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日刊サイゾー トップ > 社会  > 凡庸なるロマン主義者(!?)中沢新一氏・内田樹氏への果てしなき疑問
宗教学者"世代超え"対談・島田裕巳×大田俊寛(後編)

凡庸なるロマン主義者(!?)中沢新一氏・内田樹氏への果てしなき疑問

shimada_oota03.jpg大田俊寛氏。

前編中編はこちらから

 オウム騒動の渦中にいた宗教学者と、ポスト・オウム世代ともいえる気鋭の宗教学者が交錯した初めての対談の最終編。前回は、東大を中心とした宗教学とオウムとのかかわりに話が及んだが、その文脈からは外すことができない、東大宗教学が生んだ、もうひとりの花形宗教学者・中沢新一氏への言及も行われた。大田氏は自著『オウム真理教の精神史』(春秋社)の中で、中沢氏批判も展開しているが、島田氏も2007年に『中沢新一批判、あるいは宗教的テロリズムについて』(亜紀書房)という著書を著している。オウムに関しては沈黙を守り続ける中沢氏を、大学の後輩にあたる2人はどうみているのか?

――島田さんと同世代の宗教学者といえば、中沢新一さんです。彼の著作『虹の階梯 チベット密教の瞑想修行』(平河出版社)はオウムのネタ本ですし、事件当時、雑誌のインタビューでは「信者を引き受ける」と言ったりしています。大田さんも島田さんも著書の中で中沢さんを批判しています。中沢さんと島田さんは、同時期に学んだ大学の先輩・後輩になりますが、近くにいて彼はどんな人物だと感じましたか?

島田 正直、よくわからない人ですね。私は彼と喧嘩もしたことがなければ、論争をしたこともない。そして、93、94年以降、一度も直接は会っていない。私の著作の中でも触れましたけど、彼がものすごく共産主義の影響を受けていることに、本を書く段階で確認して、ビックリしました。それも影響を受けているのが、古い共産党、武装していた頃の共産党なんです。オウム事件の頃の言動を聞いても、どうして「サリン事件の被害者がもっと多かったら別の意味合いがあった」「オウム真理教の信者を引き受ける」などと言うのか不思議に思った。結局、そういうところがよくわからず、あらためて中沢新一という人物を考えようということで『中沢新一批判~』を書いた。でも、中沢さんからは何の反応もなかった。東日本大震災後に、彼がグリーン・アクティブとか緑の党(コンセンサス会議や雑誌、緑の経済特区や農学校をつくることを打ち出している)とか言い出した時に、「党」という言葉を見て、やはりと思った。この人はまったく政治的な昔の共産党の枠組みで、ちょうど状況が変わったがゆえに、またそういうことをやろうとしているのかと。そんな枠組みが、今の世の中で通用するとは思えない。そういう運動をするならば、まずは自分とオウムとの関係がどうだったのか、自分の言説はオウムとのかかわりの中で、どのような影響を教団や社会を与えたのかということを何らかの形で言うべきだったと思う。なぜ、それをずっと沈黙し続けているか、ちょっと理解できない。

大田 島田さんとは逆の意見になりますが、私は中沢さんというのは、とてもわかりやすい人だと思います。一言でいうなら、彼は「凡庸なロマン主義者」です。ロマン主義を歴史的に説明すると複雑になるので、ここでは簡単に話しますが、ロマン主義者は世界を「見えるもの」と「見えないもの」に二分し、見えないもののほうが重要なのだ、リアルなのだと主張する人たちです。彼らがいう見えないもの、リアルなものとは何かと言えば、ロマン主義者たちはそれを表現するために、さまざまな「エキゾチックなもの」を探求していく。具体的には、ヨーガやチベット密教などのオリエンタルな宗教、古今東西のオカルティズム、先住民の知恵などですね。そして、こうしたロマン主義者たちは、そのような遍歴を重ねた末に最終的にどういうことを言い出すかというとパターンは決まっていて、「自民族の精神的古層」こそが最も崇高である、という結論に達する。中沢さんも明らかに、こうしたパターンを踏襲しています。ここで問題になってくるのが、自民族中心主義と同時に現れる、排外主義の傾向です。自民族の純粋性を維持するために、何が必要か。それは、「外から来るもの」を排除することである。それでは、「外から来るもの」とは何か。それは「ユダヤ」である──。こういうことを過去に主張したのは誰でしょうか。それはナチスであり、オウムだったのです。中沢さんの最近の著作『日本の大転換』(集英社)では、日本の自然環境が「リムランド」という名称で美化され、美しい日本を守るために、一神教的原理、ユダヤ的原理から脱却せよと唱えられています。それによって日本は大転換しうるのだというのが、今の中沢さんの主張なのです。このように中沢さんの言説には、隠された「反ユダヤ主義」という側面が存在しており、先ほどの言い方で言えば、私はこのような要素が、中沢さんがオウムと「共鳴」した原因の一つではないかと思っています。中沢さんは過去にも、『ブッダの夢』(朝日新聞社)という河合隼雄さんとの対談書の中で、「ユダヤ人は、知性は高いが霊性が低い」と発言している。また『ブッダの方舟』(河出書房新社)という書物では、「ゲッベルスだってゲーリングだって、初期のファシズムの思想家は、みんな仏教フリークだった。ファシズムは悪だと最初から決めるべきではない」と語っています。おそらく自分でも理由がわからないのでしょうが、中沢さんは無自覚に「反ユダヤ」「親ナチス」の言説を繰り返しており、それはオウム事件の以前でも以後でも、まったく変わっていないのです。

■グリーン・アクティブと内田樹の矛盾

――『日本の大転換』は売れていますよね。そしてドミューンというネット番組においては、グリーンアクティブの活動が発表されました。

大田 グリーン・アクティブに関して、この場を借りてお話ししたいことがあります。グリーン・アクティブの活動には、内田樹さんが賛同者のひとりに加わっていますが、これはとてもおかしなことであると言わなければなりません。というのも内田さんは、ユダヤ人の思想家レヴィナスの研究者であり、反ユダヤ主義についても研究されている方だからです。日本を代表する反ユダヤ主義の研究者が、中沢さんの『日本の大転換』を読んでその論理の性質に気づかないのは奇妙なことだし、ましてやその運動に自ら協力するというのは、まったく筋が通らないことであると思います。内田さんには、自分が手を結ぼうとしている人物が一体どういう人間であるのかを、もう一度よく考えていただきたい。しかし実は、これは内田さんだけではなく、日本の学界や思想界が全体として抱えている問題と関係しているのかもしれません。多くの研究者は、表面的には実直なアカデミシャンとして振る舞っていますが、根っこの部分では「素朴なオカルティスト」という人が少なくない。内田さんは最近、空中浮遊のヨーガ行者として有名な成瀬雅春氏との対談書を公刊しています(『身体で考える。』マキノ出版)。この中で内田さんは、成瀬氏と20年来の付き合いがあること、氏に深く心酔していることを語っています。そして両者の対話では、人間は限界を設けなければ空中に浮ける、自分はUFOを見たことがある、戦争に行っても弾に当たらない技法があるといったオカルト話が延々と綴られている。内田さんには実は、こうした「素朴なオカルティスト」という側面があり、それが中沢さんと共鳴している原因なのかもしれません。しかし当然のことではありますが、特にオウム事件以後、こうした動きは批判しておかなければならないでしょう。

――それでは、最後に本日の対談を終えて、感想をお願いします。

島田 大田さんの著作についてはまったく面白くなかったし、過去の文献を調べ、思想史の中に位置づける方法ではダメだと思いました。オウムの思想的な面より、もっと元信者の話や教団幹部の話、社会状況などを含めて再度オウムについての本を書いたほうがいいと思う。私だと、あまりに当事者性が強すぎてやりにくい。大田さんにはそういうものがないから、若い世代がもっと具体的に、一般の読者を想定して、オウム事件をきちんと説明してほしい。そういうものは絶対に必要だから。

大田 おっしゃることは、よくわかります。私も最近は、オウム事件当時に現場にいた元信者や研究者、記者の方々から話を聞く機会が増えたので、そういうものを摂取しながら、今後の方針を考えたいと思います。ただ、これまでの宗教学を考えると、自分が現場で見たものにあまりにも依拠しすぎるところがありました。今までの宗教研究に不足していた歴史や理論の側面に重点を置き、少し引いたところから対象を見たり、分析したりすることが、私の役割ではないかと思っています。島田さんに対しては、実際に現場へ飛び込んで、深淵さを装った曖昧な言葉に逃げるのではなく、それを平易な言葉で語られてきたことを、率直に評価したいと思います。たとえば『創価学会』(新潮社)という本は、私も読んで教えられるところが多く、学生にも薦めている著作です。今から考えると島田さんの時代は、よくわからないものに果敢に体当たりしていくという、宗教学の「青年時代」だったのかもしれません。しかしその過程で宗教学は多くの過ちを犯したため、やはりそのことは批判しなければならない。批判するべきものは批判し、良い部分は受け継ぎながら、今後も研究していきたいと思います。
(構成=本多カツヒロ、写真=名和真紀子)

●しまだ・ひろみ
1953年、東京生まれ。宗教学者、作家。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。放送教育開発センター助教授、日本女子大学助教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員などを歴任。著書に、『神も仏も大好きな日本人』(筑摩書房)、『現代にっぽん新宗教百科』(柏書房)、『逃げない生き方』(ベストセラーズ)、『聖地にはこんなに秘密がある』(講談社)、ほか多数の著作がある。

●おおた・としひろ
1974年、福岡生まれ。宗教学者。東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻宗教学宗教史学専門分野博士課程修了。博士(文学)。現在、埼玉大学非常勤講師。主な著書に『オウム真理教の精神史』『グノーシス主義の思想』(ともに春秋社)がある。

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最終更新:2013/09/09 18:41
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