「意外にも親日家が多い!?」緊張感高まるイラン、黒いベールにつつまれた国を歩く(後編)
#海外
イランでは、イスラームを国教としている。そのため、当然ながら国民全員が信仰深いムスリム(イスラム教徒)と思われがちだが、そんなことはない。信仰の深さは、人によって驚くほどバラバラだ。
例えば、イスラーム・シーア派にとって、メッカに次ぐともいわれる聖地”マシュハド”。この街の中心には、宗教施設の複合体、ハラメ・モタッハル広場(ハラメ)があり、イラン国内はもとより、国外からも信者が集う。イランではもっとも宗教的な場所で、当然ながら、信仰心の深い人が多い。
彼らの一番のお目当ては、ムハンマドの後継者のひとり、エマーム・レザーの聖墓。エマーム・レザーとは、816年にシーア派を弾圧していたアッバース朝のカリフ・マアムーン(スンナ派)が突然、彼を後継者に任命。バクダッドの反対派の鎮定に向かい、その途上で亡くなった人物なのだそうだが、正直なところ、日本人にはさっぱり馴染みがない。
現地の人によれば、彼の名をつぶやき祈りを捧げると、歩けなかった人が歩けるようになり、盲目だった人の目が見えるようになったという伝説があり、人気があるそうだ。
その聖墓は「黄金のドーム」の下にあるのだが、足を踏み入れた瞬間、その熱気に圧倒された。縦2メートル、横5メートル、高さ3メートルぐらいの大きさの聖墓の周りには、人、人、人。真ん中に仕切りがあり、男女分かれているのだが、なぜか女性は男性よりもずっと興奮していて大パニック状態。まるでバーゲンセール会場だ。押し合いへし合いの末、倒れこむ人までいる。これが信仰の場か。
エマーム・レザーのありがたみはよく分からないが、聖墓の中がどうなっているのか確かめたい。その一心で、7、8重ぐらいになっている人の層をかきわけ、前へ進もうとするが、最前列の人は祈りを捧げていて延々と動かないし、やっと動いたと思いきや、周囲のおばさんたちがものすごい力でその人物を外へ追い出し、空いたスペースへ10人ぐらいが一斉に入ろうとする。30分ぐらいもみくちゃにされ、あと1メートルというところまで詰めたが、前列から人が出る波に押され、くるくるくるーっと転がされ、気付けばかやの外。
だが、いったん離れ遠くから見ていると、必死で聖墓に触ろうとする人の中には、涙する人たちもいて、これは、私なんかが貴重な1人分の場所を取るべきではなかったのだ。反省し、その場を去った。
聖地に信仰心の深い人が多いのは当然だが、その他の場所では、どうなのか。
これが、正直なところ、帰国するまでいろんな人と接してみたが、よく分からなかった。
「スカーフなんて嫌いっ!」と言っていた若い女の子でも、私が神の存在は信じていない、と言うと、ちょっと悲しそうな顔をしてみたり、部屋の中でやたらと露出していた女子大生は、「アッラー(神)はね、寛大で、やさしくて、美しいの♪」などと、うっとりとしたような表情で説明したりして、服装の規則はイヤだけど、神の存在は信じている子は結構いる。
かと思えば、とあるイケメン30代男性は、「僕はアッラーの存在は信じていないよ。信じていることは、今の自分の生活と、自然だけさ」など神の存在を始めから否定するかのうような、びっくり発言を聞く時もある。
もちろん、信仰心の強い人もいて、「神を信じていない」と言うと、「君はコーランを読んで勉強すべきだ」などと、いきなり説教されることもあった。そういう人に対しては、できるだけ、ハイ、ハイ、と聞き流すようにしているのだが、何度も繰り返し説教されると反抗もしたくなり、つい爆発。「コーランは読んだ! でもコーランには、ムスリムであれば死んでから天国に行けて、そこには目がぱっちりした純白の最上の女性をはべらすことができる、と何度も記されてるよね。それって、完全に男向けじゃん。女はどうなるんだっ。女はっ」などと、鼻息荒く言ってしまい、喧嘩に……。
ただ、イスラームが持つ、”おもてなし精神”は、イラン全土、すみずみまで、行き届いていた。
例えばバスや電車の中。ただ座っているだけで、「食べて」と、みかん、りんご、クッキー、チョコ、チャイ、ナーンなど、こちらがお腹がいっぱいだと断るまで、どんどん食べ物が集まってくる。また、仲良くなった女の子の化粧ポーチを見せてもらっていると、「気に入ったの? 全部あげる」と、そのままポーチごとくれようとしたりするので、慌てて断るということもあった。けれど、イランでは、お客様がほしいと言ったものは、プレゼントしたくなってしまうことが、わりと普通のようだ。
旅行者の間では、「もう、イラン人のお宅には泊まりました?」という会話が出るほど、家に招いてもらえる率も高い。実際、イラン到着3日目にして、私もお誘いを受けた。
相手は、バスの中で偶然出会った14歳の少女、ニッキー。彼女はニット帽をかぶっていたので、車内で「ねぇ、その帽子の下はどうなってるの?」と聞いてみると、「男の人がいるところでは取っちゃダメなの」と言いつつも、キョロキョロと周りを確認して帽子を取り、高い位置でポニーテールにしていた髪を見せてくれた。
着いた先は、なんだか高級そうなマンション。オートロック式の門まである。てっきり、イランの伝統的な一軒家かと思っていたので、あまりにも近代的な外観で拍子抜け。ここのお宅だけでなく、都市部ではかなりマンション率が高いようだ。
ドアを開けると、日本のマンションと似た造りで、リビングにキッチン、部屋が2つに、お風呂とトイレ。床には有名なペルシャ絨毯が敷いてあり、しかもリビングにはコタツまで! コタツは日本独自のものかと思っていたので、なんだか親近感。
やっぱりイランは石油資源が豊富だな、と感じるのは、どこかの建物内に入ったときだ。例えば、ホテルでも誰かの部屋でもそうなのだが、常に暖かい。日本では資源を使い過ぎないように、省エネや節約に命をかけているようなところがあるが、イランでは、人がいなくてもガスファンヒーターをつけっぱなし。
なお、現地で出会ったテヘランのホテル従業員に聞いた話によれば、イランでは、オイルマネーが、年齢に関係なく、1カ月につき1人30ドル入ってくる、とのこと。公共料金(4人家族の場合)は、水道代15~20ドル、ガス代10ドル、電気代10ドル~20ドルほどということなので、家族で暮らしていれば、事実上、公共料金は無料。貯金ができるぐらいだ。
気づけば、ニッキーも彼女の母親も、しゅるしゅるっとスカーフを取り、半袖にスパッツの部屋着に着替えていた。そこへ、同じマンションの住人のおばちゃん数名と子どもが遊びにやって来たのだが、女性は家の中ではとても元気。
「キャー、日本人がいる!!!」と爆笑しながら入ってきたかと思いきや、「ちょっと待って、友達に電話するから、何かしゃべって!」。なんかしゃべって!? 受話器を渡されるも、何を話したらいいのか分からず、無意味に「ハロー、アイム ジャパニー」などと言ってみるが、これは何か意味があるのか。
スカーフは12歳から必要になる。
イラン人は、日本人が大好き。正確に言えば、韓国人も、中国人も、アジア人全般が好きなのだが、とくに、日本人は勤勉で、働き者なところがスバラシイと評価が高い。それなのに、日本でのイランのイメージといえば、核やテロ、麻薬の密輸犯と、まさに”悪の中枢”。この国は、政治の印象と、そこで暮らす人々の印象が大きくかけ離れすぎている。
情報化社会から切り離された一般市民の声が、世界に届く日は来るのだろうか。
(取材・文・写真=上浦未来)
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