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『まんが道』を読んだなら行こう

ウソくささゼロ! 昭和の香り溢れる藤子不二雄の聖地巡礼

001takaokashi.jpg我が家にあるのは中央公論社の愛蔵版。

 昨年、川崎市に「藤子・F・不二雄ミュージアム」がオープンし、藤子不二雄ファンにとって記念すべき1年だった。さらに2012年は、ドラえもんが誕生する2112年まで残り100年と、これまた記念すべき年である。だが、ちょっと待て。藤子ファンにとって、忘れてはならない作品といえば『まんが道』。富山県は高岡市で二人が出会い、志を立てて上京する自伝的物語は、地方から上京したすべての人にとってのバイブル。聖地のひとつトキワ荘は観光スポットになっているけど、高岡市はどうなっているのか? 行ってみたら驚いた!

002takaokashi.jpgヘッドマークがないので、まったくソソらない特急「はくたか」。

 『まんが道』で満賀道雄と才野茂は夜行列車に揺られて上京していたが、今では交通機関も発達し、かなり移動時間は短くなった。それでも、東京から富山県への道のりは遠い。最速の交通手段が飛行機といえば、その距離感が分かるだろうか。ただ、聖地を訪ねるのに飛行機では味気ない。鉄道で向かうなら、まず上越新幹線で越後湯沢駅へ向かうのが最も知られた路線だ。東京から越後湯沢までは1時間と十数分あまり。スキーシーズンを除けば、下車する客のほとんどが富山、金沢方面へと向かう人々だ。待っていた特急「はくたか」に乗って、越後湯沢からは北越急行ほくほく線を経由して列車は信越本線へと入っていく。この特急は、一部区間を最高時速160km/hで運転する在来線では最高速度の列車だが、それでも高岡へは2時間あまりかかる。ほくほく線内はトンネルも多くて車窓を楽しむというわけにはいかず、多少うんざりとし始めたころ、列車は北陸本線へと入っていく。ここからは、右に日本海、左に立山連峰の望める楽しい旅路へと変わる。

■街には藤子先生が……溢れてなかった

 さて、ようやくたどり着いた聖地・高岡市。駅を降りると、そこに広がっていたのは日本のあちこちにある寂れた地方都市と同じ光景だった。藤子不二雄の聖地だというのに、駅で目にした藤子キャラといえば『忍者ハットリくん』のゴーフルの看板だけだった。あぜんとしながら駅を出て路面電車へと乗り換える。ここの乗り場も先客は、孫を連れたおばあちゃんだけ。運転手と「孫が乗りたいっていうもんだからね……」と話していたところをみると、普段は利用する機会が少ないのだろう。

003takaokashi.jpg駅で見つけた藤子キャラは、これだけ。
004takaokashi.jpg路線存続のためとはいえ、全面コカコーラの広告ってどうよ?

 今回の聖地巡礼では、最近流行のキャラクターの銅像だとかの類を避けて「同じ空気を吸うこと」に重きをおいていたのだが、実のところ、かなり困難だということに途中で気づいた。もっとも困ったのは、藤子・F・不二雄先生の旧宅跡探しだ。事前に位置は把握して置いたのだが、特に道案内もあるわけでなく、旧宅跡自体も渋めの倉庫があるだけ。国民的漫画家が住んでいた場所だというのに、案内もないというのはちょっと寂しいものだ。それでも道は当時のままだろうから、多少はノスタルジックな気分に触れることもできる。藤子不二雄(A)先生の旧宅跡も同じく、なんら聖地であることを示すものもない。これはちょっと悲しいことだ。

005takaokashi.jpgここがF先生の旧宅跡。まず観光客が来るようなところではない様子。
006takaokashi.jpgこちらはA先生の旧宅跡。意外に駅の近くに住んでいたんですね。
007takaokashi.jpg『まんが道』に登場する文苑堂は、今でも営業中。

 
 そして高岡大仏も、ちょっと残念スポット。『まんが道』読者には、満賀道雄が憧れのマドンナ霧野涼子さんが見知らぬ男とキスする瞬間を目撃してしまう名場面の舞台だ。てっきり、街角の道沿いにあるのかと想像していたが、ちゃんと参道があって台座の部分に入るには拝観料も必要。中に入ると、なぜか地獄を描いた絵が並んでいて、いくつもさい銭箱が……。信心深い人は、一つ一つにおさい銭を入れていくのかもしれないが、かえって信心深さが失われていく。

008takaokashi.jpg予想外に綺麗でびっくりする高岡大仏。
009takaokashi.jpgなぜか台座の下は地獄巡りの絵が続く。

■濃厚な昭和の香りが漂う街

 さほど宣伝していなくても、きっと「藤子不二雄先生は高岡の誇り」みたいな感じの観光案内とかがあるかと思いきや、あまりになんにもなかったので、ちょっとがっかりした気分。しかし、路面電車を降りて、聖地を探しながら街を歩いていると、次第に妙な味がジワジワと染みこんできた。

010takaokashi.jpgし、渋すぎる看板。いったいいつからある飲み屋街なんだろうか……。

 まず「これは渋い!」と驚いたのは、さっさと拝観を終えて、人通りもほとんどない道を歩いていて見つけた「大仏飲食店街」。サビが目立つ看板の向こうにあるのは、新宿ゴールデン街を彷彿とさせるような渋すぎる飲み屋街だ。街そのものが、昭和が続いているような雰囲気を漂わせているのだけれど、ここだけ昭和どころか終戦直後のバラックから、変わっていないのではないか(違ったら失礼)と、思うほど。一見には敷居の高いエリアだが、どのような客が集まるのか、機会があれば見てみたいエリアだ。

011takaokashi.jpgここで飲めるようになるには相当修行が必要そうだ。

 さらに渋さを漂わせていたのは、高岡駅とその前にあるビル。「駅前ビル」と、そのままな名前の看板が掲げられたビルは、これまた昭和のまま時が止まったような建物。飲食店とサラ金が同居しているだけならまだしも、なぜか神社まで同居している。一歩間違えると、廃墟系のマニアが喜びそうなくたびれ具合なのに、現役で使われているのがレベルが高い。

012takaokashi.jpgまったく飾り気のない「駅前ビル」という名称がイイ!
013takaokashi.jpgビルの中に神社があるのは、どういう事情なんだ?

 高岡駅の駅ビルも、くたびれた具合が濃厚な渋さを味わせてくれる建物だ。いくつも空きテナントがあるので建て替え予定でもあるのかと思ったら、「テナント募集中」の張り紙があるので単に店子がいないだけのようだ。建物の最奥には、昭和を濃縮したような喫茶店も。コーヒーの味もしっかり昭和をしているし、駅ビルなのに一見客がおらず常連らしき客で溢れているのも独特の光景だ。

014takaokashi.jpg空きテナントのほうが多い駅前ビルなんて初めてだよ。
015takaokashi.jpg催事場にも人の姿は少ない。休日になると、人出はあるのか?
016takaokashi.jpg東京だとサブカルスポットとして注目されそうな喫茶店。
017takaokashi.jpg『まんが道』読者なら、おみくじをひくのはちょっと怖い神社だ。

 

018takaokashi.jpgこ、このポスター欲しい。

 この街には渋さだけでなく珍スポットも。『まんが道』でいく度も登場する射水(いみず)神社がある古城公園の動物園が、それだ。文章だと伝えるのが難しいが、なぜか鳥の三角関係を写真で解説していたり、手作り感溢れる妙な解説が満載なのだ。この動物園、入園料無料のため子どもたちで賑わっていたのだが、この解説を見て子どもたちはどう思うのだろうか……。

019takaokashi.jpgこの動物園。楽しい職場なのは間違いないよ。
020takaokashi.jpgだから、どうしたいんだ……?
021takaokashi.jpgこんな独特のセンスが溢れてます。  

 純粋な気持ちで聖地巡礼をしようと思ったら、妙な物ばかりに出会ってしまった取材。やはり東京で出会う、ウソくさいレトロ感と違い、もはや地方でなければ出会えない、リアルな感覚の昭和がそこにはあった。こんな街がまだ日本のあちこちにあるハズ。今年も都会の喧噪を離れて、未だ見ぬ昭和の残像を追っていくぞ!
(取材・文=昼間 たかし)

るるぶ富山 立山 黒部 五箇山 白川郷’11~’12

アツイぜ、富山。

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最終更新:2013/09/09 20:05
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