「フレーム右側の人物は強い」”ガンダム”富野由悠季の『映像の原則』とは?
#本 #ガンダム
「認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを」
やや引き気味・アオリのアングルで、下から見上げるようにシャアが登場し、間を大きく取りながらしゃべる。言わずと知れたガンダム屈指の名場面だ。
誰もが知っているこのシーンも、ただ監督のセンスによったものではなく、ある法則に従って作られたものだった。『映像の原則 新装版 ビギナーからプロまでのコンテ主義』(キネマ旬報社)は、ガンダムの生みの親・富野由悠季氏が、映像作品の作り方と、映像百般に関わる”原則”を記した本だ。シナリオの書き方からカメラの撮り方、音響、照明、デジタル技術などについて、アニメ界指折りの名匠である富野氏が、独特の語り口もそのままに、全12章・300ページ超にわたって解説している。左開き・横書きと、どこか教科書を思わせる硬派な1冊となっている。
原則とは、共通に適用される基本的な決まりごとのこと。音楽の五線譜と同じように、映像制作においても流れのルールが存在する。たとえば人物の進行方向ひとつでも、観客の心理的効果に大きく作用するという。心臓に近い下手(左)は、防御しなければならない側で、弱い側。したがって、左から右に移動する場合は、弱者の上昇を示す”強い動き”となる。反対に、上手(右)は強者のポジションで、右からの移動は、自然な、受け容れやすい動きという印象を受ける。「ガンダム」第1話でも、ザクは左から、ガンダムは右から向かい合っていて、この原則に則った構図となっていることが分かる。
もちろん、上記のような技術論だけにとどまらず、「ビジュアル世代は」「(動くスピードが)速すぎてなにも見えないカットは問題外です」「病人が作るような作品を世に出したくない」など、他のアニメに対する批判もにおわせており、興味深い。
メディアツールの発達により、誰もが簡単に映像編集ができる時代となった昨今。どうせなら人とサをつけた映像編集をしてみたいもの。動画投稿サイトにアップするなら、最低限の原理原則は押さえておきたい。「認めたくないものだな……」なんて視聴者の失笑を買う前に、御大富野の技術・思想をふんだんに盛り込んだ「映像の教科書」で基本をさらっておこう。ガンダムのワンシーンを思い浮かべながら読むと、難解な理論もするする頭に入ってゆくから不思議だ。
(文=平野遼)
●とみの・よしゆき
1941年11月5日生まれ。神奈川県小田原出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、64年に虫プロダクションへ入社。65年に日本初の連続テレビアニメ『鉄腕アトム』で、初の脚本・演出を担当。67年に同社を退社後フリーとなり、”コンテ千本切り”の異名を取るほど多数の作品に参加。79~80年に総監督および原作を務めたテレビアニメ『機動戦士ガンダム』が、放映終了後に社会現象的なヒット作品となり、一躍脚光を浴びる。以降も、数々のアニメーション作品を手掛け、その監督・原作のみならず、小説やエッセーの執筆、作詞、また、金沢工業大学や京都精華大学などの客員教授を務めるほか、幅広い分野で活躍している。
なるほどね。
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