世の母ちゃんたちの創作意欲がドカーンと爆発!!『おかんアート』
#本
世の母ちゃんたちは何故に”余計なモノ”を生み出し続けるのか!?
一般的には”母ちゃん(主婦)”ってクリエイティブな職業という認識はされていないだろうと思われるけど、実は超クリエイターなのだ。みなさんの実家にも母ちゃんがクリエイトした作品がひとつやふたつはあるんじゃないかな?
フェルトや軍手で作ったせいで手作り感があふれまくり、ゆるいにもほどがある完成度となってしまったぬいぐるみ、新聞広告や包装紙やらを使ったキレイなのか汚いのか判断しがたい紙細工、ちょっと高級なウイスキーなどの空き瓶を組み合わせて作ったオブジェ、余った端布を縫い合わせたパッチワーク的なサムシング……。
おそらく誰からも頼まれていない、もちろん報酬もない、なにより誰も喜んでいないのにも関わらず、母ちゃんが飽きるまでこれらの創作物は増殖し続け、居間のテレビの上、ビデオデッキの下、タンスの上、食器棚の空きスペースなどなど、家中の隙間という隙間にみっちりと詰め込まれていくのだ。
一応、インテリアの一種として捉えられないこともないけれど、そこは一介の主婦なのでデザインセンス等は皆無。母ちゃん作品を飾れば飾るほど部屋の雰囲気はもったりと、昭和のニオイが漂ってきてしまう。
かくいうウチの母ちゃんも、ある時期いきなり創作活動に目覚め、空き瓶の周りに紙粘土を盛ったビミョーな人形を作って家中に飾ってみたり、当時まだ一般家庭にはあまり普及しておらず、ハイテク&未来の象徴であった憧れのパソコン(PC-9801)に「機械はホコリに弱いから」ということで、イーグルサム柄のだっさい布で作った野暮ったいカバーをかけて未来感を台無しにしたりと、過剰&ガッカリなクリエイティビティを発揮しまくって、家族たちをアンニュイな気持ちに陥らせていたものだ。
そんな、迷惑だけどちょっぴり愛おしい母ちゃんたちの創作物。全国の各ご家庭でガンガン生み出されているので、数的にはすさまじい量が存在しているのだろうが、基本的に家庭内で完結している創作活動なので、これまで一般のメディアで取り上げられるということはまずなかった。しかし何を思ったか、そこにスポットライトを当ててしまった本がある。それが『おかんアート/兵庫・長田おかんアート案内』だ。
阪神・淡路大震災で大きな被害を受け、それまで昭和の雰囲気を色濃く残していた下町も壊滅状態となってしまった神戸市の兵庫区・長田区。そんな中、わずかに残った下町風情を持つ地域で静かに盛り上がりを見せているのがこの「おかんアート」だという。
本書では、兵庫区・長田区で生み出されている「おかんアート」を下町の様子と共に紹介しているのだが、各ページにみっちりとひしめく「おかんアート」の数々にも圧倒されたものの、それ以上に度肝を抜かれたのが、神戸では「おかんアート」がいろんなところで販売されているっていうこと。
こう言っちゃあアレだけど「おかんアート」なんて、家庭内に置いてあってもビンボーくささを増幅するのみでメリットなんて皆無。ヘタしたら、一人暮らしを始めてせっかくオシャレな部屋を構築しようと思っている子どものところに送りつけて心底イヤーな気分にさせ、それでもさすがに母親手作りの品なので捨てるに捨てられずに不良債権と化すような代物ですよ。まさかそれが売り物として成立しているとは……。
ま、なんにせよ「おかんアート」をこれだけ体系的にまとめて研究した本というのは世界初のものだろう。
興味深いのは「おかんアート」って各家庭の母ちゃんが各々の創作意欲を爆発させて好き勝手に作っているハズなのに、そうはいっても大した工作スキルやデザイン能力があるわけじゃないので、軍手人形はこう、空き瓶のオブジェはこう、牛乳パック工作はこう……などと、意外とよくあるフォーマットそのまんま作っている作品が多いということ。アートとはいいつつも、自己表現の手段というよりは母ちゃんたちの金のかからないヒマつぶしといった側面も強いということなのかな。
もちろんその中で、すさまじくハイクオリティな「おかんアート」もあれば、フォーマット通りに作ったつもりなのに完全にそこから逸脱して、完成形がエライことになっちゃってるアヴァンギャルド作品もあったりして、そこがまた鑑賞する楽しみのひとつでもあるのだが。
しっかし、実家に住んでいるころは思春期まっただ中の青少年をいらだたせるためのアイテムでしかなかった「おかんアート」だが、こうやって書籍としてまとまった形で多くの作品を見ていると、軍手製のキティちゃんらしき珍妙な人形をはじめ、ものすごいフリーキーな形状となってしまったフェルト製のドラえもん、カラー軍手で作った鉄人28号(しかしなんで今、鉄人28号なんだ……孫に作ってあげたとしても喜ばないだろうなぁ)などの、悪い意味での手作り感全開のどーかと思う作品たちも、ちょっと懐かしくて愛おしいものに見えてくるから不思議だ。
アーティスト気取りの芸大生あたりが大上段に振りかぶって作ったアート作品よりも、母ちゃんたちがフリーダムな感覚で作った「おかんアート」の方がずっと愛せるよ!
……ま、この原稿を読んだウチの母ちゃんが「あら、そうなの!?」とかなんとかいって、わけの分からない「おかんアート」を送りつけてきたら、即日ゴミ箱にダンクしちゃうと思うけど。
(文=北村ヂン)
『おかんアート』入手先
【店舗販売】
海文堂書店
〒650-0022 兵庫県神戸市中央区元町通3丁目5番10号
電話:078-331-6501/FAX:078-331-1664
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