西新宿・早朝の凶行 芸能界に太いパイプを持つ被害者が襲撃された現場と背景ーー
#事件 #殺人 #犯罪 #日本"未解決事件"犯罪ファイル
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく……。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない”未解決事件”を追う犯罪糾弾コラム。
第19回
西新宿五丁目・集団リンチ殺人事件
(2008年3月)
90年代以降の再開発により、高層ビルが林立する西新宿。1日の乗降客数が日本で最も多い新宿駅から、青梅街道を西に車で10分ほど移動すると、十二社通りを境としてガラリと雰囲気が変わり、昔ながらの住宅地域が現れるのをご存じだろうか。西新宿五丁目──新宿方向に望む高層ビルが無ければ、昭和に逆戻りしたかと錯覚してしまいそうな景観の街並みである。付近を流れる神田川にかかった淀橋を渡れば、すぐに中野区という位置関係だ。
2008年3月16日午前4時過ぎ、この場所で韓国食材輸入業の金村剛弘さん(当時32歳)が数人の男に集団で暴行を受け、5日後の3月21日に脳挫傷のため死亡した。狭い路地に金村さんを追い込み、金属バットで執拗に殴打するという、あまりに残忍な犯行だった。
襲撃された金村さんは普段から熱心にスポーツジムに通い、鍛え上げられた肉体を持っていた人物である。まさか、暴行事件の被害者になるとは、誰も想像ができないような、極めて屈強な体つきだった。仕事面では父親の会社で韓国食材の輸入を手がけるほか、新宿歌舞伎町を中心にビルを複数所有し、女性専用サウナも経営する”ヤリ手”として知られていた。そして、何より金村さんが大勢の芸能人と親交があったことが、雑誌やインターネットなどのメディアの関心を誘い、それを目にした読者やユーザーから大きな注目を集めた。
事実、金村さんの芸能界の交友関係は幅広い。90年代後半にアイドルとして絶大な人気を誇り、現在は女優として活躍する「H」の元夫で、ファッションデザイナーとしても活躍する「O」は、金村さんと大親友の間柄。また、大河ドラマの主役を演じた「M」と先に離婚が決定した俳優の「T」は、金村さんを兄貴分として慕っていた。その関係を裏付けるように、「O」のブログには、一緒にスポーツジムに通う金村さんの写真が掲載されていたのだ(現在ブログは閉鎖)。そのほかにも多くの芸能関係者との交友があったといわれている。
事件当日の現場を振り返ってみよう。都心でもまだ寒さが残る3月の早朝4時15分頃。十二社通りから西新宿五丁目に入った狭い路地から、「殺せ、殺せ!」、「逃がすな!!」という怒声が聞こえるのを多くの近隣住民が聞いている。目撃者によると、犯人は目出し帽を被った十数人の男たち。取り囲まれ、泣きながら「助けて下さい!」「ごめんなさい!」と許しを請う金村さんを、男らは金属バットでメッタ打ちにし、近くに停車していた複数台の車で逃走したという。病院に搬送された際、金村さんは全身血まみれで、すでに意識は途絶えていた。惨劇の起こった場所は金村さんの自宅近くで、男らは金村さんが現れるのを待ちぶせ、異変に気付いて逃げる金村さんを300メートル以上も追いかけ回して集団で暴行に及んだのである。
実際に金村さんが襲撃された西新宿五丁目を訪れてみてまず驚いたのは、犯行現場の路地があまりに狭いことだ。この事実を知るまで、屈強な金村さんなら、相手が武器を持っていたとしても、「逃げる程度なら可能だったのでは?」と疑問を持っていたが、複数の男に囲まれれば、そんなスペースは残されていなかっただろう。また、朝といえども3月の4時は真っ暗である。細い路地が入り組んでいて、仮に土地を熟知していても、焦って走れば袋小路に行く手を阻まれる可能性は高い。さらに、現場からほど近い十二社通りは、人通りもそれほど多くなく、犯人たちにとっては逃走しやすい場所でもあった。
どうして金村さんはこのような凶行に遭ってしまったのか? 屈強な肉体を持ち、少年時代からケンカも負け知らずだった金村さんは、実はかつて新宿界隈での伝説的なチーマーだった。警察の調べによれば、金村さんは地元の暴力団関係者や不良グループにも密接な関係があり、別地域のグループと対立・抗争を繰り返していたという。今回の事件は、金村さんに恨みを持つ同種のグループの犯行として捜査が進められたが、これほど大がかりなリンチ殺人事件であるにもかかわらず、犯人の足取りは未だ掴めないままだ。さらに、2010年に発生した歌舞伎役者「I」の暴行事件とも関わりがあると一部で報道されるなど、事件の闇は深まるばかりである。
金村さんが襲撃された現場には、当時の羽振りの良さを想像させる、豪華な花束が置かれていた。華やかな世界の暗黒面を象徴するかのような、この事件が解決しない限り、金村さんの友人や近親者に安息の日々は訪れないだろう。それは、芸能界とその闇の間に股をかける「I」のような人間たちにも、やはり同じことである。
(取材・文=神尾啓子)
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