遺品から浮かび上がる”生の営み”『アントキノイノチ』
#映画
生きることと、恋をすること。決して楽しいことばかりでなく、つらく苦しい局面も必ずある。今週は、人生のそうした要素に真正面から向き合い、深い感動を与えてくれる新作映画2本を紹介したい(いずれも11月19日公開)。
『アントキノイノチ』は、さだまさしによる原作小説を、『ヘヴンズ ストーリー』(2010)の瀬々敬久監督が映画化した作品。高校時代のある事件がきっかけで心を閉ざしていた杏平(岡田将生)は、父親の紹介で遺品整理会社の作業員として働くことに。仕事仲間の女性・ゆき(榮倉奈々)に次第にひかれていく杏平だったが、ある日現場で起きたトラブルがきっかけで、ゆきの衝撃的な過去を知らされる。そして、思いを伝えられないでいる杏平の前から、ゆきは姿を消してしまう。
過去のつらい体験で心に深く傷を負った若い男女ふたりが、遺品整理の仕事を通して「生」に向き合い、再び生きる意志を取り戻していく姿を描く。若者たちのトラウマになる出来事はケータイ小説などでも頻出するありがちなものだが、孤独死のあった住居に残るリアルな”死”の痕跡や遺品から相対的に「生の営み」が浮かび上がることにより、彼らの苦悩があらゆる世代に普遍的で切実なものに感じられる。慌ただしい日常の中でつい忘れがちな「命のありがたさ」を改めて気づかせてくれる作品だ。
もう1本の『ラブ&ドラッグ』は、『ラスト サムライ』(03)のエドワード・ズウィック監督が、性的不能治療薬「バイアグラ」のセールスマンの回顧録を映画化したラブコメディー。製薬会社の営業マンになり、担当地区の病院を回って新薬を売り込むジェイミー(ジェイク・ギレンホール)。ある日営業先の病院で、若く美しいパーキンソン病患者のマギー(アン・ハサウェイ)と出会う。ふたりは早々にベッドインし、「体だけの関係」と割り切って付き合うことに合意するが、やがてジェイミーは本気になり……。
男性目線だと、まず興味が向かうのは、あのバイアグラ大流行の舞台裏と、アン・ハサウェイのヌードだろうか。今年はどういうわけか、ナタリー・ポートマンの『抱きたいカンケイ』、ミラ・クニスの『ステイ・フレンズ』そして本作と、ハリウッドの人気若手女優がセックスフレンドを演じるラブコメが続いているが、惜しみない脱ぎっぷりではハサウェイがダントツ。難病患者と恋愛がテーマのストーリーにしては珍しく、患者と健常者のカップルの本音の部分がコミカルな描写も交えて丁寧に描かれており、ありきたりのお涙頂戴になっていない点もいい。登場人物に感情移入して笑い、心の痛みも感じながら、自分の人生と大切な人との関係を見直す――そんな気づきをもたらしてくれる快作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『アントキノイノチ』作品情報
<http://eiga.com/movie/56054/>
『ラブ&ドラッグ』作品情報
<http://eiga.com/movie/55881/>
シャレですか。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事