「こんな店は存在しないほうがいい!?」放射能測定ショップ「ベクミル」を直撃!
#東日本大震災 #原発事故
食品に含まれる放射線量を測定することができる放射能測定器レンタルスペース「ベクミル」が昨年10月、千葉県柏市にオープンした。市民が気軽に放射線量を測定できる店舗として、開店時は15台ものテレビカメラが並ぶほど、大々的にマスコミに報道された。12月には上野店もオープン。人々が放射能に怯えるご時世、開店から3カ月を経てさぞ儲かっているんだろう……と思いきや、意外にも「全然儲かっていません。赤字です」と語るのは代表の高松素弘氏。「当店で使用しているドイツ製の放射能測定機器は1台300万円。現在のところ3,000検体あまりを調査していますが、1検体の価格は測定機器によって980円と3980円の2種類です。正直、まだまだ人件費が捻出できるくらいですね……」
■放射能測定は行政が行うべき
放射能の測定にはおよそ数万円の費用がかかる検査機関も多くある。放射能測定の価格破壊ともいえるこの料金設定が、そもそも赤字の原因だった。
「ほぼボランティアのつもりで運営しているので、利益はあまり考えていません。そもそも、火事場で儲けるようなことは、あまり人として好ましくないと思っています」
ドイツ製の検査機器が並ぶ。
高松氏は柏市でIT系企業を営んでいる。もともと原子力に精通していたわけでも、市民活動家として熱心に社会運動に関わっていたわけでもなかった。震災前は、一介の経営者だった。
「震災に直面し、小さい子どもがいるので、『家族を守らなくては』という思いから、直後にAmazonでガイガーカウンターを購入したんです。計測してみると、異常に高い値を示しました。3月15日のことです。そこで、検出数値をUSTREAMで中継したら、世界中の人がこのチャンネルを視聴していて驚きました」
もう一台のガイガーカウンターを駆使して、市内のあらゆる場所を測定しはじめた高松氏。しばらくすると、その関心は外部被曝だけでなく、内部被曝にも移行した。そこで、車を買い換えるための貯金を崩し、放射能測定器を購入。片っ端から食品のセシウム含有量を計測したという。この知見を活かし、自身の経営するシステム会社の向かいにオープンしたのがベクミルだ。
意外にも、店舗を開設すると当初見込んでいた小さい子ども連れの母親ではなく、高齢者の利用が断トツで多かった。
(2)検体を機器にセットし、
20分待つ。
(3)コメの検査結果。左が
セシウムの含有量。
右は人体に無害なカリウム
の含有量
「お客さんの平均年齢は60歳くらいですね。柏という土地柄か、家庭菜園でつくった野菜や、土を測定される方が多いんです。『孫に食べさせたい』といって、米や野菜などを持ち込んでくるんです。セシウムが検出されずにほっと胸を撫で下ろす人もいますし、もちろんそうではない人もいます」
しかし「本来ならばこういったサービスは行政が行うべきだと思います。こういった店舗があることがおかしいんです」と憤りを隠せない高松氏。
「昨年6月に、市民団体から柏市でも放射線量測定器を購入してほしいという請願が出されていたものの、認められませんでした。そもそも議員の誰も、シーベルトとベクレルの違いすら知りません。放射能測定器を導入するという意味が分からなかったんだと思います」
このような状況から、あくまで行政が動き出すまでの「過渡期」のサービスとしてベクミルを開店。
「対応が後手に回る行政を批判しているだけでは、内部被曝から子どもを守ることはできません。あくまで過渡期のサービスなので、行政による測定環境がしっかりと整う時期が来れば現在の営業スタイルは終わりになるかもしれません」
■セシウムも”忘年”された?
ものは試しにと、筆者の住む江東区の水道水と新潟産の米を持ち込んで測定したところ、放射性セシウムの値は0.0Bq。日常的に放射線を意識しながら生活を送っているわけではないものの、検査の結果、安全が証明されると、やはり気持ちはほっとする。
「当店としてはお客様が持ち込まれた食品の放射線量を公表することはありません。どの食品がヤバイというためのサービスではなく、あくまでも、市民に安心してもらうためのサービスなんです」
しかし、昨年末あたりから店舗にはある変化が見られているという。
「クリスマス前から、だんだん利用客が減少して、年をまたぐとそれまでの4割程度の客数になっています。セシウムも忘年会とともに忘れ去られてしまったようですね……」
もちろん、年をまたいだところでセシウムの危険性が消えるわけではない。
今年1月からは、高松氏は個人的に食品の放射線量測定データベース「ベクまる」(http://bq-maru.com/)を公表。こちらは、閲覧者からのリクエストに応じて、全国流通している加工食品を無料で測定、その検査結果をHP上で公開するというサービスだ。
なぜそこまでする必要があるのか。高松氏のその使命感の理由とはいったい何なのか?
「自分でもよく分からないんですが、きっと震災で目覚めてしまったんじゃないでしょうか(笑)。まあ、赤字にならない程度にやっていければと思っていたんですが、営業スタイルを変えていかないと赤字で終わりそうですね」
言葉とは裏腹に、高松氏の表情はどこか晴れやかだ。
原発事故から10カ月。ようやく消費者庁が放射能測定器の150台導入を行い、各自治体で無料検査ができるようになった。そのおかげで、千葉県我孫子市や茨城県取手市では無料で測定が可能となったものの、機器が一台しか導入されていないことから予約待ちの状況が続いているという。柏市でもようやく導入の検討が本格化されてきたものの、放射能という新しい問題に対して、行政の対応はやはり後手に回るばかりだという。「過渡期」のサービス、ベクミルがその役割を終えるのには、まだまだ時間がかかるだろう。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
●ベクミル
ドイツ製の機器を使用した放射能測定器レンタルスペース。利用者が自身の手で機器を操作し、食品や土壌などの放射性セシウム含有量を計測することができる。2011年10月、千葉県柏市にオープンしたのに続き、12月には上野にも2号店をオープン。料金は、機器によって、1検体980円と3980円の2種類。
<http://bq-center.com/bqmil/>
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