世界で起こった”決定的”な瞬間をとらえた衝撃の報道写真集『SHOOT ON SIGHT』
#本
報道カメラマン――。彼らは、世界で起きる”決定的”な瞬間に立ち会うため、何時間でも何日間でも被写体を追い続け、”ここぞ”という瞬間に、0コンマ何秒の世界で、すかさずシャッターを切る。
『SHOOT ON SIGHT 最前線の報道カメラマン』(辰巳出版)。タイトルを訳せば、「一瞬を狙い打つ」そんなところだろうか。本書では、雑誌ジャーナリズムの鬼ともいうべき宮嶋茂樹氏、国内最大の通信社である共同通信の原田浩司氏、そしてアフガニスタンの最前線で米軍に密着する横田徹氏が、20年以上にわたって撮りためた世界の事件・紛争をとらえた報道写真76枚がカラーで掲載されている。最初の1枚から超ど迫力で、2010年5月にタイ・バンコクで起こった暴動の際、反政府活動家が火炎瓶を持ち、自らが火だるまになる瞬間を見事にとらえている(宮嶋氏撮影)。
本書では、掲載されている1枚1枚について、酒を飲みながら3人で振り返っているのだが、知られざる舞台裏の状況や本音が次々に飛び出す。この火だるま男の現場には、実は原田氏も宮嶋氏のすぐ横にいて、まったく同じ瞬間にシャッターを切っていた。しかし、残念ながら今回の写真集では外されてしまっている。そのことについて、原田氏は酒に酔いながら、悔しまぎれにこう語る。
原田 「ちくしょう(笑)。あの時は宮嶋さんと俺、使ったレンズが違ったんだよ。(中略)このときの写真に関しては、こっち(宮嶋氏の写真)の方がいい。これは、負けたんだよなあ」
宮嶋 「おれにはすぐに分かったんだよ。これは、すごい写真になったって。原田はしばらく分かってなかったろ」
原田 「ちょっとボーっとしていて」
宮嶋 「それで、しばらくしてから”とんでもねえもん撮っちまったな”って(笑)」
一方、横田氏は、宮嶋氏・原田氏とは、報道カメラマンの中でも、若干行動のスタイルが違い、世界の紛争地を専門とし、07年以降はアフガニスタンに展開する米軍に従軍し、継続的に撮影をしている。彼の写真は、まさに戦闘中や軍隊を激写したものばかり。とくに印象的だったのが、ひとりの兵士が地面に掘った溝の中を這いずり、必死の形相で弾頭を取ろうと手に伸ばしている1枚。頭上は弾がパンパンと飛び交っていて、とても頭も上げられない状況だったという。
そして、忘れてはならないのが、すべてのテキスト部分を担当したノンフィクション作家・藤野眞功氏。彼は、2万人が収容されているフィリピン最大の刑務所での地獄の日常を記した『バタス 刑務所の掟』(講談社)でデビューし、今、注目を集めている作家のひとりだ。企画段階からかかわり、座談会の司会もこなし、さらには、1人ひとりにロングインタビューを行い、「報道カメラマンとは」「なぜ報道カメラマンになったのか」など、3人の人生そのものに迫っている。
「報道カメラマンという職業は、本当にただのハイエナなのか?」という藤野氏の質問に対し、宮嶋氏はこう答える。
「医者と並び称されるぐらい、クラフトマンシップの一番高い職業だと思っていますけど。でも、あまりそういうのを声高に言うのも大人げないし。疲れないのかね、正義のジャーナリストって」
報道カメラマンは、ワガママ放題のロクデナシ。けれど、最大限の敬意を払うべき相手、と語る藤野氏と、常に第一線で活躍する報道カメラマン3人の異色のコラボが放つ、刺激的でボリューム満点な1冊をお試しあれ。
(文=上浦未来)
●みやじま・しげき
1961年、兵庫県明石市生まれ。日本大学藝術学部写真学科を卒業後、「フライデー」専属カメラマンを経て、フリーの報道カメラマンに。40冊以上の著書があり、最新作は『再起』(KKベストセラーズ)。
●はらだ・こうじ
1964年、福岡県北九州市生まれ。1988年より共同通信カメラマンとして活動。1996、97年のペルー日本大使公邸人質事件および2001年のアフガニスタン戦争取材で日本新聞協会賞を2度受賞するなど、多くの受賞歴を持つ。
●よこた・とおる
1971年、茨城県生まれ。97年のカンボジア内戦から写真家として活動を始める。以降、コソボ、パレスチナ、イラク、アフガニスタンなど世界の紛争地を取材。著書に写真集『REBORN AFGHANISTAN』(樹花舎)等がある。
●ふじの・みさを
1981年、大阪市生まれ。成蹊大学卒業後、出版社勤務を経て著述業。週刊誌を中心に活動し、ルポタージュや小説を発表している。著者に、ノンフィクション『バタス 刑務所の掟』(講談社)、小説『犠牲にあらず』(新潮社)等がある。
渡部陽一だけじゃない。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事