「武富士」退職者は金のなる木!? 格差時代に新たな「地獄の取り立て」が激化する予兆
昨秋に経営破たんし、会社更生手続き中の消費者金融・武富士で、全社員の8割に当たる約1,300人が退職することが12月1日、分かった。一部インターネットなどでは「元武富士社員1,300人が路頭に迷う」などとも報じられたが、この約1,300人の中には希望退職者も多く含まれており、すべてがリストラというわけではないようだ。それどころか、この元武富士社員が引く手あまたで、次々に再雇用されているとの話もある。
「それは、『延滞者リスト』ですよ。それを欲しがっている債権回収業者が数多くあるんです」
そう話すのは、元武富士の社員であり、『実録「取り立て屋」稼業―元サラ金マン懺悔の告白』(小学館文庫)の著者でもある杉本哲之氏だ。
なぜ、回収業者が武富士の延滞者リストを欲しがるのか。それは、単に武富士が貸した債権を当てにしているのではなく、別の「儲かる債権」のためなのだという。
借金以外のさまざまな未払い債権、たとえば、病院の治療費や入院費、学校の給食費や授業料、奨学金、水道料金や電話利用料金、さらに税金や国民年金保険料などが回収業者のターゲットになっているのだ。
現在、長引く不況とともに格差の拡大が急速に進行し、貧困層も確実に増加している。公共料金等の未納や滞納もまた非常に多くなっており、事実、消費者金融利用の理由として「生活費の補填」が最も多いことは、複数の調査結果から明らかになっている。
つまり、消費者金融の滞納者は、公共料金なども滞納している可能性が少なくない。そこで、そうした滞納している未払い金を回収業者が債権として買い取り、滞納者に取り立てに走るというわけである。
しかも、こうした未払い債権には、これまでの借金取り立てとは違う「うまみ」があるという。それは「取り立てがしやすい」ことだと杉本氏は言う。消費者金融などからの借金については、資金業法などによって規制が強化されており、強引な取り立てができなくなっており、裁判所も、おおむね「消費者=債務者保護」の立場に立っている。
「ところが、公共料金などの未払い債権となると、裁判所も『借金とは性格が異なる』『本来払うべきもの』と、態度がコロリと変わるのです。実際、名古屋簡裁のある裁判官が、『払わないのが悪い』という判断をしたというのを聞いて、愕然としました」(杉本氏)
裁判所がこうした態度を取ると、債権回収業者が強引な取り立てを行うようになる。実際、かなり強気な行動をする業者もいるようだ。
それらの滞納金の中には、「カネはあるけれど払いたくない」といった不心得なケースがあるのも事実だが、近年の傾向は、貧困化・所得格差が進む中での「払いたくとも払えない」という厳しい状況が増えている。
それでも、医療費や公共料金は「払うのが当然」という意識が世間では強い。加えて、裁判所が同じような態度であれば、回収業者が強引な行動に出るのも無理はなかろう。
一部の自治体ではすでに公的な料金の回収を業者に依頼しているケースもあり、また、奨学金などは金額が大きいため、回収業者の格好のターゲットになっているという。
とにかく、ローンやキャッシングだけでなく、あらゆる「未払い債権」がターゲットとなり、情け容赦のない取り立ての対象になる可能性があるということだ。そして、そういう状況が加速すれば、70年代や80年代に起きた「サラ金地獄」と同様の、いや、さらに過酷な状況となるかもしれないのだ。
(文=橋本玉泉)
払えないモンは払えないんだよ!
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