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アジア・ポップカルチャーNOW!【vol.20】

「故郷・ボルネオ島での原体験が創造力の源」世界で活躍するマレーシアの”ケンヂ”

tiger-year-2010.jpg「tiger year 2010」(c)Kenji Chai

 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』……子どものころ、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

第20回
アーティスト

Kenji Chai (ケンジ・チャイ) a.k.a. Black Fryday

 Kenji Chaiには、1年前、東京にアジアの友人たちが大勢集まった機会に紹介された。こちらが広東語が分かると知ると、うれしそうに話しかけてくれた。香港で使われる広東語には、英語が中国語風にアレンジされて混ざったり、今どきの新語や言い回しが絶えず新陳代謝している。だが、マレーシアの人の広東語は、その根源の部分をキープしている方言、というイメージがある(広東語も中国語の一方言なのだが)。そのせいなのか、Kenjiとの会話でも、自分の中のルーツを大切にしている、そんな印象を受けた。

dora01025.jpg『ドラえもん 1』(小学館)

 Kenjiの故郷は、ボルネオ島の北部にある、マレーシア領サバ洲のサンダカン市。熱帯のジャングルに囲まれた町だ。

「小さな町です。生活はシンプルで、住んでいる人たちの考え方もシンプル。のんびりしたところで育ったからなのか、夢見がちで、他の人と違うことが好きな子どもでした。外のことを知るのは、テレビや雑誌、そして映画から。小さいころは、もっぱらテレビでした」

 一番好きだった番組は、アジアではお約束の『ドラえもん』。

「あんな友達がいて、いろんな道具をくれたら、ボクの人生は楽なんだろうなあ、なんてことを夢見てました。それと、山のようにある『ドラゴンボール』のゲームカードは、今でもきれいな状態で保存していて、実家に帰るたびにチェックしています」

Heaven-&-Hell_s.jpg head-killer_s.jpg today-special_s.jpg<画像をクリックすると拡大します>
RYOKAN HOSTEL projectの壁画 (c)Kenji Chai

 現在Kenjiは、クアラルンプールを拠点に、イラストレーションのコマーシャルワークや、グラフィティ・アートのプロジェクトといった活動を精力的に行っている。同時に彼は、彼の別名でもあるBlack Frydayというデザインレーベルのアート・ディレクターでもある。つい最近は、ペナン島にある「Ryokan」というユースホステルの壁画のプロジェクトや、マレーシアの人気ヒップホップ・バンドManHanDのPVを手掛けたばかりだ。

 Kenjiの作品を強烈に印象付けるのは、キャラクターのユニークさもさることながら、そのポップでカラフルな色使いだ。それは、生まれ育った自然の環境から来るものと思っていたが、Kenjiによると「色はボクの魂の中に存在するもの」なのだという。そしてそこに、日本の漫画の影響は隠せないとも。

revolution-down_s.jpg ryokan_s.jpg RYOKAN-building_s.jpg<画像をクリックすると拡大します>
「revolution-down」「ryokan」「RYOKAN-building」(c)Kenji Chai

「のんびりとした故郷で育ったこと、抱いていた夢が、ボクの創造力の源です。そこで見たり聞いたりしたことは、今の作品のネタのための”リサーチ”だったんだなと思う。もちろん、日本のものに囲まれて育ったから、その影響も大きいです。日本人は、大胆な色使いが好きですよね。『ドラえもん』や『Dr.スランプ アラレちゃん』、『ドラゴンボール』は、キャラクターの色にまずやられました」

 漫画だけではない。日本製のドラマや音楽も、田舎の夢見がちな少年に、絶好の夢想のネタを提供していたようだ。

「家にはまだ、そのころ好きだったアイドルのポスターが貼ってあります。金城武と深田恭子、あと木村拓哉。ドラマ『神様、もう少しだけ』は、もうね……ボクの奥さんになる人は、絶対に深田恭子ちゃんのようなルックスでないとダメだ、とか、かなり思いつめてました(笑)」

 GLAYやMr.ChildrenやX Japanの歌をラジオから録音して覚え、アイドルの情報は雑誌をスクラップして保管し……。なんだか知り合いの日本の男子の話のようだ。名前もケンジだし。ところで、どうしてKenjiなのだろう?

kenji_ciai.jpg

「子どものころ見た香港映画に、Kenjiという日本人の俳優が出てたんです(現在映画監督の谷垣健治)。僕らの間では有名でした。Form4(日本の高校1年)のときに自分の英語名を何にしようか考えて、Kenjiが面白いんじゃないかって。仕事を始めるようになってからは中国語の「蔡(Chai)」という漢字をKENJIというアルファベットで作ったロゴマークをつくり、Kenji Chaiと名乗ることにしたんです」。

 だからKenjiという名前だけよりも、Chaiも含めたフルネームで呼んでもらう方がうれしいという。

「自分が中国人だということを忘れたくないから」

 これからは、中国のモチーフも作品に取り入れていくつもりだというKenjiの今の夢は、世界中を旅して、偉大なアーティストたちと出会うこと。

「彼らと一緒に巨大な作品を創りたいんです。境界のない遊技場で遊ぶ子どもたちみたいに」

 ドラえもんがいなくても、アート活動における自分の夢の一つ一つを実現しているKenji。だからこそ彼には、いつでも次の「夢」が必要なのだと思う。
(取材・文=中西多香[ASHU])

portrait_kenji.jpg
●Kenji Chai
マレーシア連邦サバ州サンダカン市生まれ。現在はクアラルンプールをベースに、イラストレーター、グラフィティ・アーティスト、キャラクター・デザイナーなどとして、さまざまな分野で活動している。コマーシャル・クライアントにVans、Black Berry、Sony、U-mobileなど。
<http://www.kenjichai.com/>
<http://www.blackfryday13.com/> 
Special thanks to Si Juan (Bigbros workshop)

なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

ドラえもん (1)

万国共通。

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最終更新:2012/04/08 23:18
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