巨大資本・文教堂の参入で激化する同人誌書店のシェア争いの行方
#アニメ #マンガ #同人
巨大資本の参入で、オタク産業の一角を担う同人誌書店に業界再編の兆しが見え始めている。かつては同人誌即売会でなければ手に入らなかったマンガ・アニメ等の同人誌を、いつでも気軽に買えるものへと変貌させた、同人誌書店。果たして生存競争に勝利するのは、どの書店なのか。
オタクの街、秋葉原。そこには「コミックとらのあな」「COMIC ZIN」「アニメイト」「メロンブックス」などいくつもの店舗が軒を連ねている。これらの書店が、同人誌市場を巨大化させる一翼を担ってきたことは、いうまでもない。
このマーケットに新たに参入を決めたのが、大手新刊書店チェーンの「文教堂」だ。文教堂は、大日本印刷の連結子会社で、首都圏を中心に182店舗(2010年8月時点)の書店を運営する日本最大規模の書店チェーンだ。近年では、新刊書籍の販売だけでなく、一部の書籍を対象に税抜き定価の3割で買い取り、ネット販売する新古書販売事業にも参入し注目を集めている。
現在は、販売を委託してくれる同人誌を募っている段階で、当面は9月24日に1号店がオープンした専門店「アニメガ」での取り扱いがメインだが、徐々に取扱店を増やしていく予定だという。今後、同人誌を取り扱う店舗数が増加すれば、同人誌を購入できる書店が、一気に増加していくことになる。
もうひとつ、業界での大きな話題が、今月、「アニメイト」と関係の深い同人誌書店「らしんばん」が秋葉原に進出したことだ。長らく秋葉原に店舗を持たなかった同社が、秋葉原に進出した背景には、さまざまな憶測が流れている。「アニメイト」はグループ会社や関連企業も含めれば、同人誌の取り扱いだけでなく、版権管理やキャラクターグッズの製作、映像や音楽の製作、出版も行うオタク業界の巨大企業だ。今年6月には神保町の大型新刊書店「書泉ブックマート」などを運営する「株式会社書泉」も傘下に収めている。新店舗のオープンと並行して、新たな買収で更なる体制強化を図っているとの見方もある。
こうした競争激化の中で、一部の同人誌書店は人気のある同人漫画家の囲い込みに躍起になっているという話も聞こえてくる。囲い込みとは、文字通り人気作家の同人誌を即売会後に自店舗だけの専売にすること。どの同人誌書店も、売り上げを確保する最良の手段としているようだが、その中である大手同人誌書店の「失敗」が秋葉原の同人誌書店関係者の中では語り草になっている。
「最近、秋葉原でも古参の大手同人誌書店が、同人誌の専売を断った漫画家に対して、その漫画家の商業出版された作品が入荷した際に、即日返品する”報復”を行う事件が起こった。当然、ひんしゅくを買う結果に終わってしまい、ほかの漫画家も”そんなところには販売委託できない”と、離れつつある」(ある同人誌書店員)
あえて名前は伏せるが、この話題に上がった店舗は、創業者である社長が大学などでも積極的に講演を行ったりしている、本当の意味での「古参」だ。にも関わらず「報復」が他社を潤す結果に終わるだけだと見通せなかった理由は謎だ。この書店、新刊書籍の取り扱いも行っているのだが、店頭を覗いてみると既刊の補充が十分に行われていないのが目につき(1巻があるのに、2巻がなくて3巻がある)、組織自体が、なんらかの問題を抱えていることを窺わせる。通販で売り上げを確保しているかもしれないが、供給源である漫画家から忌避されるような同人誌書店に、果たして未来はあるのだろうか。
いずれにせよ、同人誌市場のシェア争いは、大手の参入によって新たな段階に入ったといえるだろう。巨大化したとはいえ、同人誌市場は、日本のコンテンツ産業全体からすれば、僅かな部分を占めているに過ぎない。巨大化した同人誌書店同士の競争が、市場を拡大することになるのだろうか。そもそも、書店で手軽に購入できる物が「同人誌」なのかは、甚だ疑問だが。
(取材・文=昼間たかし)
同人誌やイラストの美しいデザイン100―レイアウトの基本から配色、文字組みまで
もはや無視できないマーケット。
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