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国家の秘密を取材したら逮捕!? 「秘密保全法制」でマスコミは犯罪者に?

 取材や学術研究目的で政府の動向を調査していたら逮捕されてしまうのか? 政府が2012年度中にも法制化を目指している「秘密保全に関する法制(秘密保全法制)」をめぐって、新聞・雑誌関係者から強い反対の声が上がっている。

 「秘密保全法制」とは、「国の安全」「外交」「公共の安全および秩序の維持」の各分野にかかわる情報を「特別秘密」として、漏えいした場合に懲役5年以上10年以下の厳罰を科すというもの。さらに、事前に「特別秘密」に関与する者(担当する公務員など)の、家族や親族などの身辺調査も行うことを定めることになっている。

 問題となっているのは「特別秘密」の定義の曖昧さだ。何が「特別秘密」なのかを定義するのは政府側に委ねられるので、時の権力者に都合の悪い情報が秘密とされてしまう場合もある。また「特別秘密」の漏えいを教唆、誘惑、扇動した者も罰することを目指しているとされるから、取材から学術目的の調査に至るまで公務員から情報を得るさまざまな行為が「犯罪」になってしまうのだ。「国に都合の悪いことを取材したり調査したりすることを禁止する」と言っているに等しい法案である。

 国家機密に関する法律は既にいくつも存在する。自衛隊法には防衛秘密漏えい罪があるし、国家や地方を問わず公務員の守秘義務も既に法律で定められている。ハイレベルな国家機密に関しては、これまで一度しか適用されたことのない「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」というものもある。にもかかわらず、あえて新法の制定が目指されているのはなぜか? 

その原因は、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件のビデオ流出問題である。既に知られている通り、海上保安庁の撮影した映像が、海上保安官の手によってインターネット上に流出する前代未聞の事件。これに慌てた政府が「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」などを設置。昨年11月に「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」が早急に法整備を行う旨の報告書を提出するに至ったのである。

 折しも原発問題やTPPなど、国家の存亡にかかわるさまざまな議論に満ちあふれている現在、こんな法律ができてしまえば何も報道ができなくなってしまう。2月8日、日本弁護士連合会が主催した「秘密保全法制と報道の自由について考える院内集会」が参議院議員会館で開催され、140名あまりが集まった。ここで驚いたのは、「反対」がテーマの集会のはずなのに、政権与党であるはずの民主党議員も参加していたことだ。

■政権与党の議員も知らずに進む法案

 あいさつに立った民主党の辻恵衆議院議員は、「こんな(法案を検討する)委員会があるとは知らなかった」と、いきなり民主党の悪しき側面である党内の意思疎通の不完全さを示す爆弾を放つ。その上で「この法案は重要性でいえばCランク。すなわち、今国会で提出を目指す法案であり、まだ法制局での条文作成も進んでいないと思われる」と説明。

辻議員は、まだ条文もできていない法案であることを説明したかったのかもしれないが、「知らなかった」と正直に話してしまったインパクトは大きかった。報道関連団体からの意見表明で壇上に立った、日本雑誌協会編集倫理委員会委員長の山了吉氏は辻議員の発言に「驚いた」と語り、次のように続けた。

「なぜ、開かれた政府を目指すとしていた民主党がこのような法案を進めているのか理解に苦しみます。民主党の中にも従来の自民党と同じ要素が芽生えているように思えます。そもそも、雑誌は新聞・放送と違い怪しい情報を流すことが多いもの、確実性や正確性に疑いがあっても、疑惑を報じるのが役割です。民主党はそうした報道に対する配慮を、憲法に立ち返って考え直すべきでしょう」

 さらに、日本マスコミ文化情報労組会議議長の東海林智氏は、「正当な取材活動は処罰にならないとしているが、まったく信用できない」という厳しい意見を述べた。

 また、基調報告を行った齋藤裕弁護士によれば、国会議員が調査目的で「特別秘密」を取得しても罪に問われる可能性があるという指摘も。どう考えても国益を守るどころか損なう法律としか思えない。

 多くの人が発言した院内集会だが、中でも出色だったのが西山太吉氏である。西山氏は1971年に、当時の佐藤栄作内閣が沖縄返還協定に際してアメリカが支払うべき地権者への土地の原状回復費400万ドルを実際には日本政府が肩代わりする密約を結んでいた事件に関わる人物。当時、毎日新聞の記者だった西山氏はこの情報を入手したのだが、外務省の事務官の女性に酒を飲ませた上で男女の関係を結んだ上で情報を入手したこと、すぐに記事にせずに社会党議員に漏えいしたことが非難の対象に。結局、スキャンダラスな部分ばかりが注目の対象になり密約の有無は闇に葬られてしまった(その後、アメリカで機密解除されたことで公文書記録管理局にて存在が確認された)。もう70歳を過ぎている西山氏、順番まで椅子に座っている時には寝ているのか起きているのか、文字通り「よぼよぼ」という感じだったのに、壇上に立った途端、背筋がピンと伸びてとうとうと話し始めた。

「戦後、日本において官僚が内部告発した事例なんてひとつもない。(沖縄密約のように)すべてはアメリカ経由でもたらされた情報です。(秘密保全法制の)有識者会議は、そうした歴史認識がまったくない。歴史を身体で知らないんです」

 日本の戦後史に即しつつ秘密保全法制の問題を語った西山氏だが、やはり話しているうちに次第に熱がこもって元気になっていく様子が分かる。密約の有無が単なるスキャンダラスな報道にシフトしてしまい、数十年の雌伏を余儀なくされた情念は深いのか……。

 ひとたび成立してしまえば、国民が知り得るべき情報がなきものにされてしまう秘密保全法制。ただ、報道関係者を除けば当事者意識も希薄で、危機感が薄いのは確かだろう。それでも国家のさまざまな情報を「知っているけど興味がない」というのと「そもそも知らない」というのは大きな違いだ。「報道の自由」と大上段に構えなくとも、ヤバい法案であることは間違いない。
(取材・文=昼間たかし)

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最終更新:2013/09/09 16:12
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