【TGS2011】基調講演から見えてくるコンシューマゲーム業界の現状
#東京ゲームショウ #TGS
東京ゲームショウ 2011(TOKYO GAME SHOW 2011)が9月15日、千葉・幕張メッセで開幕した。4日の会期中、初めの2日間がビジネスデー、後半の2日間が一般公開日となる。初日には以下の基調講演が行われた。
【第1部】「ゲーム産業革命の本質」
和田洋一(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長)
【第2部】「PlayStation Vitaの全貌」
吉田修平(ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ プレジデント)
松本吉生(ソニー・コンピュータエンタテインメント SVP兼第2事業部長)
【第3部】「ソーシャルゲームが巻き起こすパラダイムシフト」
田中良和(グリー 代表取締役社長)
和田会長は、コンピュータゲームの歴史を30分に圧縮。市場の変遷を産業革命にたとえて分かりやすく解説した。一見すると、市場からは数年置きにクラッシックなゲームが退場して常に新しい主役に置き換わっていくようだが、実際は古い世代は地層のように積もり、上部に新しい要素が載っていくというのが和田会長の主張だった。
「一貫して右肩上がりに積み重なっていく。そしてそのときの推進役が評価される」(和田)
コンピュータゲームはあまりに複雑で、その始まりは特別にしつらえた装置、ひとつのソフト専用の筐体が必要だった。つまりゲームセンターのアーケードゲームである。ゲーム機は高価であり、ゲームセンターのオペレーターが購入して1プレーごとに100円玉やクォーター硬貨を回収する課金システムだった(※ゲームソフトの内容と課金システムに密接な関係があることは確かだ。ゲーセンの100円ゲームは数分で終わってしまうアクションゲーム多くなるが、数千円の家庭用ゲームでは何十時間もかけて遊ぶロールプレーイングゲームが繁栄した)。
それが、複数のゲームソフトを一台で賄える家庭用の据え置きゲーム機、主に任天堂のファミコンが登場することで、ゲーム機は一般市民が購入可能なものとなる。
PlayStation2が東京ゲームショウに見参したとき、映画『マトリックス』のDVDが展示されていたことを引き合いに出し、和田会長はここからゲーム専用機がハイブリッド機になったと指摘。そして携帯電話でのゲームプレー人口が激増した00年代前半を経て、さらに大きな変化が訪れる。
「2007年が分水嶺でした。すべてのゲーム機がネットワーク対応になったのです。かつ、iPhoneが出た」(和田)
ネットワークに常時接続された汎用機器(ゲーム専用機ではない)がゲームプレーの舞台となったのだ。匠の技で生き延びてきたコンシューマゲーム業界は慌てふためき、グリーやモバゲーが頭角を現した。コンソールで遊ぶコンシューマゲームに限らず携帯電話やスマートフォンで遊ぶソーシャルゲームまで含めれば市場全体は拡大している。そして一見さんが増えた。無料で遊んだ上で、もしアイテムその他の付加価値がほしければお金を払ってくださいというアイテム課金の制度と、ゲーム機の変化、ユーザーの変化は連動している。
この状況の変化にゲーム業界はどう対応すべきなのか。和田会長はゲームの何に重きを置くかが時代とともに変わってきたと言う。ゲーム機の処理能力が上がると次はインターフェイスの卓越さに視点が移り、それすらも特別ではなくなると、今度は誰がどんな経験をしたかというプレーログが重要になり、最後はこの経験のアウトプットを経て再びそれらを踏まえてゲーム機の処理能力開発に力点が移ると和田会長はみている(将棋は碁盤=ハードからルールとシステム、対人戦のおもしろさ、最後は解説・定石・単位取得にコンテンツのポイントが移っていったという)。
コンピュータゲームは最終的にブラウザからクラウドへとフィールドを移しそうだ。
「クラウドとは何か。根本的な革命だと思っています」(和田会長)
スマートフォンとPSPを足してPS3の描画能力を付与したかのようなPS Vitaは、流転するゲーム市場への、コンシューマゲーム業界からのひとつの回答といえるだろう。
携帯できる常時接続のネットワーク機。複数のソーシャルネットワークサービスが利用でき、もちろんゲームもプレーできる。そのゲームはセカイカメラ的なARシステムを採用した拡張現実感のあるものだ。ユーザーインターフェイスにも物珍しい感がある。第2部で行なわれたPS Vitaの講演については別稿で触れるが、この業界が時代に対応してきていることは間違いない。
第3部ではグリーの田中社長が登場。司会の男性がなかなか挑発的で、寄せられた質問から「まだ田中社長が敵なのか味方なのか分かりかねていますが」という声を取り上げるなど、グリーが東京ゲームショウに登場した意味を強調していた。
田中社長に向けられる疑問の目があまりに公然としているので、触れざるを得ないのだろう。コンシューマゲームの敵かもしれないという嫌疑をかけられている田中社長が、「そんなことはない、私はコンシューマゲームが大好きだ」と釈明に追われる部分に、ちょっと多めに時間を割く講演となった。
それは言い訳ではなく本心なのだろう。問題は、ソーシャルゲームでお金を稼ぐときには従来のコンシューマゲームとは違うやり方が出現するということだ。
例えばシステム開発に労力を費やすよりはいかにお金を使わせるための使途を考え出すかということもそうだし、徹底的にデバッグと内容の検討を繰り返してからリリースするのではなく、とりあえず一度リリースしてからネット上の反応をうかがって即座に内容を変更するということもそうだ。
裾野を広げるグリーと、技術開発を究めてトップを牽引するコンシューマ業界。コンシューマゲームを遊ばずにグリーだけを遊ぶユーザーがわざわざ幕張までやってくるかどうかも含め、ふたつの価値観が呉越同舟となる今回の東京ゲームショウ、見えてくる風景は例年とは少し異なる点があるのかもしれない。
(取材・文・写真=後藤 勝)
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