【みうらじゅん】──既成概念に唾を吐く”パンク”な料理番組
これまで”仏像””アウトドア般若心経””ゆるキャラ””いやげもの”など、数々の独創的な”マイブーム”を世に打ち出してきたみうらじゅん。そんな彼が50歳を過ぎて料理に開眼したらしい。なぜ今さら? なぜ料理? このあまりにも普通なチョイスの先に、いったい何を、どこを目指しているのか? みうら氏がお友達を招いて各種料理に挑戦する番組『みうらじゅんのマイブームクッキング』のシーズン2となるDVDの発売を記念して、あらためて番組の魅力とコンセプトを探っていくうち、マイブームという概念の本質にまで迫る貴重な証言を得ることができた。なお、本文の後半には音楽用語が頻出するが、本稿はあくまで料理番組に関するインタビューである。
──まず最初に気になったのは、番組のホームページに「ひょんなことから料理に開眼」と書いてあって、いったい”ひょんなこと”ってなんだろうと。
みうら うーん、正直、それは俺が言ったんじゃないからなぁ。きっと宣伝の人が”ひょん”はキャッチーだと思ったんだよ。「あのみうらじゅんが料理?」って言わせたいんだね。
──きっと世間の人は言うと思いますよ。
みうら でも実際は、シーズン1のDVDを出した時に「今まで天狗とかゴムヘビとか言ってたのに、今さら料理って普通ですね」って言われたんだ。
──確かにマイブームが料理って、なんの驚きもないです(笑)。
みうら でも、よく考えてみてよ。本当に心から天狗やゴムヘビが好きだと思う?
──え? 好きじゃないんですか?
みうら そこまでは好きじゃないよ。
──えぇぇぇー!!!
みうら なんかマイブームには「好きじゃないとやっちゃダメ」みたいな暗黙のルールがあるんだよね。もうみんな真剣だもん。これはどのジャンルでもそうだけど、何年もやってるとマジになってくるんだよ。だからマイブームという言葉が誕生した時から俺は、自分で自分の首を絞めてるんだ。
──それはもう”ひょんなこと”っていうか、業の深い話ですね。
みうら うん。それでいろいろと「変なものを見つけなきゃ」って思いながら必死に探してたんだけど、結局は行き着いた先が料理。ものすごく普通なところに来ちゃった。
──でもみうらさんのマイブームは「オリジナルであること」にこそ、その神髄があると思うのですが、料理ってすでにパイオニアがたくさんいますよ。
みうら そうなの。だから目指すは料理界のパンクだね。もう確立したジャンルなんだから、俺は中に入って唾を吐くしかない。
──まさにサーチ&デストロイですね。
みうら 番組を見てる人に訴えかけるためには、「してはいけないこと」をどれだけやるかでしょ。不謹慎ギリギリを常に思いっきりやってる。そもそも長髪がコック帽からハミ出ちゃってるし、サングラスかけてるから、塩とこしょうの区別もつかないんだもん。
──みうらさんの長髪&サングラスは、パンクスにとっての革ジャンだと。
みうら さらに言えば”料理してるのにこのスタイル”っていうのは、”夏なのに”革ジャンってことと同じだね。
──なぜそこまでスタイルにこだわるんですか?
みうら だって普通の料理番組を見てても、手際が良すぎてわからないでしょ。あっという間に出来上がるから、手品かと思っちゃう。この番組のいいところはさ、一度も料理なんかしたことない人間が、いきなりハードルの高い蔘鷄湯(サムゲタン)とか寿司とかに挑んでいって、手際も見た目も良くないなりに、それでも「なんとなく普通にできた」っていう中途半端を見せるところにあるのよ。
──パンクには「テクニックなんかなくていい」と。
みうら その通り。そもそものコンセプトが「おいしいものを作りたい」じゃないから。味なんか問わない。だって番組見てる人が、俺が作ったもの食べるわけじゃないからね。この番組は、今まで「すごくおいしい」を喜ぶか、「すごくまずい」を笑うしかなかった既存の料理番組に対するアンチテーゼなんだよ。
(文/おぐらりゅうじ)
みうらじゅん
1958年、京都府生まれ。イラストレーター・エッセイスト・小説家・ミュージシャン。武蔵野美術大学在学中に雑誌「ガロ」(青林堂)でマンガ家としてデビュー。97年に自らが命名した造語「マイブーム」で新語・流行語大賞を受賞。その後も”らくがお””とんまつり””地獄”など、世にあふれる奇形や異物や不思議な現象を自分だけのブームとして発表し、常に世間の度肝を抜き続ける生粋のオリジネーター。
『みうらじゅんのマイブームクッキング2』vol・1~4
まったくの料理初心者だったみうらじゅんが、ひょんなことから料理に開眼し、すっかり「マイブーム」になったという設定で始まった料理番組のDVD化・第二弾。みうらがシェフを務めるレストラン「キッチン・マイブーム」では、常連のウクレレえいじ(芸人)ほか、毎回やって来る豪華ゲストに対し、みうらが”自分の食べたい料理”だけを作ってもてなしていく。「盛り付けとか見た目とかに興味はない」「とにかく褒められたいんだよ」と語るみうら。果たしてお手製料理のお味と出来栄えはいかに!? 発売元/「みうらじゅんのマイブームクッキング」製作委員会 販売元/アニプレックス 発売日/vol・1&2:12月14日 vol・3&4:1月11日(レンタル同時開始) 価格/各2940円(税込)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事