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知る人ぞ知る、国民的人気漫画!? 藤子不二雄の下世話パロディー『ブッチュくん全百科』

buccyu.jpg『ブッチュくん全百科』(講談社)

 ご存じ、阿蘇子元夫と不死本浩のコンビからなる漫画家・無事故無事雄(むじこぶじお)先生の代表作『ブッチュくん』。宇宙船の故障で地球にやってきて、ヨン太くんの家に居候しているドスケベ宇宙人・ブッチュくんが、小脇に抱えた4次元ポシェットから秘密道具を取り出して、みんなの夢と性的欲求をかなえてくれるユカイでエロスな漫画だ。全22巻の漫画単行本は総売上部数なんと8,000万部! テレビアニメや映画版も絶好調と、今や国民的人気漫画としての地位を不動のものとしている。

 ……って、そんな漫画知らねーよ。オレの気づかないところで、そんなヒット作が生まれていたとは! ニートで引きこもりなオレだけど、漫画だけにはちょいと詳しいと思ってたのに。悔しいのう、悔しいのう! ……なんてショックを受けている人もご安心を。この『ブッチュくん』は、『バカドリル』(扶桑社)などで知られる天久聖一&タナカカツキが生み出した架空の漫画なのだ。まあ、ほとんどの漫画は架空のお話を描いているもんだが、『ブッチュくん』に関しては漫画の存在自体が架空。どの雑誌にも連載していないし、単行本も全ゼロ巻。もちろんアニメもやってるわけない。

 現実にいない女の子の設定を考えてアイドルとして売り出すバーチャル・アイドルというのは、古くは『伊集院光のオールナイトニッポン』から生み出された芳賀ゆいや、ホリプロが大金突っ込んで大コケした伊達杏子、CGアイドルのテライユキ、最近では初音ミクをはじめとするボーカロイド勢など、結構たくさんいるのだが、設定だけしか存在しないバーチャル・漫画というのは他に類を見ないのではないだろうか。

 で、そんな『ブッチュくん』関連で唯一実際に存在するのが今回発売された『ブッチュくん全百科(おーるひゃっか)』(講談社)。小学生のころ、みんな持っていたコロタン文庫の『ドラえもん全百科』あたりをベースにしたと思われる構成の本書には、架空の単行本全巻解説やアニメ放送リスト、キャラクター大図鑑、さらには大量に発売されている(という設定の)キャラクター・グッズまで、ありもしない漫画『ブッチュくん』の情報がギッシリと詰め込まれている。

 大ざっぱにいってしまえば、『ブッチュくん』とはセクシャルな方面に特化した『ドラえもん』といった話で(ルックスは『オバケのQ太郎』かな)、まあこの手の『ドラえもん』エロ・パロディー漫画というのは同人誌の世界ではよくありそうなネタではあるのだけれど、ふざけてチョロッと描いたパロディーとは設定の細かさがケタ違いなのだ。

 のび太くんっぽいヨン太くん、しずかちゃんっぽいヒカルちゃん、ジャイアンっぽい傷ゴリラ、スネ夫っぽいチビアラブなど、膨大な数の藤子不二雄キャラっぽい登場人物たちや秘密道具(モテモテグッズ)、名場面の数々など、ここまで詳細な設定を考えるんだったらオリジナル漫画を一冊描いた方がラクなんじゃないの!? と思ってしまうくらい。

 とはいえ、やはりちゃんとした漫画を描くとなると、話のつじつま合わせやら何やらいろいろと面倒くさいことも多い。その点、設定オンリーの漫画なら、前後の流れとか関係なくオイシイところだけ作ればいいじゃん! とばかりに、『北斗の拳』『ドラゴンボール』『幸せの黄色いハンカチ』、はてはつげ義春の『紅い花』など、見境ナシでいろんな作品をパクッ……モチーフにした名場面が紹介されており、全般的にくだらないエロ・パロディーばかりなのに、なんだかすごくいい漫画のような気分になってきて、存在しない漫画『ブッチュくん』が妙に読みたくてたまらなくなってしまう。

 そこで、『ブッチュくん全百科』の後半には「幻の名作」「最新書き下ろし」と称した2作の短編漫画が掲載されているのだが、大人になった正ちゃんたちとオバケのQ太郎との別れを描いた感動作「劇画・オバQ」を彷彿とさせる「ヨン太、夏の幻影」、さらに初老に突入したヨン太くんの悲哀を描いた「ブッチュくん2010」と、どちらも子ども時代をすっ飛ばして、いきりなり大人時代の話!

 この手のストーリーって、長期連載で描かれた子ども時代の楽しいエピソードがあってこそ感動できるもんなんだと思っていたのだが、延々と設定を読まされて全22巻を読破したような気分になっている状態で読むと、それだけでなんとなーくウルッときてしまうのだ。あ、漫画って設定だけあればよかったんだ……。

 もともと、この『ブッチュくん全百科』は1999年に『ブッチュくんオール百科』(ソニーマガジンズ)として発売されたものの、「設定資料集のみの漫画」という設定が理解されなかったのか、当時は驚くほど売れなかったという。しかし、今はインターネットなどでパロディー文化も一般化してきたし、今度こそ売れるんじゃ!? ということで、大幅に書き直しした上で復刊されることになったんだとか。確かに、設定だけは存在しているものの、実態は存在しない『ブッチュくん』。ネット上でいろんな人があれやこれやと口を出して作り上げていくのにはピッタリな素材といえそう。

 架空の漫画のくせに存在するオフィシャルサイト( http://butchu-kun.com/ )では『ブッチュくん』アニメ主題歌が公開されていたり、Tシャツ通販サイト「TEE PARTY」( http://teeparty.jp/butchu-kun/ )でブッチュくんTシャツが販売されていたりと、今後もわけの分からない展開をしていきそうな『ブッチュくん』! 是非とも、うっすらと注目しておいてもらいたい漫画(?)だ。
(文=北村ヂン)

ブッチュくん全百科

妄想炸裂!

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最終更新:2013/09/11 15:37
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