超豪華”B級”文化人がロリコンで釣ってやりたい放題『ヘイ!バディー』終刊号
#昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
最新の「現在」を知るならインターネットで事足りる。けれど、ちょっと昔のことを調べようと思うと大変だ。1970年代から90年代の大衆文化を知りたくても、ネットの海にはわずかな情報しか存在しない。頼りになるのは雑誌だが、雑誌専門図書館である「大宅壮一文庫」でも所蔵は限定的だ。「国立国会図書館」でも所蔵していない雑誌は山のようにあるし、オタク文化のアーカイブとなることを期待している「明治大学米澤嘉博記念図書館」も、事業は始まったばかり。多くの出来事が歴史の記録から忘れ去られようとしている。
この連載は、誰もが忘れてしまったであろう雑誌や、そこに掲載された記事、消えた漫画家やら、小説家、ライター、文化人、サブカルスタァを記録することを目的としている。おそらく「これは面白い!」とピンとくるのは100人くらいだと思うけど、ネットにデータとして残しておけば5年後、10年後に役立つのではないかと期待している。
さて、第1回目に何を紹介しようかと本棚を見ていて、偶然手に取ったのが『ヘイ!バディー』の1985年11月号(発行:白夜書房)。「とにかく終りだよ~ん ロリコンの時代は終わった 次はティーン・エイジだ!!」のキャッチが輝く終刊号である。
この雑誌、地方の古本屋のエロ本コーナーではグラビア雑誌に混じってホコリをかぶって棚に差しっぱなしになっていることもあるようだが、売っていたら犯罪である。なにしろ「ロリコン情報誌」なのだから。終刊号たる本号でも、少女ヌードグラビアと盗撮写真が満載である。
ところが、本誌が現在でも”知る人ぞ知る雑誌”として語り継がれているのは写真が理由ではない。モノクロページの記事が80年代のB級(失礼!)文化人で占められているからだ。本号にも、漫画家・いしかわじゅんが挿絵を添える高取英が「パープーテレビ論」、南伸坊が挿絵の流山児祥の連載「現代女優論ノート」が掲載されている。さらに、『危ない1号』で知られる故・青山正明も連載を寄せているし、本サイトで「コミック怪読流」を連載中の漫画評論家・永山薫は、日本航空123便墜落事故の生存者・川上慶子のエロティシズムについて分析している(この少し前に「週刊文春」(文藝春秋)に掲載された救出中の写真がパンチラショットだったので話題になっていた)。90年代終盤くらいまでエロ本製作を貫いていた思想「読者はエロい写真見たさに買うのだから、他のページは何やったっていいだろう」を、とことん追及している雑誌といえるだろう。
こんな企画を思いつくほうが何を考えているんだ。
「ヘイ!バディー」が突然の終刊を迎えてしまったのは、当局の取締りが原因である。この少し前に白夜書房が発行した「ロリコンランド8」が”少女のワレメはワイセツにあたる”として発禁に。そのあおりを受けて”自主的に”廃刊することになったわけである。廃刊は突然の事態だったらしく、本号で予定されていた読者アンケートを見ながらの座談会は突如「廃刊記念座談会」に。
記事の冒頭では「バディーの読者像にせまる、という座談会が、突然廃刊記念座談会という皮肉な結果になりました。長い間バディーご愛読ありがとうございました。これからは少女のワレメを写真で見る事ができない世の中になります。いつかそういう日が来るのではないか、と思っていた事が現実になったわけです。みなさん、お元気で」と、半ばヤケクソな謝辞が記されている。
図らずも廃刊記念となった座談会は、もはや再現は不可能な豪華さである。参加メンバーは高取英、青山正明、永山薫、小野寺チエ、戸山優、佐藤勝範。さらに、のちに出家したりして話題になった伝説のロリコン・蛭児神建も参加。こんな面子の座談会をまとめた編集長の高桑常寿は、相当苦労したのではなかろうか。
座談会は本誌を「なんかワケのわからん雑誌だった。お笑い雑誌だと思ってた」と、やたら挑発的な蛭児神、「民主主義は~」「儒教は~」「売春防止法は~」と、やたら論理的に説明を始める高取(現・京都精華大学教授である、念のため)「引っ張って行かれるのは髪が長くてムサイ格好したのとか、太ったのとかですよ」と近親憎悪を思わせる戸山の発言とかで、とりとめもなく続いていく。
座談会の内容はともかく、元ネタの読者アンケートは秀逸だ。その一部を紹介すると「童貞ですか? いいえ45%」「自分はロリコンだと思いますか? はい86%」「あなたは将来結婚するつもりですか? する79%」「少女とSEXしたいですか? 強姦してでもしたい15% 相手の同意を得てしたい 67% 親に知られなければしたい 41%」「20才位の肉感的な女性に迫られたらどうしますか? 喜んでお相手する 69%」といった具合である。
今や世間は「処女厨」やら「二次元嫁」といった言葉、「ロリコンなので大人の女性には興味ないんです」と、ネタだかマジだかわからない振る舞いがはびこっている時代である。けれど、このアンケートを見ていると「オマエラ、チャンスさえあれば”中古”だろうと”三次”だろうと、こんな機会は二度とないと励むんだろ」と思っていた自分が正しいと確信する。
さて、廃刊にあたり多くの人がコメントを寄せているが、このページの豪華さも、やはり目を見張る。いくつかを抜粋してみよう。
「残念な事である、おそらく帝国主義が悪いのだろう」(朝倉喬司)
「自由な表現のための再生に向けてあらん限りの智恵をふりしぼってほしい」(岡留安則)
「結局、僕は最後までロリコンがよくわからなかったけど、楽しかったよ」(高杉弾)
「『ヘイ!バディー』同志編集者諸君、しばらくは羽をやすめたまえ。そして再び鳥のように自由に翔ぼうじゃないか……」(竹中労)
「廃刊とは、全く残念至極!!また新しい雑誌で、性の伝道者となって下さい」(なぎら健壱)
「変な雑誌がツブれると原稿料が入らないので困る。悪い世の中にしたい」(松田政男)
……このほかにも、板坂剛、川本耕次、ねぐら☆なお、丸尾末広などの錚々たる「弔辞」が並ぶ。正直、このメンバーに「好きなこと、書いて下さい」と原稿頼んだら、ロリコンじゃなくても、それなりに売れる雑誌ができたのではなかろうか。
ロリコンの是非はともかくとして、現代は窮屈さが増しているのは間違いない。世の中は、明らかにお行儀がよくなった。個人情報だかプライバシーとかに誰もが熱心で、余計なことを書けば、すぐに抗議だ裁判だのと言われてしまう。妙に礼儀正しさとか、立ち位置だとか、ものすごく狭いルールを押しつけられるし、無駄なく、失敗なくを要求されてしまう。で、その先に明るい未来はまったく見えない。「ヘイ!バディー」の編集長を終えた高桑は、その後はカメラマンが本業となったようで、筆者が編集プロダクションで働いていたころ、SEX体位の記事かなんかの撮影で会ったことがある。そのとき、カメラなんて素人の筆者に6×7判カメラのフィルムを交換しろとか無茶な注文をされて焦った記憶が。当時は、この雑誌の編集長と同一人物だとは知らなかったので単に「無茶な人だなぁ」と思ったが、その後、知ったときは妙に納得した。
無茶な人々が大活躍する世の中と、システムの中に取り込まれているけどそこそこ面白いものが絶え間なく供給される世の中と、一体どっちが面白いのだろうか? う~ん、どちらもイヤかも。
(文中敬称略/文=昼間たかし)
ロリコンで何が悪い!
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