野村総研の提訴は被害者女性への恫喝が目的? 公判3回目も具体的主張はゼロ
#セクハラ #裁判 #野村総研
日本を代表するシンクタンク「株式会社野村総合研究所」(以下、野村総研)の上海支社副社長(当時)が2007年12月、取引先企業の女性営業担当者に強制わいせつ行為を働いた、いわゆる「野村総研強制わいせつ事件」(※記事参照)。被害者女性の友人有志らがこれを告発したところ、野村総研が名誉を棄損されたとして、この友人の一人と被害者女性に1,000万円の損害賠償を求める”逆ギレ提訴”をした裁判の第3回公判が、11月18日東京地裁で開かれた。裁判までのいきさつは以下の通りである。
07年の事件発生以来、被害者女性の友人らはその女性が受けた強制わいせつ行為の他にも、他の女性らが元上海支社副社長から受けた過去の強姦や強制わいせつ、さらには業務上の背任未遂、脅迫行為、上海ミスコン出場者の個人旅行への同伴要求、マカオでの集団買春などの行いを、一次証言を元にブログや文書を通して厳しく批判してきた。
これに対し野村総研側は、こうした批判行為による「有形無形の損害」(訴状より)が「少なくとも1,000万円を下らない」(同)として、1,000万円の損害賠償を求める民事訴訟を今年5月に提訴したのである(※記事参照)。
一般に裁判で名誉棄損を主張する場合、原告は被告の主張が事実と反していることなどを指摘し、その上で賠償額を積算して請求するのが基本。これに対し、訴えられた被告は自身の主張の正当性を、証拠をそろえて立証するというのが基本的な流れだ。ところが、今回の裁判では、野村総研側が本来すべきである原告としてのそうした指摘をほとんど行わないため、裁判が一向に進まない状況にあるのだという。1回目の公判から傍聴を続けている関係者は言う。
「本来、原告の野村総研側が取るべき態度は『強制わいせつは事実ではない。もし事実と言い張るなら立証しろ』とか、『業務上の背任行為なんてうそだから証明せよ』とか次々に指摘して、それに対して被告が証拠をそろえて立証し、それを裁判官が判断して黒白つけるというのが流れなんですが、今回は野村総研がそうした具体的な反証をほとんど行っていないんです。だから被告も、訴訟を起こされただけで、裁判所で何もやりようがないという、異常な状態が続いているわけです」
また、企業犯罪に詳しい都内法律事務所のT氏は、野村総研が訴状の中で、元上海支社副社長の潔白を、積極的に主張してきていないことにも注目している。
「本来なら『事実無根だ!』と強く主張すべきところなんでしょうが、一切していません。野村総研の主張をかみ砕くと、『事実かどうかもまだ分からないのに、決まったかのような表現は世の中に誤解を与える。だから名誉棄損だ』と、恐ろしく弱気なんですね(笑)。おそらく、被告側が証人や証拠をがっちり押さえているのを知っているので、立証しろなんて言うと本当に立証されてしまうと恐れている。なので、この時点で『やりました』と言ってるようなもんですけどね」
野村総研側がこれまで行っている唯一の反論らしい行為として、元上海支社副社長の行為を被害者側が告発し続けてきたブログのプロバイダー「livedoor」に対して、「当社を『強姦企業』などの過激な言葉で不当におとしめて」いるなどとして削除要請を行い(livedoorは9月に削除)、その後、同様のブログをアップしているもうひとつのプロバイダー「FC2」(拠点はアメリカ)にも同じく削除要請を行っている(現在も運営中)。
であるならば、裁判の過程でも「ブログのどの部分が事実と反するか」を指摘すべきところであるが、これについても過去2回の公判では、なぜか一度も主張がされていない。注目された3回目も新たな主張や証拠は一切示されることはなかった。傍聴席にいた他の関係者があきれ気味に言う。
「性犯罪行為を批判されたら『うそつきだ! 名誉棄損だ!』と逆ギレして裁判を起こし、かといって裁判で『事実無根だ』とも主張しない。この野村総研の弁護士はいったい何がしたいんでしょうか(笑)。裁判が始まって半年近く経つのに、具体的な指摘すら何ひとつ出せない。この時点で犯罪を認めていると言われても仕方ない」
ここでいう「野村総研の弁護士」とは、当サイトが先日「オリンパス代理人の”あの”弁護士に市民団体が懲戒請求!」で報じた高谷知佐子弁護士(※記事参照)のことである。日本の四大法律事務所のひとつと呼ばれる「森・濱田松本法律事務所」(東京都千代田区丸の内)において会社法務を専門としているが、記事にあるとおり市民団体から懲戒請求が出されるなど、その強引な手口はしばしば注目を集めてきた。同じく高谷氏が代理人を務める光学機器メーカーのオリンパスが、高裁判決で先ごろ敗訴となった際には、産業医を悪用した高谷氏の手法に関係者が批判の声を上げている(※記事参照)。
また、野村総研が今回、一般女性を相手に1,000万円を求める訴訟を起こした行為そのものを批判する意見もある。公判に先立つ11月14日に、東京都の世田谷区議会へ「恫喝訴訟防止法案」の成立を求める請願が出されており(※記事参照)、請願の中で今回の野村総研の”逆ギレ1,000万円訴訟”が、恫喝訴訟の象徴的なサンプルとして紹介されているのである。
恫喝訴訟とは、資本力のある大企業などが不都合な事実を隠ぺいするために、社会的に立場の弱い個人への嫌がらせを目的に起こす高額な損賠賠償訴訟を指す。訴訟の勝ち負けにかかわらず、多額の訴訟費用や精神的苦痛により、被告は窮地へ追い込まれることになる。海外では多くの国や地域で規制法が制定されているが、規制がない日本では事実上の野放し状態となっている。
同請願を中心になって進めた、「みんなの党」の衆議院東京都第6区支部長の落合貴之氏は、「今回の請願で(野村総研などの)具体的な事例の存在を知り、問題の根深さを再認識している。今後も国に働きかけていく」とコメント。野村総研が被害者女性に1,000万円の損害賠償を恫喝的に求めるという一連の行為が、政治の世界でも注目され始めていることをうかがわせた。
■裁判官の弁護士事務所への天下りは当たり前!?
いずれにせよ、原告が具体的な主張を一切しないために進展しないこの裁判。そんな中で興味深い(?)”事件”がひとつ起こっていた。被告が裁判書面の中で、一部の裁判官らが「森・濱田松本法律事務所」に天下っている実態を指摘し、この構造を高谷弁護士が裁判進行に利用しようとしていると疑義を呈したのだが、その際に被告が根拠として添付した報道資料が、当サイトが10月3日付で報じた記事「グルになってダマす!? 弁護士と裁判官の”不適切な”関係」だったのである(※記事参照)。以下、被告の裁判書面から関係する部分を抜粋する。
「原告の代理人の森・濱田松本法律事務所の高谷知佐子については、報道資料(乙26)の通り、大手法律事務所への裁判官の天下りをちらつかせ、不当に司法の公正さを歪め、利得を得ようとした実態が報道されている」
ここでいう報道資料「乙26」がサイゾーの記事というわけだが、原告側はこれに対し、書面の中で「裁判官の優遇を得るために天下りをしている実態はない」と陳述。この表現が天下りそのものは否定をしていないとも受け取れるためか、裁判官から「今回の公判とは直接関係性がない」との要請で、疑義・陳述ともに削除されている。これについて、ある法律関係者は「削除の要請は裁判ではよくあること」としながら、「できれば今回は削除してほしくなかった」と説明する。
「裁判所では毎日、膨大な数の事件を扱っていますので、問題を広げすぎると事件を裁ききれない。だから、ちょっと本筋とズレたことが書面にあると、どんどん削られます。結果的に、訴状に残された狭い範囲の論点に絞ってやり合うことになる。でも本来、それでは事件の本質は見えてこない。今回で言えば、大手法律事務所への裁判官の天下りは公然の事実ですし、実際、原告の陳述は『便宜はないけど天下り自体はある』と受け取れる内容です。削除するほど関係ない話ではないとも言えます」
また、別の法曹関係者は司法の権威に関わるより深刻な問題点を指摘する。
「高谷氏は今回の裁判で、実は弁護士としての仕事を全然していません。他の弁護士から笑いものになっているとのウワサも耳にします。ただ、訴訟を起こして時間を稼いでいるだけで、5カ月も経つのに何ひとつ立証していない。こういうふざけた行為を横行させないために『裁判迅速化法』があるのだから、本来なら裁判官の権限で即日棄却されてもおかしくない。それができないのは『森・濱田松本』が業界最大手だからと見られても仕方ありませんよ」
それにしても、野村総研は仮にも1,000万円もの損害賠償金を一般女性に要求している以上、事実関係の立証に、いいかげん本気で取り組む姿勢が求められるだろう。先の傍聴人が「何がしたいか分からない」と指摘した通り、このままでは被害者女性を追い詰めるための「恫喝訴訟」と取られても仕方がない。次回12月2日の公判における野村総研弁護団の動きが注目される。
(文=浮島さとし)
本格上陸から30年だそうで。
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