ついに「200円丼」時代に突入か? 『金の蔵Jr.』も参戦する牛丼戦争の舞台裏
【プレミアサイゾーより】
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──2010年、激安居酒屋ブームの火付け役となった三光マーケティングフーズの「金の蔵Jr.」。同社は、圧倒的な勢力を見せつけた同店の出店を完全にストップし、ついに牛丼チェーンの展開を始めた。すき家が打ち出した価格競争によって激化した丼ぶり戦争に、まだ、新参者の同社に勝ち目はあるのか?
吉野家・すき家・松屋が三つ巴の死闘──。牛丼業界の値下げバトルが終わらない。2009年頃から乱発される値下げキャンペーンは、ついに吉野家が270円、すき家が250円、松屋が240円という未知の領域に突入した(11年11~12月)。そしてさらに、その抗争に新展開が起きているという。首都圏の駅前には新顔の丼ぶりチェーンが次々に参入。上位チェーンに新強豪が躍りかかる、肉のバトル・ロワイアルが幕を開けたのだ。
まずは、激安居酒屋チェーン「金の蔵Jr.」で外食産業の台風の目となった三光マーケティングフーズ傘下の「東京チカラめし」。「焼き牛丼」で勝負をかけ、牛肉、玉ねぎなどを煮込んでご飯にかける従来型牛丼とは一線を画する。さらに、学生街のラーメン屋を発祥とし、ここ数年で首都圏に勢力を伸ばす「伝説のすた丼屋」。こちらは豚肉をドカンと盛ったメガ盛り丼だ。600円という価格ながら、圧倒的なボリュームで若いサラリーマン、学生層の胃袋をわしづかみにしている。最近では「すためし どんどん」「名物 すた丼の店」「吉祥寺どんぶり」など、類似店が多数登場するほど。ただ、3大牛丼チェーンが進めてきた、”200円台”での価格競争も、もはや限界ギリギリとも思える。そんな中、新規参入組に勝機はあるのか? 物流コンサルタントの坂口孝則氏に聞こう。
「『牛丼チェーンは価格競争のチキンレースが続いて薄利多売であり、決して儲かる商売ではない』。実は、そんな分析は適切ではありません。まず、11年度の売上高を見てみましょう。すき家やなか卯を抱えるゼンショーホールディングスが3707億円、吉野家が1713億円、松屋フーズが700億円。日本の外食産業において最大店舗数を誇るマクドナルドで3200億円程度という数字を考えると、牛丼市場の規模の大きさがわかりますよね。営業利益としては、ゼンショーが4・8%、吉野家が3%、松屋が6・6%。もちろん、メインメニューである牛丼だけでは薄利多売になってしまいますが、牛丼並盛りしかおいていない店はないでしょう? どこも、トッピングやサイドメニューを充実させ、客単価をあげている。実はこれ、スーパーマーケットのビジネスモデルと同じなんですよ。他店より安い目玉商品を1とすると、他店並みの商品を7、他店より高いものを2にする。目玉商品を目的として来たお客さんに、通常の利益が出せる他店並みの商品、もしくは他店より利益率の高い商品を一緒に購入させることで、利益を生み出しているんです」
震災などの影響で外食業界は意気消沈しがちだが、値下げキャンペーンを乱発してもなお、利益を残せる。牛丼業界の優位性はまだ高いようだ。
「その上、M&Aを積極的に展開してきたゼンショーをはじめ、チェーン展開をしている店はどこも、グループシナジーを生かせる企業ばかり。和食、すし、うどんなどのチェーンを傘下に収めることで、食材の共同調達、他業態のアイデアを生かした商品開発が可能になります。この相乗効果は見逃せません」(同)
また、牛丼並盛り最安値の攻防も、実はまだ、限界は見えていないという。注目すべきは、BSE(牛海綿状脳症)で厳しくなっていたアメリカ産牛肉の輸入規制緩和だ。「生後20カ月以内」の牛肉しか輸入できないという制限が、今年「生後30カ月以内」に緩和される。これにより、牛肉価格の高騰にも歯止めがかかるとみられているのだ。アメリカ産の使用を守って踏ん張ってきた吉野家、3位から上位食いを狙う松屋には、大きなビジネスチャンスが開ける。
「私はもうひとつ、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)もカギになるとにらんでいます。現在牛肉には38・5%の輸入関税がかかっていますが、TPPへの加入で撤廃されれば、牛肉のコストが今より一杯当たり20~30円は下げられる。調理費等々を加味する必要はありますが、その他の合理化やコスト削減を重ねれば、夢の”200円牛丼”も視野に入るでしょう」(同)
では、新たに参入してきた新興勢力はどうか?
「東京チカラめしは、ビジネス街を中心とした現在の出店地を考えると、都心で働く中~高所得層がターゲット。こう分析すると、本来であれば、並盛りの価格を500円以上にしないと、先行チェーンとの差別化はできません。もしくは、今後は牛丼業界のメインストリームに乗って、ガテン系や若手サラリーマン層を狙っていくのであれば、焼き牛丼ではない、ノーマル牛丼をもっと安く価格設定しないと厳しいでしょうね」(同)
確かに、東京チカラめしは、並盛りの通常価格が320円。まだどっちつかずの価格設定だ。外食の現場で牛肉を扱ってきた松永光弘氏によると、「東京チカラめしの肉の質・量を見る限り、原価率は30%ではきかず、恐らく40%以上。大量仕入れで原価率を下げられる上位3社とはかなりのハンデがある」そう。この観点からすると、豚丼ながら600円という価格を設定したすた丼屋は、高く評価できるという。メガ盛りにニンニクたっぷりで、ジャンク感も満載だが、差別化に成功しているのだ。では、果たして今後、東京チカラめしのビジネスモデルに勝機はあるのだろうか?
坂口氏は、「東京チカラめしのストロングポイントは、恐るべき店舗展開力です」と語る。事実、運営元の三光マーケティングフーズといえば、低価格居酒屋群のハイスピード出店は記憶に新しい。11年6月にオープンした西池袋の1号店を皮切りに、半年で30店舗以上に規模を広げ、今年の6月までに50店舗を目指すという公式発表も行っている。同社社長・平林実氏が「低価格居酒屋の新規出店はゼロにし、牛丼を1000店舗以上展開する」と明言しているほどだ。
「三光マーケティングフーズの店舗展開力は、外食産業でもトップクラスで、あのユニクロと肩を並べる強豪。不動産業と言っていいのではないか? と思えるほどです。これは求人を見ても明らか。店長候補を募集している牛丼他チェーンに比べ、店舗開発業務の募集を強化しています。駅前の一等地を獲得するため、物件確保にインセンティブを出し、猛烈に物件を集めているんです」(同)
坂口氏が冒頭で分析した通り、少なくとも現段階では、牛丼チェーンは盤石とも思える巨大マーケットを確保している。日本人の食のインフラとして安定成長を遂げた業界に、焼き牛丼がくさびを打ち込むのか?
「東京チカラめしが上位に迫るには、まだまだ時間が必要でしょう。当分は、すき家の独り勝ちが続くと思いますよ。ただ、吉野家の動向も見逃せません。これは私見ですが、吉野家は海外市場を見ているのではないかと思います。吉野家ホールディングス傘下の吉野家インターナショナルは、アジア市場に注力しています。すき家、松屋との価格競争は赤字にならない程度に追随し、国内で開発したメニューをアジアに持ち込んで成功させる、というモデルを模索するのではないでしょうか」(同)
新顔も加え、さらに激しさを増す丼ぶり戦争。海外にフィールドを移し、DONBURI世界大戦として、さらなる火花を散らす──立ち上る湯気の向こうには、そんな未来が見える。
(文/佐々木正孝)
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