空自の次期主力戦闘機はF-35決定でホントに大丈夫?
#自衛隊
航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)が、大方の予想通り米ロッキード・マーチン社のF-35A(以下F-35)に決定した。防衛省では平成24年度予算案に、完成機4機分の費用600億円(関連器材205億円含む)を計上。正式発注がされれば28年度中に最初の機体が日本に届く。前評判が最も高かったF-35の決定に多くの専門家は肯定的だが、選考過程に多くの疑問が残されているのも事実だ。機体の納期遅れも懸念されており、同じくF-35の導入が決定しているオーストラリアでは、既に契約済みの2機を除く残りの12機について、調達計画を見直して保留すると発表。はたして日本の決定は大丈夫なのか? 航空専門誌『エアワールド』の竹内修編集長に、F-35決定までの過程と今後の展望を聞いた。
(聞き手/浮島さとし)
――航空自衛隊の次期主力戦闘機がようやくF-35に決まりました。
竹内氏(以下、竹内) F-35の導入自体には、私も異論はありません。ロシアや中国がそれぞれT-50、J-20という高いステルス性を持つといわれている機種の開発を進めている以上、F-35を日本の装備に加えることは必須だとも考えています。ただ、選定過程において疑問視せざるを得ない点がいくつかあるのも事実です。
――具体的にはどんなことでしょうか。
竹内 防衛省は今回の選定で、候補に挙がっていた機種を4つの項目に分けて、それぞれ点数を割り当て、総合点数の最も高かった機種を選択するという方法をとりました。具体的には、【1】性能に50点、【2】経費に22.5点、【3】国内企業参画に22.5点、【4】後方支援に5点で、仮に満点であれば100点ということになります。
――やはり性能面の配分が最も高いわけですね。
竹内 そうです。「性能」に関しては、飛行性能やステルス性といった機体性能や火器管制レーダーの目標処理能力やミサイルの同時管制能力などを評価した上で、日本の装備体系に組み込まれた際に十分に能力を発揮できるかなどをシミュレーションし、その結果が50点満点という大きな配点で反映されたわけです。このシミュレーションは「オペレーションズ・リサーチ」という、軍事分野において最もポピュラーな手法が使われているのですが、問題はこれに用いられた数値なんです。
――シミュレーションに使われたデータに問題があったということですか。
竹内 3候補のうち、F/A-18Eとユーロファイター・タイフーンは既に実戦部隊に配備されていますし、実戦も経験していますから、そこで得られた数値でシミュレーションをしたと考えられます。ところが、ご承知の通りF-35はまだ実戦配備されておらず、実戦も経験したことがありません。では、どこからデータを持ってきたのか。実は防衛省はそれを明らかにしていません。考えられるのは、開発サイドが発表している目標値の類ですが、実戦経験から得たデータと、期待値でしかないカタログデータを同じ土俵で比べた結果に大きなウェイトを置くことが、はたして適切だったのかという問題です。
――必ずしもカタログデータ通りとは限らない。
竹内 実際に米国防総省のある高官が、「F-35のステルス性はカタログデータほどではない」と指摘したことが、米軍の機関紙「スターズ・アンド・ストライプス」で報道されています。既にF-35に関しては、試験中に機体に亀裂が生じたという問題が昨年12月に発覚して物議を醸しましたが、こうした一連の事態を受けて、F-35プログラムの開発責任者の一人は、「多くの問題が解決するまでF-35の生産ペースを落とすべきだ」と「AOLディフェンス」の電子版で提言していますし、今年1月4日のロイター通信によれば、国防総省の複数の高官も生産ペースの見直しを示唆したと報じており、その場合に120機以上の生産が遅延すると警告しています。さらに、アメリカは今、国防予算の大幅な削減を行っています。F-35の開発自体は継続していく方針ですが、生産ペースは落とす方向のようです。そうなった場合、最初に発注する4機はともかく、それ以降の発注分は1機あたりの価格が大きく膨らむ可能性が指摘されています。
――防衛省は平成28年度に最初の4機を導入する計画ですが、仮に遅延した場合の補償など、国は契約を遵守させるための手段を講じているのでしょうか。
竹内 実はアメリカ側からは誓約書を一筆書いてもらうという話以外に何も決まっていないのです。具体的にいうと、「取得段階および運用段階においても厳守する」という誓約書を、航空幕僚長宛に提出させるということのようなのですが、アメリカが誰の名前でそれを書くのかも決まっておらず、その文書に法的効力もありません。従って、今の段階では万が一遅延しても何も補償を得ることはできないということです。
――責任の所在も曖昧な単なる紙きれだけしか策を講じていない。
竹内 もう一つ気になるのが、空自のパイロットが試乗した評価が、今回の選定にまったく反映されていないという点です。防衛省では、試乗した少数のパイロットの感想を反映させてしまうと公平性が保てないと説明しています。一見合理的に見えますが、過去のFX選定では、どの程度それが反映されたかは別にして、試乗を行ってきています。日本と同時期に新戦闘機の選定作業を行ったスイスやインドでは、候補機を自国に持ち込んでテストを行っています。気象条件や運用環境の異なる環境で、カタログデータ通りの性能が発揮できるかどうかを見極めるのは当然のことですから。
――性能も納入時期も不安が残る段階で決めてしまったわけですが、導入を予定している他の国はどのような対応をしているのでしょうか。
竹内 日本と同様にF-35の導入を決定しているオーストラリアは、納入遅延に備えて既に導入済みのF/A-18Fの追加導入を検討していると報じられてきました。最悪の事態を想定した対策を講じておくのは、危機管理の原則からいっても当然なのですが、日本の政府がそれをしてきたという話は聞こえてきません。また、オーストラリアは1月30日のスミス国防相の会見で、調達を保留するとの決定を発表しましたが、日本の田中防衛相は先の国会で「日本の配備時期に一切変更はない」と答弁しています。これがどこまで状況を理解したうえでの発言かはわかりませんが、正確な情報を掴んだ上で、あらためてしっかりとした議論をしてほしいところです。
――F-35決定でFX問題は終わったかのような報道が多いですが、問題は山積みですね。
竹内 終わりどころか、ある意味では、ようやく始まったとさえいえる段階です。そもそも、F-35は従来の戦闘機とは一線を画する兵器システムで、その持てる高いポテンシャルを最大限に引き出すためには、法整備を含めた運用体系の見直しも必要です。例えば、F-35の特徴の一つはステルス性能ですが、これは敵に気づかれないうちに目標に接近して先制攻撃する際に能力を発揮します。つまり、専守防衛の原則下では宝の持ち腐れになりかねないということです。そのうえで、F-35を中心に据えた航空自衛隊の編成や、さらには陸海空の自衛隊全体のシステムの再構築が必要となるでしょう。いずれにせよ、空自のFX問題については今後も推移を注意深く見守っていく必要があるでしょう。
※インドは1月31日、次期戦闘機に仏製のラファールを126機購入すると発表。同機はアフガニスタンやリビアでの作戦で実績がある。完成機18機が3年以内に納入され、それ以降は全てインド国内でのライセンス生産となる。技術移転による国産化にインド経済界からの期待は大きい。
1/144 F-35A ライトニングII 空軍型 試作2号機
ヴィジュアルはイケてる。
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