【お笑い評論家・ラリー遠田】2011お笑い界 総まとめ!「テレビバラエティ編」
#お笑い #島田紳助
楽しんご、AMEMIYA、オリエンタルラジオ・藤森慎吾、2700、渡辺直美……。2011年のテレビお笑い界でブレイクを果たした彼らには、ある共通点がみられる。それは、いずれもノリを重視する音楽系の持ちネタを得意としている、ということだ。2010年にネタ番組が次々に終わったこともあり、テレビでは漫才やコントといったしっかりしたネタはほとんど見られなくなった。それに取って代わるように台頭してきたのが、理屈よりもノリを優先する新しい形のパフォーマンスだった。
このジャンルで一世を風靡したのが、あやまんJAPANと藤森慎吾である。あやまんJAPANはひたすらノリだけを追求する宴会芸に近いパフォーマンスで話題を呼び、藤森は軽薄な「チャラ男」キャラで大ブレイクを果たした。この2組はユニットを結成してCDまでリリースした。
こういった音楽系のパフォーマーが人気を博した背景には、震災の影響も少なからずあったと思われる。2011年3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震とそれに伴う津波被害、原発事故によって、日本中が閉塞感に包まれた。そんな状況下で求められるのは、頭を使わないと理解できない知的なユーモアではなく、人を前向きな気分にするような明るく無邪気な笑いだ。音楽系の芸人は、リズムに乗って体全体を動かして、否応なしに見る者の気分を高揚させる。それはまさに、ポスト3.11の時代に似つかわしいものだった。
テレビバラエティの最前線では、そこに出演する芸人たちの顔ぶれがほぼ固定されてきた。大勢の若手芸人がテレビに出るためのチャンスを奪い合う”椅子取りゲーム”の段階は終わり、選別を生き延びた芸人たちによるハイレベルなひな壇闘争が始まっている。
2011年にこの分野で大躍進を果たしたのは、フットボールアワーの後藤輝基だ。安定感のあるツッコミとして知られていた彼は、じわじわと全国ネットのバラエティに進出。「たとえツッコミの名手」として評価されるだけにとどまらず、周りの芸人に次々に理不尽な攻撃を受けるいじられ役としても存在感を発揮し始めた。つっこんでもつっこまれても魅力を発揮できる後藤は、どんな立場に置かれても自分の持ち味を出して笑いを取ることのできる貴重な存在だ。順調に行けば、今後はMCとしての仕事も増えていくだろう。
一方、2011年のバラエティ界を象徴する存在として、有吉弘行を外すわけにはいかない。ニホンモニターによる「2011年テレビ番組出演本数ランキング」でも1位に輝いて、名実ともにテレビバラエティ界のトップランナーとなった。有吉というといまだに毒舌キャラのイメージがあるが、ただ他人の悪口を言うだけでここまでのし上がることはできない。有吉は、番組の企画や性質に合わせて、毒の濃度を巧みに使い分け、自分に与えられた役割をきっちり果たすことができる。彼は、野放図に毒をばらまくテロリストではなく、用途に合わせて毒と薬を適度な比率で調合するプロの調剤師なのだ。
2011年にテレビお笑い界で起こった事件として特筆すべきは、島田紳助の引退騒動だろう。ゴールデンタイムにレギュラー番組を多数抱えていた彼が突然の引退を表明したことで、テレビ業界に激震が走った。紳助の抜けた穴を埋めるべく、今田耕司、東野幸治をはじめとする後輩芸人たちが奔走。紳助の抜けた穴が想像以上のスピードであっという間に埋まってしまったことには驚かされた。吉本芸人は本当に層が厚い。この分厚い壁を打ち破って、他事務所の芸人や若手が入り込んでいくのは容易なことではない。
「震災ショック」と「紳助ショック」で揺れた2011年のテレビお笑い界。これからチャンスをつかみたい若手芸人にとっては依然として厳しい状況が続いている。だが、音楽系芸人の台頭に象徴される新しい動きも各所で起こり始めている。いずれかの現象がやがて大きなうねりを起こし、次なるお笑いブームへとつながる可能性はある。2011年がお笑い界にとって明るい未来へのステップとなることを祈りたい。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
時代は動き続けている。
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