「舌の上でプチプチと……」知られざる珍味”蝉フルコース”にチャレンジ
#サブカルチャー #散歩師・朝井がゆく!
ゆるいものならなんでも大好き♪ ロリ顔ライター・朝井麻由美が気になるスポットをご案内します。
虫を料理して食べる人が、この世の中に一定数存在することは知っていた。だが、まさか自分が虫を口にする日が来るとは夢にも思っていなかった。これから、先月都内某所で開催された1日限定イベント「蝉酒場 むしくい」にて、ヒドイ目に遭った話をしようと思う。
現場に到着すると、主催のムシモアゼル・ギリコさんが店奥のキッチンで蝉を調理中だった。今日食材として使われる蝉はアブラゼミとニイニイゼミ。中野区、世田谷区、千葉県等の首都圏各地で、虫取り網で捕まえてきたらしい。
この美人が虫を食べるのだ。
今回のメニューは主に蝉を使った料理が中心だが、ムシモアゼル女史は蝉どころか、自宅でマダガスカルゴキブリを養殖しているのだとか……! もちろん、食用として。ゴキブリ……、その名前を聞くだけで心の平穏が奪われる。
ムシモアゼルさん 「朝井さん(=筆者)は虫が苦手でいらっしゃるのですね(笑)。それならなおさら、今日はたくさん虫料理を召し上がるとよいですよ! 私も昔は部屋にゴキブリが出るとそれなりに驚いていましたが、虫を日常的に食べるようになってから、まったく怖くなくなりました。他の虫についても同様です。蝉食いで、虫恐怖が薄れますように(笑)」
毒をもって毒を制する、ということだろうか。お客さんに振る舞う蝉のディナーコースが着々とでき上がるにつれ、笑顔の輝きを増すムシモアゼルさんと反比例して、私の顔は引きつっていくばかりである。本日のメニューの一部を以下に紹介する。
【本日のメニュー】(一部)
タガメオリーブオイル(パン付き) 300円
蟻の子小鉢 350円
せみくん(蝉の燻製) 400円
蝉コンフィ 400円
蝉の素揚げ 400円
蝉味噌(野菜スティック添え) 450円
食虫天ぷら(蝉+ネペンテス・ダイエリアーナ) 900円
【本日の虫スイーツ】
蝉の蜂蜜仕立て 500円
ミールワームチーズケーキ 500円
【本日のお飲物】
グサーノロホ(芋虫入りテキーラ) 650円
タガメ焼酎 550円
蟻酒 650円
ウツボカヅラ酒 1,000円
写真右が「蝉の蜂蜜仕立て」(手前)、「食虫天ぷら」(奥)。
(ネペンテス・ダイエリアーナ)も食材として登場。
これは「ウツボカヅラ酒」。でかい。
そうこうしているうちに、本日の蝉フルコース(タガメ、蟻、芋虫もあり)がテーブルに用意された。さて、役者はそろった。これでいつでも虫宴会を始められる。だが、同じテーブルに座った面々は、誰ひとり、目の前の食べ物(?)に手をつけようとしない。私もまたしかり。みんな、虫を食べにココに来たんじゃないのかよ!? 自分のことは棚に上げて、向かいに座っている男性ふたりに「食べないんですか?」と聞いてみた。
男A 「いえいえ、食べますよ、ええ」
男B 「食べます食べます。後で食べます」
男A 「まぁ……、虫の形をしているから食べる気になりづらいってところはありますけどね。でも、珍味を発見した昔の人は、こうやって未知の食材にチャレンジしてきたわけで。例えばウニだって、外側がイガイガしていて、中身は茶色っぽい粒々した物体だし、最初に食べた人は偉いよね」
男B 「それに、何を食べるか食べないかで、人種が分かりますしね。オーストラリアなんかは虫を食べますし。そういう意味では、虫を食べても死にはしないわけで。と、偉そうなこと言いつつ、僕まだ一口も食べてないですが(笑)」
ウジウジしていてもらちがあかないので、おそるおそる、蝉の成虫の天ぷらの、羽の部分をむしり取ってかじってみた。羽1枚程度なら、あまり味もせず、天ぷらの衣で包まれているので見た目のグロテスク具合も気にならない。自分に甘い私は、蝉の羽ひとかけらで満足していたら、すでにムシャムシャ蝉料理をうまそうに食べていた両隣の人に、「そんなチョビっとじゃなくて、丸ごと食べなさいよ!」と、蝉の幼虫の天ぷらを無理やり口に入れられた……。ジーザス! 私が何をしたと言うのだ!
咀嚼した瞬間、舌の上で幼虫の中身がプチプチと広がった……すかさず口直しを、と思ったが、食卓に並んでいるのは虫ばかり。唯一、虫ではないウツボカヅラ(ネペンテス・ダイエリアーナ)の天ぷらを口にしたら、生き返るような心地だった。本来、ウツボカヅラも日常的に食べるような食材ではないのに。
そして、ようやく心が落ち着いてきたころ、私に蝉の幼虫を詰め込んできた隣の女性は、デザートの虫スイーツ「ミールワームチーズケーキ」に手を出していた。ミールワームとは、ペットのエサなどとして売られている甲虫(ゴミムシダマシ)の幼虫のこと。
女性 「ミールワームのチーズケーキはプチプチしている食感で、案外クセのない味ですね。私、塩辛のようないわゆる珍味系ってあんまり好きじゃないんですけど、今日の虫料理は食べやすいです。ミールワーム、食べてみます? ほら、あーん」
”はい、あーん”のおかげで、芋虫が私の口中を不快にさせたのは言うまでもない。芋虫さえ入っていなければ、最高においしいレアチーズケーキだったのに!
18時の開始から2時間がたった頃には満席、立ち飲みスペースも身動きがとれないほどの大盛況になっていた。
食べた感想を聞いてまわったところ、「エビみたい」「燻製は濃厚でおいしかった」と、ほとんどの人が蝉料理に好印象を抱いていた。もしかして、最初から最後までしかめっ面をしていた私の方が少数派? 中には、「今後、蝉を食べたいと思っても、どこに行けば食べられるのかが分からない」とボヤく人も。これは、主催のムシモアゼルさんも日々同じことを思い悩んでいるよう。彼女にとって、普段の生活で手軽に手に入らない虫は、”ご馳走”だという。その価値観を微塵も理解できないまま、1日限定イベント「蝉酒場 むしくい」は幕を閉じた。
今後、蝉の鳴き声を聞くたびに、私はこの日のことを思い出すのだろう。今日もまた蝉が鳴き、夏の終わりを告げている。彼らは知らない、一部の人間にとって、蝉がご馳走であることを。アーメン。
●鳥肌度
★★★★★
蝉や芋虫に恐れおののく私を尻目に、「うちで飼っているマダガスカルゴキブリは、成虫サイズ(食べごたえのあるサイズ)になるまで2年ほどかかるので、とっておきの時にしか出せないのですよ(笑)」と笑うムシモアゼル女史。そうだった、このヒトは、蝉どころかゴキブリをもおいしくいただくのだった。この日、地球上で最も鳥肌を立てていたのは、間違いなく私だ。
(取材・文・写真=朝井麻由美)
●昆虫食ポータルサイト「むしくい」
<http://mushikui.net/>
今回行ってきた「蝉酒場 むしくい」を主催したムシモアゼルギリコさんが運営する昆虫食のホームページ。ディープな虫食情報が詰まっている。
白飯のお供に。
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