航空専門誌『エアワールド』の竹内編集長に聞く 絶好調のJALにつきまとう不安要素とは?
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戦後最大の倒産とまでいわれた日本航空(JAL)の会社更生法申請から2年。「堕ちた翼」とまで揶揄された倒産航空会社が、早くも業績を回復させてナショナルフラッグの威厳を取り戻しつつある。
JALが先ごろ発表した「5カ年中期経営計画」によれば、中心となって再建を進めてきた稲盛和夫会長が名誉会長に退き、会長職に大西賢前社長が、新社長にはパイロット出身の植木義晴氏が就任。前社長で「整備畑」出身の大西氏に続く二代続けての”現場上がり”の社長となる。JALといえば、これまで現場の空気を知らない「経理畑」や「総務畑」出身者が長らくトップを務める時代が続き、これが要因の一つとなって経営を破たんさせた。その意味で、実務型の”できる”人物を二代続けてトップに据えた稲盛前会長の人事を、「社内の士気を高める」(業界紙)と評価する声は多い。
JALは2012年3月期連結決算の業績予想を、従来予想より400億円引き上げて1,800億円と上方修正。これは全日空(ANA)のほぼ倍にあたる数字だ。業績回復の理由として「一つには徹底したコスト削減が実を結んだ」と言うのは、航空専門誌『エアワールド』の竹内修編集長だ。
「JALの社員が札幌へ出張するような場合、仮に自社の直行便が一般客で満席の場合は、今まではANAの便などを利用していました。ところが、今は自社便でいったん大阪などを経由して、それから札幌へ行くなどの節約をしているようです。また、整備スタッフが使っている軍手などの消耗品も、今までのようにすぐに捨てずに大事に使うなど、いわば涙ぐましいまでの節約を続けています。もちろん、格安航空会社のLCCでは既に当然のことなのですが、あのJALが2年でここまで節約概念を身につけたという点は評価されていいのではないでしょうか」
また、社内の風通しも、官僚的要素が強かった以前とは比較にならないほどよくなったという。
「大ヒットしたアニメ映画『けいおん!』にJAL本社が協力しており、劇中にも鶴丸のマークが描かれたJALの機体が登場しているんですが、この人気に便乗したJALの関連会社「ジャルパック」が、映画の舞台となったロンドンにからめて「『けいおん!』ロンドンJALパックツアー」を企画して人気を集めています。こうしたかつてのJALでは見られなかった横の連携と、チャンスを最大限に活かして利益を上げていこうという姿勢も、企業の体質が変化してきた表れの一つだと言えるのではないでしょうか」(竹内氏)
しかしその一方で、不安要素もあると竹内氏は言う。
「JALは燃料効率のいい次世代旅客機、ボーイング787(ドリームライナー)を積極的に活用することで、アメリカのサンディエゴやフィンランドのヘルシンキへの便を新たに開設するとしています。ヘルシンキは欧州便の中では比較的短い時間で行けることもあって、意外に人気が高い。その意味で路線の開設そのものはアリだと思うのですが、肝心な787に最近不具合が見つかりました。ボーイング社は問題ないとコメントしていますが、不安を感じている関係者は多いはずです」
また、787の引渡しの遅れには、最近起きた”ある事故”の影響を指摘する声もある。というのも、アメリカのボーイング社の工場で昨年、工員がJALに引き渡す予定の「787」にひかれ、足を切断する事故があったとの情報が流れたのだ。車の納車を大安に選ぶほど縁起を重んじる日本人にとって、こうした機体を引き取ることには抵抗があるはずだ。
事実、この事故との関連は不明ながら、JALは787の引き渡しが当初の予定から大幅に遅れて3月末以降にずれこむとの見通しを明らかにしている。当初のJALの計画では、3月末に「成田―モスクワ線」など3路線に787を就航させる予定だったが、これらについては引き渡しの遅れにより既に延期が決まっている。また、4月22日に新たに開設される新生JALの象徴路線とも言うべき「成田―ボストン線」にも、787の納入が間に合わないとさえウワサされている。
不安要素は787の納期だけではない。業績回復を追い風に9月をめどに目指す再上場についても、巨額の債権放棄を強いられた金融機関の抵抗感は決して小さくないはずだ。竹内氏が続ける。
「いくら業績が回復したといっても、5,800億円の債権放棄と3,500億円の公的資金導入の結果であることは間違いないですから。再上場となれば金融機関は大量の新株購入を求められるわけで、釈然としない銀行が出てくるのも当然です。場合によっては、これが原因で再上場の時期がずれ込むことも考えられそうです」
(文=浮島さとし)
AIR WORLD (エア ワールド) 2012年 03月号
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