「漫画・アニメのせいで子どもが犯される」「文章も禁止」過激発言満載の児ポ法規制推進派院内集会
#マンガ #出版 #児童ポルノ #青少年育成条例 #非実在青少年
2月14日、衆議院第一議員会館で院内集会「国際エクパット事務局長来日 今こそグローバルスタンダードへ! 児童買春・児童ポルノ禁止法(以下、児ポ法)の改正に向けて」がECPAT/ストップ子ども買春の会(以下、エクパット)の主催で開催された。エクパットの院内集会は、昨年の6月以来のことだ。
この日の集会は、撮影・録音・Twitter禁止、パソコンの使用も禁止というものものしい雰囲気で始まった。冒頭あいさつに立った、エクパット代表の宮本潤子氏は「ぜひとも今国会で改正を行い、子どもたちを残虐な虐待・性暴力から守る法律にしてもらうことを願っている。今一度、全部の政党が子どものために立ち上がってくれればと心から願います。この20年間、ひとつ進歩したことはNGOだけでなく、行政とNGO、ザ・ボディショップのような民間セクター、この問題を改善しようと思っている日本旅行業協会、インターネット協会、そしてスウェーデン大使館、日本ユニセフ協会、ヤフー株式会社のような様々な組織が私たちと共に立ち上がってくれていることです」と力強くあいさつした。続いて登壇した、スウェーデン大使館参事官のカイ・レイニウス氏は、児童ポルノの取締りには国際協調が欠かせないとして、次のように語る。
「世界中のインターネットで配信される児童ポルノだけでも、毎年10億ドルを売り上げていると思われる。犯罪組織は、積極的に子どもを犠牲にしている。捜査機関が働きやすい環境をつくるためには、国際協調が欠かせない。(児童ポルノについて)世界ではさまざまな解釈がなされているが、スウェーデン当局は単純所持禁止によって犯罪活動に対して以前よりも積極的に対応できるようになった。複雑な論点があるので、日本に単純所持に反対する意見があるのは不思議には思わない。スウェーデンでも国民による熱い議論の末に実施できるようになった。その中で出版の自由、表現の自由も論点になった。しかし、表現の自由以上に、子どもの人権擁護が重要だとして国民の合意が得られた。日本もスウェーデンと同じ議論のプロセスを歩んでいると思う」。
■漫画・アニメは性的虐待を「誘発している」どころか「利用されている」
さて、この集会のメインスピーカーともいえる、国際エクパット事務局長のキャサリン・スピーク氏は「子どもポルノ根絶に向けた国際ECPATの取り組み」と題して講演を行った。スピーク氏は、子どもの商業的性的搾取の定義を改めて解説した上で、正確な把握は不可能としながらも「ILO(国際労働機関)の報告によれば、2002年には世界中でおよそ180万人の子どもが買春またはポルノによる性的搾取の被害にあっているとされている」「子どもや青少年の性的搾取に対する社会的な許容も増加している」「商業目的の子どもポルノは年間数十億ドルの産業規模である」「インターネット上に100万枚以上の子どもポルノ画像が存在する」「児童虐待の既存の手法はインターネットの普及によって、より手軽で危険の少ないものになってしまっている」「ウェブサイトに提示されている画像の児童虐待の深刻さが増しており、被害に遭う子どもの年齢もより幼くなっている」と報告。その上で、日本政府に対しては「子どもを守るために、国際的な基準と最善の取り組みを参考にしながら、法案の作成を行うよう求める。
「表現の自由はあらゆる国において絶対的ではなく、制限の下にあるものである。社会全体が表現の自由に対する制限を認識するのは、特にそれが他の価値や権利と矛盾する場合である。子どもたちが性的搾取から自由な状態の中に生きる権利は、表現の自由に優先されるべき権利の一つである」
これに続く発言はさらに踏み込んだものだった。国際エクパットが、成人向け漫画やアニメに対するスタンスを明らかにしたからである。
「たとえ成人向け内容の物において描写される子どもが実在しないとしても、こうしたヴァーチャルの子ども虐待画像は実際に子どもたちが性的に虐待あるいは搾取を受ける危険を高めている」(スピーク氏)
すなわち、成人向け漫画などを通じて、実在の子どもたちが被害を受ける可能性があると指摘するのだ。スピーク氏は具体的な危険例として「子どもの性的搾取についての社会的許容を推奨している」「子どもとの性的行為を正常であるかのように思わせている」「画像が急速かつ広範囲に流布されるのに寄与している」「子どもの性的虐待描写物への需要を増大させている」そして最後に、「ヴァーチャルな子ども虐待画像は子どもを手なづけたり、誘惑する際に用いられている」とした。
■漫画・アニメだけではダメ! 「文章も音声も規制対象に」
続いて登壇した国際エクパットの法律担当スタッフ、フランソワ・エックセヴィエ・スーチェ氏も「子どもポルノ/子ども虐待画像と闘うための鍵となる法的な問題と課題への理解に向けて」と題した報告の中で「ヴァーチャルな子どもポルノ」について言及した。スーチェ氏は「児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」「サイバー犯罪に関する条約」「欧州評議会子どもの性的搾取及び性的虐待からの保護条約」を論拠に、ヴァーチャルな画像や表現も犯罪にあたると主張する。そして、「ヴァーチャルな子どもポルノ」の問題点として、
「そのような視覚的画像は、虐待者の子どもへの不適切な感情や行為を増大し、また子どもの性的虐待や性的搾取に対する社会的許容を生み出す。さらに、これらの描写物が性目的のために子どもたちを誘い出す行為に用いられる」
と、先のスピーク氏の発言を補強する形で述べた。その上で、フィリピン・カナダ・アイルランド・ニュージーランドなどで既に「ヴァーチャルな子どもポルノ」が犯罪となっていると解説。
「子どもの性的行為への関与を助長する、あるいは描写する音声や文章は、犯罪とされるべきである。同時に、関連する国際的な法的基準によれば、子どもを表現した漫画、アニメ、コンピューターゲーム、デッサンなどは禁止されるべきである」(スーチェ氏)
最後に登壇した日本ユニセフ協会広報室長の中井裕真氏は、インターネットのブロッキングが非常に進んできたことに言及し、
「児童ポルノに対する取り組みは、止まっているのではなく進んでいる。ただ、法改正の部分だけは取り残されている」
と、重ねて単純所持禁止の導入を訴えた。
■単純所持を禁止するために「ウラの人間関係を調整中」
これまでになく、漫画・アニメなど「ヴァーチャルな子どもポルノ」に対する規制にまで踏み込んだこの集会。その最大の目的は、国会議員に向けたアピールだ。日頃の活動の成果なのか、多くの国会議員の発言もあった。
公明党副代表の松あきら参議院議員は
「いったい何年、児童ポルノ法の会議をしなければならないのか。私たち公明党と自民党で単純所持禁止の改正案はもう出している。けれども、残念ながら、その法案が通らない。与野党関係なく、一刻も早く単純所持の禁止を盛り込んだ改定を行いたい」
と力強く述べる。同じく公明党の富田茂之衆議院議員は2年半前の児童ポルノ法改定をめぐる協議における合意点を振り返り、政権交代があってから民主党が、改定の協議に応じなくなったと批判する。
「2年半前の話し合いでは『みだりに児童ポルノを所持してはならない』『ことさらに児童の性的な部位が強調されていること。性的な部位はでん部なども含む』ことは合意していた。また、所持の禁止に関しても”自己の意志によって所持・保管するに至ったもの”であり、かつ当該者であることが明らかに認められるものに限るという文言を挿入することも合意していた。既に所持しているものの取り扱い以外は合意に達していた。協議ができれば、いつでも単純所持の罰則付き禁止は行える」
と、民主党への働きかけを呼びかけた。政権与党でもある民主党を力強く批判する自民・公明党の国会議員。中でも過激だったのが、衆議院の青少年問題に関する特別委員会の理事でもある、自由民主党のあべ俊子衆議院議員だ。質疑応答の際の「民主党に働きかければ、法改正はすぐに行われるのか」という質問に対して、あべ議員は次のように答えた。
「民主党の中に、何人かの表現の自由などを主張される方がいる。これは、その方々をみんなで嗅ぎつけて、なんとかなるものなのかも含めて、いま裏の人間関係を含めて調整しているところです。(表現の自由を主張する議員は)理論的なところではなく、個人的な価値観で指摘している」
いったい「裏の人間関係」とは、どういうものだろうか?
質疑応答では、「バーチャルな児童ポルノと子どもの相関関係を示している文献があれば、教えてほしい」という質問も。対する答えは「残念ながら、明確なものは存在しない」というものであった。
■規制に慎重な人々を閉め出した目的はどこにあるのか
今回の集会が昨年6月の集会と大きく異なったのは、まず第一に漫画やアニメなど「ヴァーチャルな子どもポルノ」にも、大きく踏み込む形で発言が行われたことだ。そして、もう一つ、集会参加が事前申込み制となっていたこと。その上で、児ポ法改定に慎重な立場を取る市民団体関係者の申込みに対しては「エクパットの趣旨に賛同している方向けの集会」であるという理由で、参加を拒否していることもわかっている。そこまで、集会を秘密にする必然性が、どこにあったのか甚だ疑問である。また、この日、幾人かの登壇者が発言したが、6月には児童ポルノ禁止の熱心な活動家であるスウェーデンのシルヴィア王妃が来日する予定だ。07年に彼女が来日した際にもスウェーデン大使館では児童ポルノの規制強化を求めるシンポジウムを開催している。6月には、ひとつの大きな山があるかもしれない。
(取材・文=昼間たかし)
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