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【東京国際アニメ祭2011秋】「今後も大幅な品質向上は望めない?」中国アニメビジネスの現状

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 多くのアニメイベントが集中するこの季節、東京・秋葉原のUDXでは「東京国際アニメ祭2011秋」が10月27日・28日の2日間にわたって開催された(主催:経済産業省/一般社団法人日本動画協会、後援:東京都)。「アニメ ビジネスマッチング&カンファレンス」と銘打たれているように、現状を踏まえたアニメビジネスの展望や情報を発信していくことが狙いとなっている。

 いくつかのカンファレンスとシンポジウムの内容を紹介しながらその傾向を探っていこう。
 

 初日の午前中には「声優甲子園記者発表」と「キングランアニソン紅白2011記者発表会」があった。

 前者に登壇した大崎徹哉SMN(NPO法人学校マルチメディアネットワーク支援センター)理事長によると、「声優甲子園」はコンテンツ制作の基盤を中高生に求めるべく、同NPOが主催する「音楽甲子園」「映画甲子園」「アニメ甲子園」に連なる企画であり、アニメ甲子園のボイスアクト部門を独立させた催しなのだという。今回の東京国際アニメ祭2011秋では28日夕方に「声優・音声製作の国際化」と題するカンファレンスもあった。声優という職業のステータスが上がってきていることの証だろう。

 和田昌之X-Arts代表取締役によれば、ネットサービス「こえ部」(面白法人カヤック)を介してWebエントリーが可能。アニメシナリオ部門、朗読部門、歌唱部門いずれにも重複して応募できると、その敷居の低さと機会の多さを強調していた。参加資格は13歳から18歳。

taf201105.jpg声優の江口拓也。

 ゲストに招かれた声優の江口拓也は、これから声優を目指す人々へのメッセージを求められ、「自分のときは声優になる方法が分からなかった。志望者にとってはいちばん分かりやすい」と、環境が整ってきている現在の状況が好ましいと語っていた。

 昨年はアニソン100曲を旗印に掲げていた「アニソン紅白」は、方針を大きく変更。アーティストと楽曲の選考基準を2010年と11年のヒット曲に絞り、それぞれのアーティストが自身の持ち歌をフルコーラスで歌うことを原則として徹底するようだ。アーティスト数も紅白各8~10組と選りすぐりになる。ただし先行者をリスペクトする姿勢は変わらず、「特別コーナー」にてそれらの楽曲を放送する。

 選考委員には作曲家の田中公平と畑亜貴が入る予定だ。また司会には鷲崎健が決定、そのMCぶりにも注目が集まる。 

 テレビ中継はBSスカパー!が担当。ノンスクランブル放送であり、加入者であれば誰でも視聴可能となっている。12月31日の22時から翌午前1時半までが放送枠だ。

 東日本大震災の被災地となった東北各県ではパブリックビューイングが行われる。上映シアターは青森県1カ所、岩手県2カ所、山形県2カ所、宮城県2カ所、福島県1カ所の計8カ所で、トータルのキャパシティは3,000人に達するとのことだ。

 現在のリスナーに合わせてイベントのコンセプトを修正してきた印象があるが、どの程度受け入れられるのか興味深い。いずれにしろ、アニメが音楽市場に活路を見出しているのは確かなことだろう。パッケージ販売でもライブイベントでも収益を上げられ、注目度も高い。夏にはアニサマという怪物的な規模のフェスまで存在する。アニソン紅白がブラッシュアップを図り、サバイブしようと眼の色を変える素地はある。

 日本のアニメが海外でどのような評価を得ているか、どのように海外でマネタイズすればよいかということに関しては、非常に多くの時間が割かれている。27日午前には「アニメーションのヨーロッパマーケット事情と、日本作品の世界市場におけるトレードギャップ」、同日午後には「海外のファン、マーケットの動向」、明けて28日には「アニメーションの北米マーケットと、ワールドテレビネットワークでの日本作品の可能性」と題するカンファレンスが行われた。

taf201102.jpg海外のファン、マーケットの動向。
日本アニメの海外販売は減少している。

 いわんとしていることは、ざっくりとは、日本のアニメは全世界で多くのファンに視聴されているが、ネットを通じてタダで観られているためにマネタイズできていない、ということである。いかにして日本の制作者に利益を還元させるか──対策として北米に於けるクランチロールのように日本以外でのネット配信拠点を設け、そこにアーカイブを集中させるという考えがあるようだが、はたしてうまくいくかどうか。27日のカンファレンスに関しては昼間たかし氏が詳しくレポートをする予定になっているのでそちらをご参照いただきたい。

 国策としての日本アニメ輸出推進に関連したカンファレンスには前述した28日の「声優・音声製作の国際化」のほか、27日の「平成23年度クール・ジャパン戦略推進事業 日印アニメ共同製作・キャラクター開発プロジェクト」発表と「アニメ映画の国際共同製作支援作品」発表がある。

 そうしたちょっとお固いタイトルのカンファレンスをよそに、27日夕方には「『80后』『90后』が変える中国のアニメビジネス」という活気あふれるシンポジウムが行なわれた。80后とは80年代生まれを指す中国語で、天安門事件以降の新世代のなかにアニメファンやヲタクが多く含まれ、この世代が中国のアニメビジネスを変えていくはずだという見方をベースに、中国と関わりの深い登壇者が語り合う趣旨のもの。

 しかし実際には、発表のアテもなく規定時間数以上の作品をつくらなければお取りつぶしの目に遭う中国のアニメーション制作スタジオはどうしても粗製乱造になりがちで、今後も大幅な品質向上は望めず、ビジネスとしても大規模な展開は難しいのではないかという悲観的な見方が大勢を占めた。

 コストがかかる手描きのアニメーションが減り、3DCGやフラッシュアニメが増える傾向からは、少なくとも日本の職人工芸的な作品づくりに対応できる制作スタジオは、そう多くないだろうことが推測できる。

taf201104.jpg百元籠羊氏。

 2006年からはアニメの輸入を絞っているとのことだが、現在はどうなっているのか。シンポジウム終了後、登壇者のひとりであるブロガー、「『日中文化交流』と書いてオタ活動と読む」管理人の百元籠羊に聞いた。

「身も蓋もない話なんですが、ニコニコ動画が中国のヲタクの視聴スタイルに与えた影響は非常に大きいんですね。みんなで動画サイトを見ながらバンバン投稿する。あるいは違法ダウンロードになりますが、それを見てネットの掲示板に書く。体験を共有する。そうやって見るのがほとんどになっています」

──2006年以降は正規ルートで入るアニメの数は減っているとのことですが、そうすると実際には日本最新の今期アニメが視聴されているということですか。

「そうですね、たとえば『Fate/Zero』のどこが楽しかったとか、『ガンダムAGE』つまんねーとか。『ガンダムAGE』は本当に俺たちの望むガンダムだったのか?  と、おまえらは何を語っているんだ(笑)と言いたくなる事態が起こっているんです」

──では、感覚は共有できているわけですね。

「ときどきポロっと分からないところが出てきたりしますね。今期だと『ベン・トー』は日本のスーパーのシステムを知っていなければ(※スーパーで売られている弁当が閉店間際になると値引きのシールを貼られて価格が数十%から半額オフになる)難しいというのと、セガ(のゲーム機)なりなんなりの前提知識が必要になってしまうので。

 ただ、一度ハマると非常に面白い。今期、ディープ層にウケたのが『境界線上のホライゾン』(※設定厨とでも呼ぶべき設定の細かさが特徴)、あれは世界観などの知識を前提として持っていれば持っているほど面白いということで、マニアの間では設定一覧表ができている」

──いわゆる萌えアニメを見て、ブヒブヒ言っている人もいるんですか。

「はい、バッチリいます。『まよチキ!』が素晴らしいと言っている人間もとても多いんですよ。いま日本のヲタクがこれをチェックしているという最先端にはついてきていますね。ただ女性のヲタクは二次創作がメーンになるのでちょっと独自ですね。TIGER & BUNNY』も台湾で一度ブレークしてからでないと弾けませんでしたから。男性ファンに関しては日本のヲタクに近くなってきていると同時に、女性に関しては独自の市場が形成されつつあるというところです」

 この「『80后』『90后』が変える中国のアニメビジネス」の前の時間帯には「アニメ音楽のマニア的分析」と題するシンポジウムがあった。

 タイトルからすると、一見、商用メジャーアニメのサントラに対するウンチクかとも思ってしまうが、実際には、CHAGE and ASKAのキーボーディストでありアレンジャーの長池秀明が『セピアいろのとけい』(きのしたがく)の映像に合わせ、鍵盤で音を出しながら作曲者と映像作家の狙いを解読していくという非常に意欲的な取り組みだった。

 スケール(音階)やコード(和音)にそれぞれ明るい(メジャー)、暗い(マイナー)などのキャラクターの違いがあることはよく知られているが、演出意図や映像のタイミングに合わせて丹念に音を織り込む劇伴音楽の作業はかなり精緻なものであることが分かる内容だった。

 登場人物にピアノやチェロなど象徴的な音楽が割り振られる。シーンの冒頭にはそのくくりを表す、たとえば終礼の「キンコンカンコン」的な基本フレーズが奏でられ、そのバリエーションが展開していくことで同一性を保つ。登場人物の心情描写を音楽でつづけたあと、フレーズのおしりに「~何?」と言うような注意を喚起する音を付加して登場人物にこれから起きるドラマに視聴者の意識を引きつける。日本の昼メロだとディミニッシュコード一発で安直に「ガガーン」という雰囲気を出すところを、コードの下に半音をぶつけて不安定感を表現するなど、全篇にわたる作業をきめ細かく解きほぐしていく。

 企画した清野一道(財団法人デジタルコンテンツ協会)は「大学の講義としても通用するレベルのもの。映像のクオリティーは上がってきたが、音(の演出)のクオリティーを上げないとトータルとしては上がっていかない。絵に潜んだ何かを音で表せるということを知らしめていかなければ」と、その使命感を語っていた。

 アニソンが隆盛する一方で、細かな音響演出を必要とする繊細なアニメーション作品が少ないのも確か。CGツールの普及で映像制作そのものは高度化していても、音に理解がなければ音楽家に適切な注文ができず、作品総体としての質に影響する。

 この日は映像をつくる側のクリエイターが質問をしていたが、そうした質疑応答の一つひとつ、あるいはこうしたシンポジウムを重ねて啓蒙していく必要があるのかもしれない。
<28日のレポートに続く>
(取材・文・写真=後藤勝)

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最終更新:2013/09/10 16:47
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