爆弾テロ、ストライキ、炎熱地獄……『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア2万キロ』
#本
ユーラシア大陸を列車で横断できないだろうか――。しかも、ユーラシア大陸の中央を横切って。
そんな壮大な旅を思いつき、実行したのが『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア2万キロ』(新潮文庫)だ。著者で旅行作家の下川裕治氏は、『12万円で世界を歩く』(朝日新聞社)でデビューして以来、『アジア国境紀行』(徳間文庫)『週末アジアに行ってきます』(講談社文庫)など数え切れないほどの著書を持つ、バックパッカーの神的存在。今回の旅では、ヨーロッパ大陸最西端・ポルトガルを目指す。
ユーラシア大陸横断で、まず思い浮かぶのは、世界一長いシベリア鉄道。
この鉄道に乗れば、息を呑むほど美しいタイガの森を眺めながら、どーんとロシアを横断し、ヨーロッパ間近のモスクワまで進むことができる。けれど、アジアからヨーロッパへ、グラデーションのように目の色や食べ物が変わっていく道筋を通るべく、あえて長距離列車を何本も乗り継いで移動している。
出発は、ユーラシア大陸最東端、ロシアのソヴィエツカヤ駅。
ここから南下し、中国のハルビンから北京へと入り、一気にカザフスタン、ウズベキスタンへと進み、再びロシアに入って……、と西へ西へと向かっていく。
だが、アジアからヨーロッパへと進む鉄道は概して遅く、日本の新幹線のようにびゅんっと素早く、定刻通りには進まない。原因不明の停車は当たり前。平均時速は40キロほどだ。
その上、国や地域ごとに何かしらのトラブルが起こる。中国では、切符を購入するだけでも死に物狂い。中央アジアでは、車内の温度は40度を超える炎熱列車。”コーカサス”と呼ばれるロシアの紛争地帯では、まさかまさかの列車爆破テロ。
幸い、下川氏が乗っていた列車ではなく、1本前の列車での出来事だったので助かったが、6両が脱線し、2両が転覆という大惨事になった。日本であれば、事情聴取やら、現場検証やらで、運転再開未定となりそうなものだが、なぜか平然と列車は進み、2時間後には発車していた。不安な面持ちで乗ってみるが、翌朝、旧ソビエト連邦から独立した、アゼルバイジャンとの国境付近でナゾの出国禁止命令を受け、1晩かけてやってきた路線をUターン……と、やっぱりなかなか進まない。
政治的な背景ゆえに、無残にも列車オンリーでの最西端までの夢は散るが、アゼルバイジャン、グルジア、アルメニア、トルコ、とヨーロッパを超え、ユーラシア大陸の端っこへとたどり着く。
当初、20日ぐらいの日程で横断する予定だったが、あまりに時間がかかってしまったため、途中何度か帰国。7月に出発し、ようやくゴールを迎えたのは、10月の下旬になっていた。
本書は、列車の話というよりも、それにまつわる領土や民族問題をめぐる紛争問題や歴史的な話の分量が多く、私など、「コーカサスって、なんだ?」「アゼルバイジャン……ってどこ?」ってなレベルだったのだが、なるほど、なるほど、こういう情勢の国もあるんだなと、思いながら読み進められた。鉄道ファン、下川ファン、そして、バックパッカーにとくに好まれそうな1冊だ。
(文=上浦未来)
●しもかわ・ゆうじ
1954年長野県生まれ。旅行作家。『新・バンコク探検』(双葉文庫)『5万4千円でアジア大横断』(新潮文庫)『格安エアラインで世界一周』(新潮文庫)ほか、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園――八重山商工の夏』(双葉文庫)でミズノスポーツライター賞最優秀賞。
もっと優雅に旅したい。
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