岡島紳士×本城零次「ガチヲタの声をもっと伝えた方がいい」(前編)
#アイドル #対談 #AKB48
今夏開催された第3回選抜総選挙以降も、常に話題を提供し続けるAKB48(以下、AKB)。そんなAKBの6年近くに及ぶ歴史を踏まえ、分析を加えた2冊の本が、6月に相次いで発売された。
アイドル専門ライター・岡島紳士氏著『AKB48最強考察 岡島紳士と18人のヲタ』(晋遊舎)と、エンタメライターで”AKB48評論家”を名乗る本城零次氏著『泣けるAKB48メンバーヒストリー 少女たちの汗と涙の軌跡』(サイゾー)だ。
発売から少々時間は経ってしまったが、両著の発売を記念し、書き手の2人に、AKB以降のアイドルと、アイドルファンについて対談してもらった。
■AKB48は、マンガでたとえれば50巻まで出ている長期連載
――まずは、お互いの本を読んでどう感じましたか?
岡島紳士(以下、岡島) 『泣けるAKB』は今後、メディアの人がAKBメンバー個人の情報や個性が知りたいというときに参照する際のスタンダードになる本だと思いますね。AKBに関するこれまでの膨大なインタビューやコメントなどが参照されていて、それが客観的にまとめられている。資料として価値があるものだと思います。
本城零次(以下、本城) AKBは6年のハイコンテクストな歴史と数々のシステム変更があって、たとえると、50巻くらいまで出ている長期連載マンガなんですよ。だから、途中参戦がしづらい部分がある。歌とダンスは見れば分かりますが、50巻分の歴史の中で紡がれてきたメンバー同士の友情、各メンバーが歩んできた道のりは、パッと見ただけでは分からない。例えば、柏木由紀は選抜に入れなかった時期があり、峯岸みなみは”干され”と”推され”を経験して円形脱毛になった過去がある。そこからそれぞれの転機があり、葛藤と苦悩を経て現在がある。そんな重層的な物語を、新規ファンでも分かるようにちゃんと解説してあげるのが、自分の使命だと思って書きました。
逆に岡島さんの『AKB48最強考察』は、ヲタのインタビューが読みどころですね。”手紙厨”(熱心にファンレターを送るファンのこと)のエピソードは泣けますよ。こういうガチヲタの声はAKBの一番面白いところだし、もっと伝えていくべきだと思います。
岡島 僕はヲタの話が大好きなんですよ。『AKB最強考察』は、制作開始当初から全国のコンビニにも並ぶというのを聞いていたので、アイドルヲタのことを深く知らない層にまで、ヲタの声が届けられれば面白いなと思ってました。実際、AKBにとってヲタの存在が占める部分はとても重要だと思うので、そこは強調して作ったんです。
■AKBは握手会に行かないと真価が分からない
――今、AKBのブームでアイドル界はものすごく活況を呈しています。ただ、では「AKBがなぜこれだけ受けているのか?」をきちんと解説できているメディアは意外と少ない。AKBをアイドルブームの柱として見ている本城さんは、その理由をどこにあると思いますか?
本城 AKBは、握手会に行かないと真価が分からないと思うんです。それが、AKB以前のアイドルと一線を画すところですね。ビジュアルだけを見れば、ハロー!プロジェクトの方がよく見えるかもしれない。だけど、AKBのファンは握手会に行って、メンバーに認知(顔と名前を覚えてもらうこと)されることで、ファンとメンバーとの共同幻想が生まれてくる。一般のファンにとって、アイドルと友達のように話せるのはありえないこと。メディアの人は取材などでタレント本人と普通に話せてしまうから、その部分の価値に気付きにくいんです。そうした理由によって、ファンの熱気とメディアでの扱いとの間に温度差が出てくるのだと思います。
岡島 今年1月に出した『グループアイドル進化論』(岡田康宏との共著/毎日コミュニケーションズ)を書くときに念頭に置いたのは、ネットとヲタには勝てないということです。スピードでも情報量でも、ライター個人の力ではそこには絶対かなわない。だから、分からないことは僕より詳しい人に聞くし、『AKB最強考察』でも、著者名は「岡島紳士と18人のヲタ」になっています。
今は、「この文化さえ押さえておけば、アイドルシーン全体が分かる」といった、かつてあったような状況は完全に崩壊していて、それぞれ趣味が違っていて交わらない無数のアイドルシーンがある。それぞれが、ゆるく交わりつつも、基本的には単独で成立しているんです。
AKBでも、ももいろクローバーZでも、ぱすぽ☆でもいいですけど、それぞれのヲタは、そのグループには詳しくても、ほかのグループに関してはまったく知らなかったりする場合が少なくない。だから、状況に合わせて臨機応変に、その分野、そのグループについて詳しいいろいろな人に話を聞きにいく。
それは、アイドルを仕掛けている側についても同じです。僕はそういうやり方で、よりよい記事を作っていければいいかなと思っています。もちろん、僕自身もアイドルが大好きなので、常日頃から、あらゆるジャンルのアイドルについて、できるだけ「広く深く」見ていこうと思ってはいますが。
本城 僕は、初めてAKBを見に行ったときに、そのどうしようもないくらいの近さに衝撃を受けて、AKBを支えるシステムの面白さに興味を持ちました。さらに握手会や”ガチャの権利”(ガチャガチャで当たれば2ショットポラ撮影などが可能。09年5月に廃止)など、現場に行かないと分からない、ファンとメンバーの絆を深めていくシステムがある。待ち時間には仲間としゃべったりして、そういう時間も含めて思いを連ねていくきっかけになる。
認知されているファンとされていないファンとでは、メンバー側の対応が全然違うわけで、最初は普通にお客さんとして接していたのが、ファンレターを書くごとに名前を覚えてくれるようになる、回を重ねるごとにメンバーの対応がどんどんフランクになっていく。例えば、08年10月の「大声ダイヤモンド」くらいまでの握手会であれば、ちょっとした相談とかができたわけですよ。ファンが「今、進路に迷ってるんだ」とか、「会社でこんなことがあって」「でも、いつも励まされてるよ」みたいな。逆にファンがメンバーから相談を受けたり、そういうヒューマンな触れ合いができていたんです。
僕も含めてですけど、ヲタは人と触れ合うのが苦手じゃないですか(笑)。クラスの女子とは全然話せないけど、メンバーとはバンバン話せるというピンチケ(中高生のファン)もいたりするわけで。そうやって生まれた人と人との絆が、こうやってAKBをブレークに導いたんじゃないでしょうか。
■メンバーが入れ替わったときに人気が維持できるのか
岡島 今後のAKBを考えるとき、今の人気メンバーが卒業していったらどうなるのか、その下の世代が育っているのかという点が気になります。モー娘。は、人気メンバーの卒業、そしてその後ゴタゴタが連続したことが、今の人気低迷の理由のひとつになっている。世間の多くの人は、今の人気メンバーこそがAKBだという印象を持っていると思うので、そのメンバーが入れ替わったときに人気を維持できるのか、そこが興味深いところですね。
本城 そこはいろいろ考えていると思いますけどね。
岡島 代替わりしない手もありますよね。篠田さんが、30歳になっても制服を着ている、という。
本城 それは、実際にライブでも言ってるんですよ。武道館ライブのときに「私30まで卒業しないかも」って(笑)。ネタとしてですけど。SKE48やNMB48なども含めて、育てる側のノウハウは蓄積されつつあるので、あとは代替わりをどうするか。世代交代は今、運営も各レギュラー番組などでものすごく力を入れて頑張ってやっているところで、もし世代交代が完璧にできたとき、AKBは宝塚歌劇団やジャニーズみたいな不動の地位を築けると思いますね。
実は宝塚には生徒(団員)と触れ合える「お茶会」があって、AKBより濃いファンサービスがある。でも、それが叩かれないのは、それがもう伝統になっているから。相撲のタニマチも同じですよね。だからAKBの握手会や総選挙も、このまま続けていけば、伝統になっていくと思いますよ。
マンガでもロックでも、新しい価値観が世間に受け入れられるまでは、必ず一定の期間、有識者と呼ばれるような人たちが顔をしかめる時期がある。今、まだAKBの握手会を否定している人は、かつて、手塚治虫の漫画を”禁書”として燃やしたPTAと同じ。
アイドリング!!!やももクロZを見るまでもなく、アイドルが握手会を行うのはもはやスタンダードで、最近はK-POP歌手や三代目J Soul Brothersもハイタッチ会などを普通に行う時代ですから。生産者(アーティスト)が消費者(ファン)と感謝の交流を行うのは、少なくとも悪いことではない。射幸心を過剰に煽るのはよくないとは思いますけどね。
* * *
それぞれの見地から、AKBへの印象を語った両氏。「ファンとアイドルの正しい関わり方」などについて語った後編も、近日公開する。
(後編に続く/構成=岡田康宏)
●おかじま・しんし
アイドル専門ライター。雑誌やウェブで、アイドルに関する原稿を中心に執筆。2010年7月に自主制作したDVDマガジン『NICE IDOL(FAN)MUST PURE!!!』はAmazonアイドルDVDランクで3位を記録。近著『AKB48最強考察』(晋遊舎)。
●ほんじょう・れいじ
フリーライター・編集者。作家。AKB48を黎明期から目撃し、劇場公演を900回以上(『AKB48 LIVE!! ON DEMAND』含む)見続けている”AKB48評論家”。近著『泣けるAKB48』(サイゾー)。
ブログ <http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>
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