民間の協力者たちを危険にさらし、テロリストから狙われることになる。さらに夫や子どもたちとの家庭生活までも崩壊の危機に瀕する……。

 実在の元CIA女性工作員ヴァレリー・プレイム役に扮したのはナオミ・ワッツ。CIA工作員が受ける過酷なトレーニングを体験した上で撮影に参加。職務に対する忠誠心と愛する家庭との板ばさみになるヒロイン像にリアルに迫っている。ナオミ・ワッツと『21グラム』(03)、『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』(04)で共演した演技派ショーン・ペンが、彼女の推薦で夫ジョー役を熱演。プレイム夫妻が驚くほど、ジョーの口調や仕草を完璧にコピーした。末期とはいえ当時のブッシュ政権を敵に回すという危険を冒して、本作に製作から関わったのはダグ・リーマン監督。『ボーン・アイデンティティー』(02)で秘密工作員が生きる冷酷な世界をアクションたっぷりに描き、『Mr.&Mrs.スミス』(05)でスパイ夫婦の家庭生活の悩みをコメディに仕立てたダグ・リーマン監督が、その両作の延長線上にあるようなノンフィクション作品に挑んだことも興味深い。中東ロケパートでは監督自身がカメラを持って撮影したほどの熱の入れようだ。

fairgame_main.jpg(c)2010 SUMMIT ENTERTAINMENT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 秘密工作員の素顔に肉迫した本編同様に注目したいのは、セルDVDの特典。プレイム事件の当事者であるヴァレリー・プレイム&ジョー・ウィルソン夫妻がオーディオコメンタリーに参加しており、「このシーンは本当にあった」など各場面の解説は聴きごたえ充分。ともに交渉術を最大の武器とする工作員、外交官というプロフィールの持ち主だけに、夫妻のあうんの呼吸のトークセンスが光る。前半、CIAのロビーに現われたショーン・ペンがロビーの壁に刻まれている星マークを見つめるシーンがある。ここで、ジョー・ウィルソンがぽつりと呟く。「あの星マークは、殉職したCIA局員の数を示しているんだよね」と。本編だけ見ていると何でもない1シーンなのだが、当事者たちのツボを心得た解説によって、CIAという職務の特殊さ、妻の安否を気遣う夫の心情が濃厚に伝わってくる。

 各国の情報を集めるCIA工作員の視点に立った『フェア・ゲーム』を観ることで、戦争が起きる裏事情がよく分かる。権力側にいる人間は自分の考えや意見に固執し、頑として自説を曲げようとしない。少しでも弱気を見せると自国内で足元をすくわれるからだ。本来は政府に対して正しい情報を提供することで国の安全を守ることを目的としているCIAだが、権力側の圧力に屈して、都合のいい情報を提供するイエスマンと化してしまう。CIAのトップもまた自分の立ち場や家庭を守らなくてはならないからだ。そんな密室で起きた茶番劇によって、”正義”だと信じ込んだ若者たちが最前線に次々と送り込まれ、イラクの街はガレキの山となった。特典映像のインタビューで、2児の母親でもあるナオミ・ワッツはこう語っている。「これは米国だけ限ったことではない。どの国、どの政府でも常に起きうることだと思う」と。
(文=長野辰次)

●『フェア・ゲーム』
監督・撮影・製作/ダグ・リーマン 出演/ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン、サム・シェパード、ノア・エメリッヒ、ブルース・マッギル、デヴィッド・アンドリュース 

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最終更新:2013/09/09 12:55
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