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元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第121回

大間のマグロ漁の影にも原発マネー 口には出せない漁師の本音とは?

motoki130116.jpg「週刊ポスト」1月27日号 中吊り広告より

第1位
「どうしても増税したい大メディアと野田官邸の『頭ン中』」(「週刊ポスト」1月27日号)

第2位
「独占スクープインタビュー 吉本興業創業家当主が初めて語る『紳助復帰?ありえない。本当のこと話します』」(「週刊現代」1月28日号)

第3位
「大間マグロと原発マネー」(「AERA」1月23日号)

 年末年始から週刊誌に活気がない。誌面から立ち上ってくる勢いが感じられない。

 東日本大震災の復興もいまだ手につかず、原発事故の収束の目処はたたず、政局も世界経済も混迷のままである。

 こんなときこそ週刊誌がどんよりした世の中を目覚めさせるスクープに期待したいのだが、そうした記事にお目にかからないのは残念だ。

 さて今週、あまり期待していなかったが読んで面白かったのはAERAの記事。

 今週の1行コピーに「新編集長は一色、アエラは多色」というあまり感心できないコピーが載っているが、『報道ステーション』(テレビ朝日系)でコメンテーターをやっていた一色清が編集長に就任したようだ。たしか彼は2度目だが、部数減をくい止められるかな。

 今やマグロの最高峰になった大間のマグロ。1月5日の東京築地市場で史上最高値の5,649万円(269キロ)を叩き出した。

 地元で食べるマグロ丼でも3,000円するそうだ。その大ブランドのマグロの町・大間町は下北半島の突端に位置し、人口6,000人強で、長い間積雪と強風で隔絶された陸の孤島だった。

 大間のマグロの名が全国に知られるようになったのは最近だという。ある時期、青函トンネル建設の影響か不漁が続き、多くの漁師が廃業に追い込まれた。

 そこへ電源開発による原子力発電所建設の話が持ち上がり、1984年12月に大間町議会は誘致を正式決定する。

 漁師たちは一斉に反発したが、「10年にわたる電源開発側の工作により、最後は多額の補償金で漁民は屈服させられた」と長年大間原発の取材をしているルポライター・鎌田慧が語っている。

 組合員923人いる大間漁協には96億円が転がり込み、さらにプルトニウムを消費する「フルMOX」型に原子炉が変更されると、増量する温排水分として22億5,000万円が上積みされた。

 この他、電源三法により10年度までに大間町には67億円が交付され、原発が完成すれば16年間にわたって440億円の固定資産税収入が見込まれているのだ。

 そんな中で2001年の正月に築地市場で202キロの大間産マグロに2,020万円の値がつき、メディアが殺到した。00年のNHKの朝ドラ『私の青空』が大間町を舞台にしていたこともあって、ここから大間のマグロの快進撃が始まる。

 07年に渡哲也主演のドラマ『マグロ』(テレビ朝日系)が決定打となり、大間のマグロのブランドは定着した。だが、なぜその番組に10億円の巨費を投じることができたのか、そのカネはどこから出たのか真相はハッキリしないという。そのドラマの中で当然ながら大間原発の存在が語られることはなかった。

 大間町観光協会が主催する「超マグロ祭り」という人気イベントがある。目玉はマグロの解体ショー。この後援の一つが電源開発。

 原発マネーで潤った漁師たちは、最先端の漁業設備を漁船に搭載したが、そのときも漁協から一人当たり2,000万円前後が支払われたといわれる。

 高度な魚群探知機や針にかかったマグロに電気ショックを与えて気絶させ、鮮度を保ったまま水揚げできる大間独特の漁具も一気に進化した。

 原発マネーが大間のマグロ漁を近代化させ、テレビによって全国ブランドとなっていったのである。

 東日本大震災以降、大間漁協でもマグロの放射線量の検査を始めた。今のところセシウムなどは検出されていないが、マグロ漁を引き継いだ30代のAさんはこう言っている。

「漁業権を放棄した福島の漁師たちが声をあげることもできずに、無気力に浜に佇む姿が自分たちの未来と重なる。オヤジたちがもらったカネの意味がようやくわかりました」

 原発事故以来、大間原発建設工事は止まっている。進捗率は38%。金澤満春大間町長は、「国のエネルギー政策を理解し、立地に協力してきた住民の思いは揺るがない」と工事再開への姿勢を崩していない。

 原発誘致の話があった頃、大間のマグロが全国で注目を浴びていたら、国も電源開発も、ここに原発を造ることは断念していただろうと、ベテラン漁師が話している。

 1月15日夜のNHKスペシャルは福島第一原発20キロ圏内の海の放射能汚染を調べる研究者たちを追っていた。案の定、海底の泥が500ベクレル/Kg以上を計測する箇所があちこちにあり、中には4,520ベクレル/Kgという驚くべき数値を示す超ホットスポットもある。

 さらに取材班は東京湾を調べるが、ここでも驚くほど放射能汚染は拡がっていることが分かる。特に江戸川や荒川の河口付近では1,623ベクレル/Kgもの数値が出た。

 調査している人間によると、2年2カ月後にはさらに汚染は深刻になるという。ここでも
「海に流れた放射能は拡散して薄まる」といった東電や保安院のウソが明らかになった。

 大間原発に事故が起きれば大間のマグロは致命的なダメージを受ける。だが、マグロで暮らしていけるのだから原発はいらないとは口に出せない。こうした現実を私は知らなかった。同じ青森県にある六カ所の再処理工場と合わせて考えなければならないことである。

 第2位は、あの島田紳助に「復帰してほしい」とラブコールを送った吉本興業の大崎洋社長の発言に、創業家の当主が「常識を疑う」と批判した「現代」の記事。

 林正樹(40)は吉本創業の礎を築いた祖父、社長・会長の父を持つが、経営陣と創業家の争いがあったため、経営陣によって吉本を追われた。

 吉本の経営のおかしさや、ここ半年、芸人のギャランティの支払いが遅れていることに言及しているが、彼の話の中で一番重大な点は、05年8月12日の出来事である。

 その日はSHIBUYA-AXというライブハウスで吉本所属のFayrayという歌手のライブがあった。

 Fayrayは大崎が自ら発掘し芸名もつけた。ライブの開演前に大崎は会場にいる20代前半と思しき女の子を指さしてこういったのだ。

「あれは五代目の娘や。歌手になりたいと言ってると、カウスさんから頼まれた。ウチでレッスン受けさして、R&C(註・子会社のレコード会社)からCDを1~2枚出したら満足するやろ」

 この山口組五代目渡辺芳則組長の娘のデビュー計画は頓挫したらしいが、吉本側が担当社員もつけて歌唱レッスンをさせていたのである。

 この事実だけで、大崎社長の首が飛んでもおかしくない。吉本と暴力団とのつながりは長く深く強い。歴代の社長たちが親しく暴力団と付き合ってきたから、カウスという準構成員のような芸人が幅をきかし、その下にいる紳助が同じことを真似て、おかしいとは思わない。

 推測するに、大崎社長が紳助の復帰を堂々と公言するのは、紳助のバックにいる暴力団連中から何か言われたからではないか。

 明石家さんまは「フライデー」の取材に対して「紳助、復帰してほしくないわ」と言っている。大崎社長は身内からのこの言葉を重く受け止めたほうがいい。さもないと、今はいうがままになっているテレビ側が目覚めて、吉本の芸人を一斉にテレビから締め出す事態だって起きかねないと思う。

NHKの大河ドラマは『平清盛』である。大崎社長へこの言葉を贈ろう。

「祗園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり。 沙羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす。 おごれる者久しからず、 唯春の夜の夢のごとし。 たけき者も遂にはほろびぬ、 偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ」

 今週のグランプリはポストの大メディア批判記事。大メディアは増税すべしという論調でここまで来ているが、その裏には野田佳彦首相や官僚とメディアの癒着構造があると歯切れよく叩き切っていて小気味いい。

 朝日新聞や読売新聞は社説でも野田首相の増税路線を支持しているが、大メディアは裏で、増税反対の論陣を張る元官僚やジャーナリストをパージし始めているのだ。

 まずはカネのバラ撒きから。昨年12月4日付けの全国紙と地方紙71紙に、政府が社会保障と税の一体改革についてという全面広告を出したが、これに総額3億円の税金が使われた。

 増税反対派の言論封殺の指揮をとっているとされるのは財務省の香川俊介官房長で、彼は「財務省の天皇」といわれる勝栄二郎事務次官直系である。

 最初にターゲットにされたのが元経産官僚の古賀茂明。古賀自らが某テレビ局幹部に香川官房長官が電話を入れ、「古賀を出しているような局に安住淳大臣は出せない」と圧力をかけたことを明かした。

 やはり元財務官僚の高橋洋一も「ブラックリストの筆頭」にあるといわれ、対談や討論番組への出演依頼後にキャンセルされることが何度かあったという。

 また出演しても、増税論派を論破したところはカットされてしまった。

 財務省が毎年年末に予算の政府原案がまとまると各紙の論説委員と経済部長を集めて「論説委員経済部長懇談会」を開くのだが、長谷川幸洋東京新聞論説副主幹は、突然そこから排除されてしまった。

 また全国紙の中では唯一増税批判の姿勢をとってきた産経新聞には、昨夏、国税の税務調査が入った。そのためか税務調査後は「増税やむなし」という論が産経でも目立つようになったと、「ポスト」は書いている。

 先の論説懇談会の夜、野田首相は東京港区の高級料亭で朝日新聞の星浩編集委員、毎日新聞の岩見隆夫客員編集委員、読売新聞の橋本五郎特別編集委員と酒食をともにしたのである。

 星は1月8日の朝刊のコラムでこう書いている。

「権力監視が仕事であるメディアが『増税を容認すること』への疑問はあるだろう。しかし、先進国で赤字が膨らみ、危機からの脱出策を探っている現在、メディアの役割は『監視』だけでは済まない。国の再生に向けて、政治に『結果』を求めることが必要になってきた」

 朝日新聞が増税推進であることの自己弁護のような書き方である。

 さらに驚くのは、新聞協会が政府に対して、消費税が10%になっても、新聞はゼロにしてくれと裏取引をし、テレビはテレビで震災を口実に放送設備を新設するに当たって減税を要求しているというのだから、あきれた話だ。

 しかし朝日新聞など大メディアの増税キャンペーンは功を奏さず、朝日の世論調査結果によると、消費増税の政府案に賛成は34%、反対派57%となり、反対が6割に迫ったのだ。

 大メディアがいかに国民の感覚からズレているかという証である。こうした大メディア批判は最近「ポスト」の独壇場になった。読者目線で物事を考える。我々は先輩からそう教えられた。「ポスト」はそれを忘れていない。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

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最終更新:2013/09/09 19:17
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