“逃亡中”のある獣医師が今も元気に勤務できる理由とは?
#事件 #企業 #イオン
とんでもない獣医師がいたものである。部下である複数の女性スタッフに長年にわたりセクハラ行為を続け、被害を受けた女性らから関係者を通して抗議を受けると、逆恨みに暴力団を名乗る男に依頼して脅迫電話をかけ続けさせ、挙句の果てには勤務先のレジから現金数十万円を盗んで逃走。その後も逮捕されることなく、獣医紹介会社を通して群馬県の大手ペットショップ「P」に潜り込み、今も普通に獣医として働いているという。
「P」に100%出資をしている流通大手の「イオン」は、「当社と直接雇用契約にあるわけでもないのでコメントする立場にない。今後も対応する考えもない」(広報部)とまるで無関心。「P」の店長も「上層部に相談はしていますので、その返事待ち」と実に呑気だ。コンプライアンスを語る以前の異常なこの事件。犯罪的行為を繰り返してきたと告発されてきた獣医師は、なぜ今も捕まらずに野放し状態にあるのか。
事件が最初に表面化したのは5~6年ほど前。静岡県の某動物病院で働いていた獣医師のY(56歳)は、わかっているだけで4人の女性スタッフにセクハラや強制わいせつ行為を繰り返してきた。被害にあった女性たちがその様子を次々に証言する。
「ニ人きりになると、近づいてきて、『俺はパイプカットしているから生でやっても大丈夫だ』『一回くらいやらせろ』と毎日のように言われた」(Aさん)
「後ろからいきなり抱きついたり、胸を揉まれたり、何度も体を触られた」(Bさん)
「夜中に家までやって来られ、『これから飲みに行こう、ホテルはとってある』とわけのわからないことを言われ、断ってもなかなか帰ってくれなかった」(Cさん)
これだけでも信じがたい話だが、それだけではない。Y獣医師は静岡県の動物病院を辞した後の2010年夏、神奈川県で新規オープンする動物病院へ院長として雇われる形で赴任。若手スタッフらとオープン準備に携わる中で、ここでも早々から複数の女性スタッフに強制わいせつ行為を行っていた。被害者女性の一人が言う。
「毎日のように性行為を迫られ、あるとき刃物を持って『やらせてよ』と迫られたときに、本気で命の危険を感じて、それで初めてオーナーに相談したんです」
相談を受けた動物病院オーナーが驚いて本人を呼んで確認したところ、自らの行状をあっけなく自供。涙を流して「もうしません」「一からやり直す」と謝罪。ところが、その”号泣謝罪”の数時間後に、地元の警察署へ駈け込んで「勤務先のオーナーからいきなり殴られた!」とデタラメの被害届を出していたことが後に判明。さらに、告発した女性に逆恨みをしたY獣医師は、暴力団を名乗る60代の男に依頼し、女性の携帯電話や自宅に電話をかけさせ、「若い衆を連れてそっちへ行く」「このままでは済まねえぞ」などの脅迫行為を執拗に繰り返した。女性はこれが理由で精神的に不安定になり、手紙を残して動物医院を退職している。
理解不能な奇行を続けるY獣医師に対し、たまりかねたオーナーが厳しく叱責。すると、その数日後の2011年12月、Y獣医師は深夜に動物医院に忍び込むと、現金数十万円を盗んで姿をくらましてしまったのである。
次々に問題を起こしたY獣医師は、世間の目から逃れて永遠の逃亡生活へ……と思いきや、なんと獣医師紹介会社を通して、群馬県の大手ペットショップに何食わぬ顔をして今年1月から勤務していたことが判明した。高崎のショッピングセンター内にある「P」だ。Pの本体は、北海道や東京、愛知、三重、岡山などにも店舗を持ち、動物病院やペット用品の販売などを展開する総合ペットショップ。イオンのディベロッパー事業部の運営下にあり、資本金の3億円は全額がイオンからの出資となっている。
イオン本社にこれまでのY獣医師の行状を説明した上で見解を求めたところ、返ってきたのが冒頭の回答。事実関係の今後の究明や対応についても「考えていない」(広報部)。また、「Y獣医師は紹介会社を通しているので、もし言うことがあるならそちら(紹介会社)へ言ったらどうか」(同)としながらも、紹介会社の名前は「取引先なので言えない」と回答。最後に、今回の回答を電話でなく文書かメールでと求めたが、それも「できない」と拒否。「とにかくコメントはできない」を繰り返した。
一方、実際に勤務しているペットショップの対応だが、イオン本社へ連絡した数日後に勤務先の「P」へ問い合わせたところ、「イオン本社からは何も聞いてない」(店長)と驚いた様子を見せ、「とにかく上司に相談する」と回答したものの、それから半月後の1月下旬に再度問い合わせると、「特に変わりはありませんよ。上層部には相談したので、あとは判断待ち」「Yさんは今日も普通に働いていますよ」と実に呑気。「そちらの女性スタッフが心配ではないのですか?」との問いにも「大丈夫でしょう(笑)」と深刻さをまるで理解していない様子だった。
イオンやペットショップの今回の対応について、企業の危機管理を専門にする某コンサルタントは「あってはならない。信じられない」とあきれ返る。
「イオン系のペットショップで働く前の犯罪的行為なので責任がないと言いたいのでしょうが、認識が甘すぎます。今回の取材に対して、事実確認も含め、なんら対応しないということは、被害拡大の可能性を認知しながら放置することを意味します。イオン本社はショップに連絡すらしていないし、ショップも本人を問い詰めるなどの調査をしていない」
また、善良なる企業としての注意義務である「善管注意義務違反」に問われる可能性も指摘する。
「コンプライアンス重視の世の中で、今は裁判所が企業の善管注意義務に厳しくなっていますから、法的にも大きな問題に発展する可能性もありそうです。特に今回は、暴力団を名乗る男が脅迫行為をしていますから、暴力団排除条例の責任も問われかねません。イオンは今回、法務部や総務部ではなくて広報が最後まで対応しているようなので、その点でも危機意識の薄さを感じますね」
一方、犯罪を取り締まるべき警察は何をしているのだろうか。実は、被害者女性の一人は昨年秋、神奈川県警の港南警察署に電話の録音記録などを持参して相談に行ったが、「証拠が不十分」などの理由で対応してもらえていない。また、女性の今の住所地が他県であることで、「個人案件は住所地の所轄の警察が対応せよという警察内部の通達がある」(司法関係者)との、お役所の手続き上の事情が障害になっていると指摘する声もある。女性の相談を受けてきた友人の一人が吐き捨てるように言う。
「通達とか責任とか手続きとか、どうでもいい。実際に女性が性犯罪の被害を受け、暴力団を名乗る男から脅かされて心を病んで今も職に就けていないのに、警察も企業も『うちは責任ない』で誰ひとり助けようと動かない。こんな世の中狂ってますよ」
諸悪の根源が罪を犯した獣医師であることはもちろんだが、関係機関の一人ひとりが責任逃れをし続けた結果、当の犯人は今も群馬で野放しである。被害者を支援する者の一部は警察への相談を続けながら、今後はイオンの対応へ批判を強めたいとしている。
(文=浮島さとし)
勤務獣医師のための臨床テクニック―必ず身につけるべき基本手技30
スキャンダルの潰し方もね。
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