電力という利権に群がる腐敗構造を暴くルポ『日本を滅ぼす電力腐敗』
#本 #原発 #東電
東日本大震災による福島第一原発事故から8カ月が経過した。いまだ福島の状況は収束の目処もつかず、不安な話題ばかりが聞こえてくる。また、当事者である東京電力は、被災地である福島県およびその周辺や、事故によってさまざまな影響が及んだ人や地域に対して、これまでにどれほどのサポートやケアを行ってきたのか。その点について、具体的な情報はあまり伝えられていない。
なぜ福島は、そして日本は、このような状況になってしまったのか。そもそも、原発は安全な施設なのではなかったのか。地震や津波で揺らぐことなどなかったはずではないのか。そして、地震が多発し、しかも広いとは言いがたい島国である日本に、50基以上もの原発がなぜ存在するのか。
そうした原発の事情に対して疑問を抱いたのが、ジャーナリスト・三宅勝久氏であった。三宅氏が調査を開始すると、政界・官僚・財界ばかりか司法の場までも巻き込んだ、癒着と天下りの構図が浮かび上がってきた。そこには、国益や、公共の利益といった視点はなく、ただ利権に群がる腐敗した醜悪な現実が露骨に巣食っていたのである。それを渾身の筆でまとめたものが、『日本を滅ぼす電力腐敗』(新人物往来社・新人物文庫)である。同書はウェブサイトで公表した記事がベースになっているものの、全編が書き下ろしのルポであり、ほとんどの関係者は実名で生々しく記載されている。
筆者は市民による脱原発集会が行われている、経済産業省前で三宅氏に話を聞いた。三宅氏は天下りというものの実態を「日本を腐敗させている賄賂システム」と指摘。それが、今回の福島やひいては日本を窮地に陥れた元凶であると怒りを露わにする。
そして、「張本人は誰なのか」を明確にすることが重要であると三宅氏は強調する。
「『東京電力』という人はいませんし、『経済産業省』という人もいないですよね。東電や経産省に抗議することも非常に重要なことですが、それだけでは不十分。本当に責任ある人間が組織や団体の中に隠れて、責任を取らないどころか天下りでたっぷり甘い汁を吸っている」(三宅氏)
そして、甘い汁を吸うだけでなく、そうした癒着が放置されることで、安全よりもカネが優先される土壌が作られていく。その結果、いざ不測の事態が起きた場合、危険な状況を押し付けられるのは庶民であり消費者なのである。「危険な状況を作り出した『真犯人』をあぶり出すことが大切」と、三宅氏は繰り返す。
また、その『真犯人をあぶり出す』作業は、「実は誰にでもできる作業」だと三宅氏は言う。
「たとえば、有価証券報告書などを丹念に見ていけば、必ず役員などの素性や経歴が分かります。天下りを追及するのは、ジャーナリストの専売特許ではありません」(三宅氏)
世の中の腐敗や不正を見出すことは、一般市民にも十分できることであり、また重要であると三宅氏は言う。そうした腐敗に目を光らせるための参考書としても、本書は優れた1冊となろう。
(文=橋本玉泉)
ズブズブ。
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