ヒロイン全員が障害者の恋愛ゲーム「かたわ少女」開発チームインタビュー
#ゲーム #同人
実は、完成を心待ちにしていた人が多かったのではないだろうか。1月4日、待ちに待った同人ビジュアルノベル「かたわ少女」完全版がついにリリースされた。タイトルが示す通り、本作は主要登場人物がほどんど障害者という、前代未聞の設定の18禁ビジュアルノベルだ。両足の膝から下がないツインテール少女。ろうあ者の生徒会長、両手がないけど絵を描くのが好きな少女……。物語は、先天性の心臓疾患を抱える主人公の視点で進んでいくことになる。
そして、本作のもう1つの特徴が、開発スタッフがほぼ日本人以外で進められたこと。開発の始まりは10年以上前に遡る。きっかけは、英語圏で著名な画像投稿掲示板である「4chan」に投稿された「こんなエロゲーあったらいいな」という趣旨の、日本の同人誌(RAITA氏の同人誌『Schuppen Harnische』)のスキャン画像だった。障害を持つヒロインたちの、たった1ページだけのイラスト。それを見た人々の間でゲーム化案は盛り上がり、幾度かの停滞を見せながらも、ついに1本の作品に仕上がったのだ。同人誌が作成されたのは2000年、実際にゲーム化の作業が本格化したのは07年頃からだというから、そこに開発者らの完成に向けた強い意志があったことは想像に難くない。
筆者もできない英語にヒィヒィしながらゲームをプレイしている最中だが、本作は単に障害をネタにして扱う作品では断じてない。本気で感情移入できるクオリティの高い作品なのだ。しかも、膨大なボリュームにもかかわらず無料配布しているのだから、驚く。一体、こんな驚きのゲームを開発したのはどのような人々なのか。日本語翻訳チームを通じて、開発者を取材した。
――最初、開発が呼びかけられたのは「4chan」だと聞いています。まったく、初対面の方々が集まったんですか?
開発チーム氏(以下、開) そうですね。イラストレーターについては1人を除いて全員が知り合いでしたが、彼らはプロジェクトの途中から一緒に参加しました。彼ら以外は、お互いにまったく面識がありませんでした。
――開発者ブログで「かたわ少女の歴史」を読みました。ゲームの開発が呼びかけられるほど、RAITA氏のコンセプトアートには魅力があったのだと思いますが、具体的にはどういった部分ですか?
開 それは人それぞれです。初期の段階で人々が魅了された理由の多くは、元絵のアイデアが実際にゲームを作りたくなるほど異国情緒にあふれていて、ワクワクするような際だった内容だったという点にあると思います。また、今の日本の高校という舞台もなじみやすいもので、それでいて自由な想像の余地を残していました。キャラデザインもバラエティに富んでいて、多くの人たちが少なくとも1人はお気に入りのヒロインを見つけることができました。元気っ子キャラが好きな人は「笑美」に興味を抱く一方、ツンデレキャラが好きな人は「静音」に引かれる、といった具合です。
障害というアイデアはつかみとしては非常に有効でした。本当に珍しいものだし、潜在力を秘めていました。プロジェクトが最初に立ち上がったとき、障害というテーマにどのようにアプローチすべきか、誰もが異なる考え(荒々しい抜きゲーから、「narcissu」のような地に足の着いた現実的な鬱ゲーまで)を持っていました。
――開発にあたっては、どのような形でコミュニケーションを取っていたんですか? オフラインで会合を開くこともあったのでしょうか?
開 コミュニケーションは、主に掲示板(フォーラム)とIRCという2つの手段が使われました。掲示板は決まった情報を書き留めるには非常に役立ちました。一方、IRCはもっと自然な形で議論をするために徹底的に活用しました。掲示板は事務所のホワイトボードのようなもので、IRCは自分たちが仕事をする事務所そのもののようなものでした。開発中、常に話し合いを続けるというわけです。すべての開発者はIRCに毎日出入りをしていました。時差のために多少の困難はありましたが。
開発者同士がニアミスをしたことは何度かありましたが(数時間違いの差で別の飛行機に乗ったなど)、実際にオフラインで会って話をしたのは2回だけです。とても珍しいことで、偶然の出来事でした。すべての作業はオンライン上で行われています。
――「かたわ少女の歴史」によれば、07年の時点で一度、開発は停滞しました。それでも制作を続けようと思った理由はなんでしょうか?
開 07年に起きた重大な問題は、ライターはいても絵がまったくないということでした。いつか絵の描ける人が加わってくれるかもしれない、という希望だけで作業を続けていたようなものでした。その後、奇跡的に6人のイラストレーターが加わってくれました。こういう厳しい時期を「かたわ少女」プロジェクトが乗り越えられたのは、ほかの開発者仲間に対する責任感のためだと思います。誰かがプロジェクトから脱落したら、これまでに作り上げた成果を無駄にし、ほかのみんなをとても苦しい立場に追いやることになります。これは一種の仲間意識につながったといえるかもしれません。
――開発にあたって参考になった日本のゲームなどはありますか?
開 どの開発者も作業のやり方には外部からいろんな影響を受けています。プロジェクト全体にとって最も影響の大きかった2つの作品を上げると、「To Heart2」と「narcissu」だと思います。前者はイラストに、後者はテキストに影響を受けました。
絵描き集団がプロジェクトに加わったとき、最初に決めたことの1つがゲーム中の絵柄でした。各人がそれぞれの流儀を持った絵描き集団ですから、なんらかの共通の基準を決める必要がありました。いくらかの議論を経て、甘露樹(leafのイラストレーター)氏の作品を彷彿とさせる絵柄に落ち着きました。絵描きたち全員がとてもリスペクトしている作家です。「To Heart2」に似た絵柄はどの絵描きも描けるし、「かたわ少女」にも合うと全員が考えました。氏の絵柄はかわいらしく快活ですが、落ち着いていてどこか現実味のあるものでした。
「narcissu」はゲーム中の感情の使い方が、ライター陣の多くに影響を与えました。ゲーム全体が中心的なプロットを軸に、とても注意深く組み立てられています。そしてプレイヤー自身の気持ちをうまく利用することで、メロドラマ風に陥ったり、テンションを上げすぎたりすることなく、プレイヤーの関心をかき立て、感情を揺り動かすことができていました。
――システムが日本人にもなじみ深いビジュアルノベルの形式で違和感なくゲームを楽しむことができました。これまでも日本のゲームはプレイしたことはありましたか? また、海外では日本のゲームはどのような形で流通しているのですか?
開 すべての開発スタッフはビジュアルノベルをプレイしています。人によっては1、2本しかやっていませんし、たくさんプレイしている人もいます。お気に入りのブランドのウェブサイトや、「TECH GIAN」「G’sマガジン」などでビジュアルノベルの新作を常にチェックしている人もいます。私自身のお気に入りはリトルウィッチの「Quartett! 」です。一部のスタッフの期待の作品は、天狐の「英雄*戦姫」です。
――ビジュアルノベル形式を選んだ理由は?
開 最初にプロジェクトの案が出たとき、多数の人の目を集めた要素の1つが、自分たち自身が大好きなジャンルのゲームを作る機会が得られる、ということでした。とても早い段階で、「かたわ少女」はビジュアルノベルの形で制作するという決定がなされました。以来、それを変えようという試みは一度もありませんでした。
――物語の舞台を日本にした理由を教えてください。
開 たくさんの人にとって、多くの作品で使われる日本という舞台設定はビジュアルノベルの魅力の1つなのです。異国情緒があって関心を抱かせる程度には物珍しさがありますが、珍しすぎてほとんどのプレイヤーになじみがない、というほどではありません。開発が進む中で、「現代日本の高校を舞台にしたビジュアルノベルは山ほどあるのだから、舞台設定を変えないか」という意見が一部のメンバーから出ましたが、変更するには時すでに遅しでした。
――さまざまな国籍の人が協力して制作していると聞いています。メンバーの国籍について、教えてください。
開 オーストラリア、アメリカ、フィンランド、イギリス、イタリア、ドイツ、カナダ、そしてインドネシアです。なかなかの顔ぶれですね。
――英語版を公開してから、ダウンロード数はどれくらいですか?
開 残念ながら、私たちにはダウンロード件数を計測する手段がありません。ただ言えることは、ゲームのインストーラファイルを直接ダウンロードできるようにしたことが3回あったのですが、そのたびにダウンロードしようとする人たちが殺到して、数分でサーバーが過負荷状態になってしまいました。なので、相当多くの人がプレイしているようです。
――これまでに寄せられている感想のうち、印象の強いものを教えてください。
開 ゲームをリリースした当初は、Act1(体験版)に反応したようなところから、ほどほどに好印象の驚きのような反応がきてそれでおしまいだろう、という程度に考えていました。リリース後の数日間、たまげるほどの感動的な反応が津波のような怒濤の勢いで盛り上がりました。これは私たちの想像をはるかに超えるものでした。私たちが感銘を受けた反応はいくつもあります。1つや2つの逸話では到底足りません。自分の人生をよりよいものにするために教育を受ける道に進み始めた人、とぎれた人間関係を取り戻した人たち、恵まれない人を助けるために寄付をする人たち。そして全般に、多くの人々が自分自身、そして周りの人たちの暮らしをよりよいものにしよう、と決心しました。「かたわ少女」が人々にこのような影響を与えるのを見るのはうれしいですね。
――ボリュームはフルサイズですが無料で提供されています。無料で提供することにした理由は?
開 私たちは「決して金銭をプロジェクトにかかわらせない」という理念のもとに開発を始めました。この理念を掲げたことにはたくさんの理由があります。一番大きいのは、一度お金がかかわり始めると、開発の雰囲気が大きく変わってしまうことです。これほど大人数、かつ外部からの協力者も多いチームで、誰がどれだけお金をもらうかを決めるのは非常に難しいことです。私たちがこのゲームを作り始めたのは、シナリオ書きや作曲や絵を描くこと等々が好きだったからです。その気持ちのおかげで、私たちはお金を必要とすることなく、最後までやり通すことができました。
――日本語版のリリースはいつ頃を予定していますか?
開 現時点ではなんとも言えません。日本語訳チームが鋭意翻訳中ですが、今のところ日本語版のリリース時期はかたわ少女本編と同じく、「完成したら」といえるでしょう。
――日本語版リリースのときには、コミックマーケットなどでの頒布も考えていらっしゃいますか?
開 可能性はあります。これまで、日本のイベントでの頒布は日本語訳チームが行っています。彼らは素晴らしい仕事をしてくれています。現地の即売会に私たちの作品が並ぶというのは本当にすごいですね。
――これまで、日本でも障害者を扱ったゲームはほとんどありません。そのため、まだ、もの珍しさで注目されていると思います。
ぜひ、多くの方々にプレイしてもらうためにも、日本のゲームファンに一言メッセージをいただけますか。
開 「かたわ少女」を作り始めたとき、私たちは自分たちが満足するだけのゲームを作ろうとしたのではありませんでした。自分のために書くだけでは自己満足の域を出ないと思いました。私たちの目標は人々を楽しませること、商業ビジュアルノベルに匹敵する記憶に残るゲームを作ること、ほかの誰とも違わない人たちについての、普段語られることのない物語を伝えることでした。この目標は達成することができたと思っています。そしてみなさんにも、「かたわ少女」に登場する興味深い人物たちの物語を読んでいただければと思います。
(取材・文=昼間たかし)
●「かたわ少女」オフィシャルサイト(日本語)
<http://katawa-shoujo.com/index.php>
※現在、英語版がダウンロード可能。
【編集部より(2012年2月21日追記)】
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