“核実験動画”の橋本公に聞く、もうひとつの不都合な真実『カウントダウンZERO』
#映画
オバマ大統領が2009年のプラハ演説において「核なき世界を目指す」構想を示し、世界的に核軍縮の機運が高まっている。しかしその一方で、知られざる核の脅威が我々の身近に迫っていることも事実である。
07年にアカデミー賞を獲得したドキュメンタリーの傑作『不都合な真実』のスタッフが、核兵器の脅威を警告する衝撃のドキュメンタリー映画『カウントダウンZERO』を制作、9月1日より日本で公開されている。
現在、箱根ラリック美術館の学芸主任で、03年に、1945年から98年にかけて世界中で行われた2,053回の核実験を、文字を使用せず、光の点滅と実験回数を地図上に示す映像作品を発表した橋本公(はしもと・いさお)氏は、本作をどう見るだろうか。話を聞いた。(聞き手/中村千晶)
橋本公氏 この映画は今までになく淡々と”核”の存在を語っていて、心に沁みました。核を描く映画は原爆実験シーンや焼けただれた皮膚など、直接的なものをこれでもかと見せるものが多い。でも今の若い人はそれだと内容以前に引いてしまうと思うんです。本作のようにクールな語り口で、実は驚くほど身近にある核の恐怖を伝え、問題を投げかけるスタイルは新鮮です。
多くの貴重なインタビューが入っていますが、どれも声高に叫ばないからこそ、事態の重さを伝えています。原爆の父であるオッペンハイマーが、うつろな目で「これ(核)は地球を滅ぼすものかもしれない……」と語る映像、怖いですよ。
核兵器のもとになる高濃縮ウランが、想像以上にたやすく手に入る現状もわかります。プルトニウムを少しずつ盗んで売っていた売人は、ランボルギーニとジャガーを乗り回していることを意気揚々とインタビューに答える。ロシアの海軍基地でウランが盗まれ、軍関係者が「じゃがいもですら、もっとしっかり保管されている」と言う。
アルカイダが高濃縮ウランを買おうとしていた事実も明かされます。これらは「ドカーン!」と爆発する映像よりも恐ろしいものです。「核を持っていることが安心」という意識が、9.11のようなリスクを引き起こすことを忘れてはいけない。どこかで振り上げた拳を下ろし、連鎖を断ち切らなければならないのです。
86年のレイキャビク会談は失敗してしまったけれど、今オバマ大統領が「核のない世界」を目指すと宣言し、ノーベル平和賞を受賞した。このチャンスを逃してはならない、今こそ「核ゼロ」を成功させようという思いが映画にも現れていました。ブレア元英国首相もほかの人々も訴えていますが、ゼロにすることは不可能ではないのです。
私は45~98年までに世界で行われた2,053回の核実験を、世界地図上に光の点滅と実験回数だけで示すという映像作品を作りました。「こんなにひどいんだよ」ではなく、その事実を一見キレイな映像にすると、若い人たちも「なんだろう」と興味を持ってくれます。そしてそれが何を表しているかわかったときに、真のシリアスさを感じてくれるようです。作品を見た小学3年生が核についての夏休みの自由研究を私に送ってくれたこともありました。
私は平和活動家ではありませんが、言うなれば核の現状を伝える「インターフェース」を作ったようなものです。いいインターフェースには時として”感情を排する”ということも大事。この映画も同じ意味合いを持っているのではと思います。大人はもちろんぜひ多感な少年少女に見てほしいです。
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この映画は、核に対する世界中の人々の無知さ、意識の低さが最も恐ろしいものであると描く。くしくも、映画が公開された9月1日は”防災の日”。一人ひとりが自らの安全や身に迫る危険を意識する日である。核は決して、遠い存在ではない。
●『カウントダウンZERO』
9月1日(木)映画の日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国順次ロードショー
監督:ルーシー・ウォーカー
「戦争兵器は廃絶されなければならない。我々人類が兵器によって滅亡させられる前に…」1961年、ジョン・F・ケネディ大統領の国連演説を実現できていない現在。世界中で作られている核兵器が、いかに粗末に管理され世界を危険にさらしているのか、いつ何者かの手に渡り恐ろしいテロ行為が起きてもおかしくない実態。今、世界に存在する約2万3,000の核兵器。各国の元首脳と国際的な専門家、元CIA工作員など、さまざまな視点による証言と重なりながら、背筋が凍るような事実が目前に示される。
知らないことは、隠されたこと。
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