女たちの愛憎が複雑に交差 鬼才・園子温監督最新作『恋の罪』
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日常の風景があれよあれよという間に修羅場に変わっていく。もちろん巻き込まれたくはないが、怖いもの見たさも捨てきれない――そんな都合のいい欲求にしっかり応えてくれる、日米の鬼才監督ふたりの最新作を紹介しよう。
11月12日公開の『恋の罪』(R18+指定)は、海外の映画祭でも評価の高い園子温監督が、1990年代に渋谷区円山町のラブホテル街で実際に起きた殺人事件から着想を得て”女の性(さが)”を探求した衝撃作。殺人課の過酷な仕事と穏やかな家庭生活のギャップを埋めるかのように、愛人との情事を重ねる刑事・和子(水野美紀)は、円山町の廃墟同然の木造アパートで女性の変死体が見つかった事件に興味を抱く。人気作家を夫に持つ専業主婦・いずみ(神楽坂恵)は、空虚な生活の寂しさを紛らすため販売員のパートを始め、やがて”女”を売りものにする仕事へと踏み込む。いずみが渋谷で出会った美津子(冨樫真)は、昼は大学のエリート助教授、夜は街角に立つ売春婦という2つの顔を持っていた。女たちの愛憎がエスカレートし、事態は避けがたく破局へと向かっていく。
ベルリン国際映画祭で2賞を受賞した『愛のむきだし』(09)、ベネチア国際映画祭正式出品の『冷たい熱帯魚』(2010)に続き、本作でもカンヌ国際映画祭正式出品を果たした園監督。過激な演出と圧倒的な表現が持ち味の監督の挑戦に、主演女優3人がそれぞれヌードも厭わぬ渾身の演技で応えた。彼女たちが演じる愛の営みは、時に妖艶で、また時に葛藤に満ち、さらに壮絶ですらある。女性との関係に悩んでいる、あるいは女子をもっと深く知りたい男子は全員必見。そして願わくば女性観客にも、「恋の罪」で描かれた女の生き様を正面から受け止め、新しい時代の女性像を模索する手がかりにしてもらうことを期待したい。
同じく11月12日に封切られる『コンテイジョン』は、マリオン・コティヤール、マット・デイモン、ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレット、グウィネス・パルトロウ等々、主役級のスターをきら星のごとく配したサスペンス大作だ。強力な新種ウィルスが香港で発生し、出張で訪れたアメリカ人女性をきっかけに感染が世界中に拡大。接触感染し数日で命を奪う未知のウィルスに対し、新薬開発は遅々として進まず、暴動や略奪、誘拐が各国で横行する。目に見えない恐怖の中で、人々は生き残る道を必死で探る。
『オーシャンズ』シリーズで豪華キャストならお手のもののスティーブン・ソダーバーグ監督が、アカデミー賞4部門受賞の『トラフィック』に近い実録風のスリリングな群像劇を巧みに構築。ワクチン開発にあたる研究者、自ら感染するリスクを負いながら患者を診る医師、ブログで大衆の不安をあおるフリー記者、そして家族をウイルスに奪われた人々が、世界規模で感染とパニックが広がる状況でどう感じ、どう行動するかを、シミュレーションのようにリアルに描いた。東日本大震災後に食料やガソリンなどが品不足になり、今も放射性物質による汚染が懸念される日本で暮らす私たちにとって、『コンテイジョン』のストーリーは決して無縁の絵空事ではない。「自分ならどうするだろう?」と自問自答しながら見ることで、いつか訪れるかもしれない危機的な状況への心構えを養う効用もありそうだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『恋の罪』作品情報
<http://eiga.com/movie/56001/>
『コンテイジョン』作品情報
<http://eiga.com/movie/57182/>
園子温、幻のピンク映画。
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