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日刊サイゾー トップ > 社会  > ハンマーでぶっ壊された上海ミスドが裁判で勝てない理由とは?
中国人弁護士に聞いた

ハンマーでぶっ壊された上海ミスドが裁判で勝てない理由とは?

chinamrd.jpg中国版Twitter「微博」には、店舗を破壊
されて呆然とするミスド側スタッフと思われ
る男性の画像がアップされていた。

 上海市のミスタードーナツ(以下、ミスド)の店舗が、ビル管理会社にハンマーで破壊されてしまった「あの」事件。テレビで現地映像が繰り返し流れると、早速ネット上には「ふいたwww さすが中国」「やるやるとは聞いてたが……w」「ドーナツてるの?」など、いかにもな中国的騒動にコメントが殺到した。

 こうした出来事を「中国ではいつものこと」と話すのは、上海にも事務所を持ち、中国事情に詳しいコンサルティング会社のA氏だ。契約期間が残っている段階で店子が大家から追い出されたり、追い出しを拒否すると店や家を破壊されたりするトラブルは、中国では珍しくないとA氏は言う。

「分かりやすい例では、北京オリンピックや上海万博の際、会場用地の確保のために、政府や政府系ディベロッパーらによる地上げや追い出しが横行しました。一応は別の土地を用意して引越しをさせるなどの措置も講じるのですが、そういう土地は交通の便が悪い辺鄙な場所が多い。それで民もあきらめるわけですから、それだけ『いつものこと』というわけです。その証拠に、この事件は中国より日本の方が詳しく報じていますよ」

 そもそも、共産主義国家の中国ではすべての土地は国有となる。不動産として取引がなされているのは「所有権」ではなく「使用権」である。不動産業者は政府系のディベロッパーや投資会社などから長期賃借で借り上げ、その「使用権」を取引する。仮に政府が地代を一方的に上げるようなことがあれば、不動産業者も家賃を上げざるを得なくなり、ときには追い出しという事態にもなるという。

「大家の”横暴”を規制する条例も出てきていますから、マシにはなっている。とはいえ、この手の話では公安(日本の警察)を呼んでも、契約上の問題として民事扱いされて何もしてくれません」(A氏)

 「民事扱い」ということは、言い換えれば民事訴訟を起こせば勝てるということか。今回は契約期間が4年残っていたといい、ミスド側も『契約期間中に立ち退きを要求する場合は3カ月以上前に書面で連絡をする義務がある』と主張。事実、同社では民事訴訟を起こす構えだと現地メディアは報じている。しかし、これにもA氏は厳しい見方をする。

「勝てる可能性もないことはないでしょう。ただ、裁判所も政府の影響を強く受けるというのが中国という国ですから、貸主が『政府系』だと厳しい戦いにはなりそうですね」

 では、中国の法律家はこの点をどう見るのか。上海に事務所を構えるある中国人弁護士は、この「ミスド事件」を筆者からの問い合わせがあるまで「知らなかった」と答えた。

「中国ではもっと重大で甚大な権利侵害の事件が多いですから(笑)、このくらいの話ではメディアも大きく扱いませんしね。全然知りませんでした」(同弁護士)

 民事訴訟を起こした場合の見通しについては、「契約内容の詳細を見ていないため、あくまで一般論でしか言えませんが」との前提のもと、「楽観視はできない」として次のように説明してくれた。

「まず基本的な構造として、中国では『貸す側』の方が『借りる側』より立場が強い。不動産需要がまだまだ強いこの国では、借り手がうるさいことを言うなら別の人に貸せばいいと大家は考えます。その力関係で契約書が作られてしまうので、どうしても貸す側に有利な内容となる場合が多いのです。また、今回の事件でビル管理会社側は、消防当局の指導に基づいて安全上の理由で避難通路の確保に迫られたと主張しています。これが本当なら、当局からの要請による不可抗力とみなされる可能性もあります」(同)

 さらに、仮に勝訴した場合でも、どの程度の賠償金を得られるかは別問題だという。

「借り主はドーナツ屋さんですので、請求のポイントは『退去させられなければ得られたであろう店の利益』になるかと思いますが、そうした損害の発生や因果関係の立証は非常に難しく、ドーナツ屋側が期待する金額を認めさせるのは難しい。少なくとも日本やアメリカで起きた場合のような結果は望めないと思いますよ」

 訴訟で勝っても負けても、ミスド側にとって見通しは厳しいというのが実情のようだ。ところで、無残にも破壊された店舗はいまどうなっているのだろうか。中国人関係者によれば「10月11日現在、ドーナツ屋の2階には新しくカラオケ店ができていて、元ドーナツ屋だった場所はただの通路になっている」とのこと。なんと、9月の”破壊”から1カ月未満の突貫工事でカラオケの新店舗ができてしまい、近日中に開店を控えているのだという。しかも、「日本の報道があまりに大きくて現地でも反響が出始めたので、警備員が4人も店の前に常駐している」という。つまり、そのカラオケ店を急遽作るために消防法上の理由から避難通路が必要になり、通路を作るために邪魔になったミスドが追い出されたという図式だ。

 ちなみに、一般に中国でいう「カラオケ」とは、日本でいうキャバクラに似たサービスを提供する店が多く、中には「売春行為を斡旋している店もある」(前出の関係者)。今回のカラオケ店設営に政府系ディベロッパーが一部関与していることから、現地では「この店が政府関係者の接待用に使われるのではとのうわさもたっている」(同)という。

 今回の店舗に関して売春のうわさが事実かどうかはさておき、契約を無視して追い出されたミスドとすれば、到底納得できる話ではない。まさに法が通用しない(?)「人治国家」中国。中国で飲食店を数店舗展開する日本人経営者は、「これがあるからこの国は怖い。すべてが政治マター。他人事ではない」と今後を懸念する。もっとも、今回、上海の弁護士を紹介してくれたある中国人記者は、「日本だって小沢(一郎)関連の裁判は、検察ファッショの要素が大きい。しかも、日本の記者は(記者)クラブに出禁にならないように、検察批判を書けないとも聞いている。言論の自由なんてないではないか。あまり中国ばかりたたかないでほしい」と反論されてしまった。「中国も問題は多いけど、日本もいろいろ見直すべき点があると思う」との指摘には、謙虚に耳を傾ける必要があるかもしれない。
(文=浮島さとし)

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最終更新:2013/09/11 11:37
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