ドイツは欧州危機大歓迎!? したたかな欧米の為替戦略に翻弄される日本
欧州債務危機問題が一向に収束しない。その動きを反映して、2010年のギリシャ財政危機をきっかけにしたEUの通貨「ユーロ」安トレンドは止まらずに、現在、01 年6月以来、約10年半ぶりに1ユーロ=100円を割り込んでいる。一体、ユーロはどこまで安くなるのだろうか?
為替を中心に国際金融市場動向の分析をし、新刊『為替占領』(ヒカルランド刊)が市場関係者の間などで話題となっている、元為替ディーラーの金融コンサルタント・岩本沙弓氏に話を聞いた。
「ユーロ円相場の史上最高値は00年10月末の1ユーロ=88円台ですが、90円あたりが定常的に落ち着くターゲットになりやすいです。ユーロは短期的に売られすぎた分、買戻しが入ると思いますが、2016~17年までの長期スパンではダラダラとユーロ安が続いていくでしょう。一方ユーロの対ドルレートは、現在1ドル=0.75ユーロ(2月3日時点)前後ですが、近いうちに『1ユーロ=1ドル』時代に突入する可能性もあります」
欧州債務危機=ユーロ安がこれから長期間続くとなっては、輸出企業に打撃の円高ユーロ安に苦しむ日本にとっては、たまったものではない。欧州の中では経済が抜きん出る強国・ドイツが、財政危機のギリシャなどに救済の手を差し伸べることはないのだろうか?
「なぜドイツはギリシャ救済に躊躇しているのでしょうか? ”自分たちが汗水垂らして働いている時に呑気に遊び暮らしていたギリシャ人を血税で助けてあげるなどとんでもない”というドイツの言い分もわかります。ですが、経済危機は放っておけば時間と共に深刻化しますから、なぜあえて危機を長引かせるようなことをするのか。そこには、ドイツの通貨戦略があります。あえて財政危機のギリシャをEU内に抱え込むことで、EUの通貨・ユーロを通貨安の方向に持っていこうという戦略に沿って動いているのです」
為替の世界では、通貨を発行する国の財政状況が悪化すれば、通貨安の方向に向かうというセオリーがある。一方で通貨安となれば、輸出入の視点では「自国に対する相手国の購買力増加→相手国への輸出量増加」につながる可能性が高い。
つまり、ドイツはギリシャをEU内に抱え込むことでユーロ安の方向に持っていき、輸出を拡大させようという通貨戦略をとっているのではないか、と岩本氏は裏読みをするのだ。
「1月3日付の英ファイナンシャル・タイムズは、昨年12月にドイツの失業率が、他国の高失業率をよそに著しく低下し、20年来の低水準6.8%になったことを伝えています。20年前といえば東西ドイツ統合で景気がバブル化していた頃ですから、それ以来の好景気を謳歌していることになります。記事の中では、製造業を中心に企業が高収益を上げ、特にドイツの大手自動車メーカー・アウディが、今年中の雇用増を言明していることなどを例として挙げています。この好調なドイツ経済を支えているのが輸出産業です。例えば、アジア市場でもドイツ車の販売は伸びているんです。日本でもドイツ車がますます売れていますよね」
つまり円高ユーロ安の還元セールは、ますますドイツ経済を好調にしているのだ。
「世界各国の国家戦略の中で重要な政策のひとつが通貨戦略なのです。例えばアメリカは、オバマ政権が打ち出した輸出倍増計画のために、(円高)ドル安政策をとっています。今年の大統領選で再選するために、オバマ政権はこの政策をますます推進させるでしょう。この動きを日本は指をくわえて見ているだけですが、アメリカとの輸出を競うドイツは、なんと財政危機のギリシャを利用してユーロ安の方向をつくり出しているのです」
アメリカの通貨戦略によって、1ドル=59円まで進みかねないといったアメリカの通貨戦略については、岩本氏の最新刊『為替占領』を読んでいただくとして、ドイツが欧州危機に対して積極的に関与しようとしない背景には「欧州危機はドイツにとって好都合」というカラクリがあるようだ。
(取材・文=松井克明)
●いわもと・さゆみ
1991年より日米加豪の金融機関にてヴァイス・プレジデントとして外国為替、短期金融市場取引を中心にトレーディング業務に従事。日本経済新聞社発行のニューズレターに7年間、為替見通しを執筆。金融機関専門誌「ユーロマネー誌」のアンケートで為替予想部門の優秀ディーラーに選出。現在、為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、英語を中心に私立高校、および専門学校にて講師業に従事。主な著作に「新・マネー敗戦」(文春新書)など。
ふむふむふむ。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事