不安、怒り、悲しみ……福島の子どもたちが描く”あのとき、きょう、みらい”
#本 #東日本大震災
赤や青、黄色に緑と、色とりどりの原色の絵の具を使用して描かれた子どもたちの絵。人々や動物たちが笑顔で描かれるこれらの絵を眺めていると、思わず顔がほころんできてしまう。だが、これらの絵が、被災地の子どもたちが描いたものであると知れば、そのほころびも薄れてしまうだろう。福島県相馬市に暮らす小学生たちの絵を集めた『ふくしまの子どもたちが描く あのとき、きょう、みらい。』(徳間書店)が刊行された。
編者である蟹江杏氏は、版画家として絵本の挿画や子どものお絵かきワークショップなどを行う人物。彼女は震災の翌日から、「被災地の子どもたちに絵本と画材を!」プロジェクトを開始した。かねてからの知り合いである、相馬市の教育委員会に勤務する佐藤史生氏を通じて、子どもたちに画材や絵本などを贈るこのプロジェクトでは、結果的に相馬市に7,500冊あまりの絵本と多くの画材を送ることに成功した。
また、4月初旬には実際の子どもたちの顔を見るため、蟹江氏は相馬に足を運ぶ。そこで、お絵かきワークショップを行った際、ある女の子は「私の描いたものを、みんなに見てもらいたい」と語ったそうだ。その真っ直ぐな言葉は蟹江氏を動かし、総合学習の授業として「ふくしまそうまの子どものえがくたいせつな絵展」を企画、各地で好評を集めたその展示は本書へと結実する。
そんな経緯とともに、本書に掲載される小学生たちの作品はおよそ120点。9.3メートルの大津波によって、相馬市では死者456人、行方不明者3人の被害を記録した(10月3日現在)。その中には、下校途中に津波に巻き込まれた小学生もおり、近親者が津波に流されて命を落とした生徒も少なくない。大人ですら乗り越えることの難しいこの事態に直面し、子どもたちは何を感じたのだろうか?
はじめ、子どもたちに出されたお絵かきのテーマは「新しい町」だった。色とりどりの絵の具を用いて、自分の理想とする「新しい町」を描く子どもたち。これからの時代を作る彼らが描く相馬の町は希望に満ち溢れた姿をしている。しかし、その後、より自由に描かせるためテーマを設定せずに画用紙を渡したところ、「放射能で外に出られないから、川で遊びたい」という願望を描いた子どもや、かつてあった平和な海を描く子ども、そして大津波で街や家が飲み込まれる様子を描いた子どもも多かった。ある少年は「津波の絵を描いてスキッとした」と担任の先生に話したという。彼は津波で自宅が流され、祖母を亡くした。
子どもたちは「素直で純粋」なだけではない。希望と共に、不安や恐怖といったネガティブな感情が、癒やされることのないままに同居している。だから、「津波の被害を乗り越える」「未来への希望に溢れている」といった先入観を捨て、じっくりと子どもたちの描いた絵に目を向けてほしい。そこには希望や無邪気さだけではなく、不安、怒り、悲しみ、さまざまな感情も未整理のままに描き出されていることに気づくだろう。絵画は、作者だけでなくそれを鑑賞する人を照らし出すものだ。子どもたちの絵から、あなたは一体どんなメッセージを読み取れるだろうか?
津波によって、すべてが洗い流された町は、視点を変えればあたかも真っ白な画用紙のようなもの。そこにどのような「新しい町」を描いていくのかは、子どもたちだけでなく、大人も一緒に考えていかなければならないことだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●かにえ・あんず
東京生まれ。版画家。自由の森学園卒業後、ロンドンで版画を学ぶ。帰国後、国内外で作品を発表する一方、絵本、ポスター、舞台美術なども手がける。ライフワークとして子どものためのライブペインティングや、ワークショップも行っている。著書に『夜ごと消えるお姫さま』『あんずリズム』(アスラン書房)など。
無邪気さの裏に。
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