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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 【原田眞人】──”暴力”を描かないから日本映画界は生ぬるい!
モントリオール映画際グランプリ監督の代表作がついにDVD化!

【原田眞人】──”暴力”を描かないから日本映画界は生ぬるい!

1111_harada_n.jpg(写真/田中まこと)

 人を殺された怒りから組織に弓を引いたチンピラと、暗い過去を持つ日系ペルー人のタクシー運転手の邂逅を描いた、映画監督・原田眞人の”原点”ともいうべきロードムービー『KAMIKAZE TAXI』(1995年公開)が、11月にいよいよ国内初DVD化。その卓越した映像センスと軽妙なセリフ回しで、たちまち世界の度肝を抜いた傑作が、長い歳月を経てHDリマスターで新生する。

「続編を作ろうよって話は以前からあったし、僕の中でもずっと生き続けてきた作品だから、本来ならもっと早い段階で出したかったんだけどね。5~6年前に一度、ポニーキャニオンから出そうって話になったこともあったんけど、そのときは流れちゃって(笑)。

 まぁでも、『わが母の記』が公開になる、このタイミングで出せるというのは自分にとってはよかったんじゃないかな。コアなファン以外にも観てもらえるという意味では、絶好の機会かな、と」

 とはいえ、95年に世に出てから、今回のDVD化までに要した時間は実に16年。世界的に高く評価された作品でありながら、これまで放置され続けたその背景には、現在の日本映画に蔓延する、ビジネス至上主義が大きく影を落としていると言わざるをえない。

「これは今のアメリカにもいえることだけど、業界全体が低予算映画とイベントピクチャーとに二極化しちゃって、監督が最も作家性を、見せられるその中間的な作品が少なくなる一方なんだよね。そのうえ、日本では映画を本格的に学べるアメリカのフィルム・インスティテュートのようなアカデミックな場所が少ないから、カネのないところから出てくる連中を育てるやつも、その環境もない。

 僕が、00年にPFF(ぴあフィルムフェスティバル)の審査員をやったときに準グランプリを獲った、上田大樹(『ワタシハコトバカズガスクナイ』)のような才能を持った若い世代が本編を撮れていない、この不幸。原作ありきの映画しか作れないってのは、やっぱり健全な状態ではないね」

 すでに巨匠の原田ですら、オリジナル脚本は、97年の『バウンス ko GALS』を最後に15年近く実現していないという厳しき現実。DVDとなった自身の出世作を通じて原田が世に問うのは、そうした閉塞的な映画業界の現状だ。

「誤解を恐れずに言えば、こうなってしまったのはやっぱり日本映画がちゃんと暴力を扱わなくなった。その一点に尽きるよね。僕は映画祭なんかで演出姿勢を聞かれるといつも『コンバティブ(戦闘的な)』って答えるんだけど、映画監督の成長は”暴力”という言葉に含まれるエネルギッシュな自己表現の力や闘争心があってこそ。まさにこの作品で描いたような、エッジの効いた暴力の世界を全部拒否してしまう生ぬるい温室社会は、映画界の発展という意味ではマイナスでしかないんだよ。

 実際、09年のカンヌ映画祭でグランプリを獲ったフランスの『A Prophet』や、その前年のベルリン映画祭で金熊賞を受賞したブラジルの『The Elite Squad』なんかは本当に素晴らしいのに、こと日本ではリスクを忌避して公開のメドすら立ってない。良質な映画を配給してきた会社が潰れ続ける現状では、容易なことではないだろうけど、若い世代がもっと冒険心を発揮できるような土壌になんとか改善していけたらなとは思うよね」

 数多の大作を手がける現在にあっても、そのスタートにあるのは常に、この作品だと原田は言う。映画でしか味わえない醍醐味。それを今一度思いださせてくれる”原点”がここにある。
(文/鈴木長月)

原田眞人
1949年、静岡県生まれ。映画監督、映画評論家のほか俳優としても活躍。特に『金融腐蝕列島 呪縛』、『突入せよ! あさま山荘事件』や『クライマーズ・ハイ』など、社会派作品に定評があり、数多くの映画賞を受賞している。2012年公開予定の『わが母の記』(井上靖原作)が、第35回モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを受賞した。

『KAMIKAZE TAXI』

1111_haradadvd_n.jpg

もともとは、オリジナルビデオとして企画され、その後に劇場映画として公開された同作。国内外の監督や俳優にも多くのファンを持つ。初公開から16年の時を経て、日本では初めてHDリマスターでDVDとなった。世界初公開カットを含む削除シーン集など貴重な特典コンテンツも多数収録している。
発売/デイライト 販売/ポニーキャニオン 価格/5040円(税込) 発売日/11月2日

最終更新:2011/10/31 20:00
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