闇金、合法ドラッグ、死体処理……見えにくくなった裏社会の境目『悪の境界線』
#本 #暴力団
昨夏、暴力団との交際により、島田紳助が芸能界を電撃引退した事件は記憶に新しい。「この程度で……」と会見で述べた紳助だが、昨今は「この程度」の交際も大きな罪となる。2011年10月、東京都と沖縄県で暴力団排除条例が施行され、すべての都道府県にこの条例が行き渡るようになった。暴力団との交際を禁じ、暴力団を厳しく締め付けるこの条例だが、かえって暴力団構成員が地下に潜り、”マフィア化”する恐れがあるという。
これまで、裏とカタギの世界ははっきりと区分されていたが、現在はその境目が以前より一層見えにくくなっている。『悪の境界線 犯罪ボーダレス社会の歩き方』(イースト・プレス)は、裏社会を渡り歩くフリージャーナリスト・丸山佑介氏が、裏社会と一般社会の間に存在する”グレーゾーン”に焦点を当てて取材した1冊だ。最新の合法ドラッグ、闇金、拳銃の売買、指名手配犯の逃亡生活、闇タバコ、書類偽造、死体処理、自殺志願サイトの実情など、全3章34項目に渡って現代の裏社会事情を解説している。筆者の一人称視点がハードボイルドな風合いを出し、自分がその現場に居合わせているような気分に誘われる。
例えば復興支援ビジネス。支援を装い、被災地から甘い汁を吸おうとする悪逆無道の輩も少なくない。火事場泥棒に被災者を狙った闇金、それよりもっと大きな金額が動く復興建設の利権を狙い、裏稼業の連中が暗躍している。岩手や宮城など、首が回らなくなっている地元の中小建築業者に資金援助を持ち掛け、本来食い込むことのできなかった利権にむらがっている。しかし、ヤクザといえば義理任情の世界。ヤクザとしても被災地の役に立ちたいと、組織末端構成員一人あたり5万円を徴収し、匿名で義援金を送ったりしているというから、なんだかよく分からない世界だ。
ほかにも、ゴミ屋敷に持ち込まれたゴミをリサイクルショップで売る「ゴミ屋敷ビジネス」や、韓国や中国からの「密入国斡旋業者」、海老蔵、朝青龍事件で一躍脚光を浴びた「関東連合」など、興味深いネタは尽きない。
丸山氏は裏社会の入口について「気がつくか、気がつかないか、ただそれだけの差しかない」と表現する。一般社会に属する我々も、当人の知らぬ間に踏み込んで、法を犯している危険がある。「この程度……」と境界線を踏み越えないよう、お気をつけて。
(文=平野遼)
●まるやま・ゆうすけ
1977年生まれ。フリージャーナリスト。大学院までは考古学を専攻するが、まともに食っていけない世界ではないと、研究者コースから離脱。日雇い派遣や測量会社、出版社勤務を経て現在に至る。取材・執筆分野は裏社会、猟奇殺人、都市伝説、古代遺跡の盗掘や遺物の贋作、グルメガイドなど多岐にわたる。趣味はトレジャーハンティングと総合格闘技。著書に『裏社会の歩き方』『判決から見る猟奇殺人ファイル』(彩図社)、『男呑み 東京男同士で呑める店―○○軒』(東京書籍)など。別のペンネームで旅行記がある。
物騒な世の中です。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事