「甘ったるい理科教育に宣戦布告!?」マッドサイエンスで理科を学ぶ『アリエナイ理科ノ実験室』
#本 #インタビュー
理系書でありながらも、一部の都道府県では有害図書指定されている悪名高き理科の実験本『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス)。生物兵器の話から核兵器まで、さまざまな科学のダークサイドと日常を結びつける斬新な切り口で、”理科をマッドサイエンスで学ぶ”というコンセプトのもと、その実験の手順を写真付きで指南してくれるシリーズ本だ。その最新刊である『アリエナイ理科ノ実験室』(同)が7月に刊行された。
空気砲やレーザー盗聴器を自作したり、草花から毒を抽出したりと、最新刊でも期待を裏切らない狂気ぶり。しかし、分かっているのは、著者が”薬理凶室”というマッドサイエンティスト集団ということのみ。いかにも危険な香りがするこの集団にメスを入れるべく、メンバーのリーダー格・へるどくたークラレ氏にコンタクトを図ったのだが、取材現場にやってきたのは、キツネのお面をかぶった謎の金髪男だった……。
――『アリエナイ理科』シリーズの著者集団のリーダーさんですか?
へるどくたークラレ(以下、クラレ) そうです。”薬理凶室”というはあくまで連名で実体はありません(笑)。関わった人たちは10人くらいでしょうか。最新刊の『アリエナイ理科ノ実験室』は、僕とPOKAという電子工作や機械工作を得意とする人物と共著ということになりますね。
――こんな危険な実験の数々は、いつもどこでやっているのですか?
クラレ フフフ、首都圏某所に実験室がありましてねぇ~。詳しい場所はヒ・ミ・ツ。でも、外でドカン系の実験をするときはちゃんと事前に許可を取っているし、周りの安全には何より気を付けています。警察に止められたことは一度もないですよ。……っていうのは読者の夢を壊しそうなので、あんまり言いたくないんですが(笑)。
――警察に止められてこそないけれど……有害図書指定はされまくってますよね?
クラレ 意外にも少なく、静岡と三重だけですね(笑)。三重県ではなぜか全シリーズが有害指定されているんですが、三重県にはすごいクレーマーのオバチャンでもいるのでしょうかね(苦笑)。もともとこのシリーズは、今の理科教育にケンカを売ろうと思って作り始めたので、叩く人が出てくるのは仕方ないと思っています。もっとも、悪書だと判断し子どもに与える、与えないは行政の仕事ではなく親の仕事じゃないんですかね? ……ま、規制大好きなファシズムに傾注しそうな低脳無能には馬の耳になんとやらでしょうけど(笑)。
――そもそも現代教育にケンカを売る意味は?
クラレ 理科に限らず、今学校で教えられている教科書の内容は約40年前からほぼ変化がないんですよ、受験テストのためだけにです。科学は日々進化しているのに、40年前と同じことを学校で教えるなんてどうかしている! こんなの、日本だけですよ。科学を理解すれば、身近にあるモノがハイテクで構成されていることを再認識できます。電子レンジからど派手な実験ができる部品が取れますし、コーラだって何が入っているか実際に作ってみることができる。教科書の中の科学は、もはや日常生活にあるごく普通の科学すら説明に値しない内容に落ちぶれていることに憂いているわけです。だから”学校の理科”にケンカを売るためにできるだけ不謹慎で、だけどちゃんとした理科になっている本を作りました。
そんな我々の蟷螂の斧ですが、実際に『アリエナイ理科ノ教科書』(2004年刊)を中学時代に読んで、今は薬学部に入りました、医学部に入りましたという声もいただいてしまい、うれしいやら恥ずかしいやらです。
――こういったアブナイ実験は、犯罪予備軍を生んでしまうという可能性も少なからずあると思うのですが。毒薬を作ったり、鉄の爪などの凶器も作ったりしてますし……。
クラレ でも、この本で作った毒薬や凶器じゃなくたって、鉄パイプで人を殴れば殺せるじゃないですか(笑)。こんな本に書いてある程度の内容で完全犯罪はできないですしね。そういうことをやっちゃうような人は、この本がなくても何らかの形でやっちゃうでしょ? 今の時代、情報へのアクセスはより容易になっているわけですから。実験本の内容が犯罪者を生むというなら、ありとあらゆる科学の本が危険書になってしまいます。火薬学の専門書なんかは、爆弾の製造マニュアルですし(笑)。科学には善も悪もありません、あってはならんのです。科学は物事を支配・制御するためのただの”道具”ですから。
――自分自身が、実験中に命の危険を感じたことはないのですか?
クラレ んー、あんまりないですねぇ。火だるまになったことがあるくらいですかね。
――ええ!? 火だるま!? それって、いわゆるお約束の”頭ちりちり”?
クラレ 残念ながら、アフロにはならなかったですが(笑)。服に火の粉が飛んで、そのままボーッと首あたりまで上半身全部が燃え上がって……。実験とは関係のない着衣着火ですけどね。
――ひえぇぇ! さすがに慌てたと……。
クラレ いや、そうでもないです。「あー、燃えてるわー」って感じ(笑)。喉と鼻の内部をヤケドすると治りにくくて大変なので、煙と火の粉は吸わないように上を向いて、燃えてる服を脱ぎました。ただ、化学繊維の服だったから、溶けたチーズのごとく糸を引き、それが固まって皮膚に貼り付いてきてたので、脱ぐ時はむちゃくちゃ痛かったですね。
――ずいぶん冷静ですね。
クラレ 慌てちゃいけないんです。事故が起こったらまずは冷静に。事故引火なら慌てて息を吸ったり、顔に燃え移ったりすると余計に大惨事になりますからね。こういう実験中の事故も貴重な経験値で、過去の痛い目を見た経験が大怪我を予防するわけです。
――『アリエナイ理科』シリーズを、実験経験の浅い人がマネして失敗する可能性もありますよね?
クラレ 失敗したらいいんじゃないですか? ちょっと爪がはがれたり、肉が削げたりするかもしれないけど、そんなケガくらいでは死なないでしょ。ケガをするのがどうしていけないんでしょう? 痛い経験をすれば、次はその轍は踏みません。今の時代、生徒にケガさせないように実験をしない学校も増えているけど、そんなんで科学を学ばせるとか噴飯モノです。科学は実学あってのものです。死なない程度のケガならどんどんしたほうがいい、その痛みの分、学ぶことがあるはずです。
――危ない実験だろうが何だろうが、臆せずトライすべし?
クラレ 身の丈に合わせて……だと思います。身の丈を知らずに危ない実験をすれば大事故の可能性が高まりますから。
余談ですが、僕は小中学生のころから、理科室の薬品や実験器具を勝手に使って実験していました(笑)。理科の授業自体は死ぬほどつまらなかったので、その分を高専など向けのちょっと本格的な教科書を読んで勝手に勉強していました。それだけに、学校のつまらない授業を聞いただけで理系分野に興味を持つ人は果たしているのか、って思いましたね。
――クラレさんにとって、”科学”って何ですか?
クラレ 科学の本質は、物事の支配と制御です。宗教や法律などに絶対的な解はないけれど、唯一科学には真理がある。お経を読んでも肌はキレイにならないけど、科学を理解すれば化粧品だって作れる。それに、災害時には法律の知識は役に立たないけど、科学があれば生き延びられるでしょう。我が家は、計画停電の時も、非常用バッテリーでずっと電気がついてましたよ(笑)。一応、今回の『アリエナイ理科ノ実験室』には、震災に乗じて非常用バッテリーやガイガーカウンターの作り方も掲載しました。実験としては危なくもなければ面白みもなく、地味ですけどね。
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『アリエナイ理科』シリーズは本作でラスト。だが、別の形で実験シリーズの本は制作予定とのこと。マッドな”薬理凶室”の暴走は続く……。
(取材・文=朝井麻由美)
●へるどくたー・くられ
爆笑秘密結社「薬理凶室」のリーダー。不良科学者、サイエンスライター、トリック設定作家、理科講師などさまざまな肩書きを持ち、コンピュータサイエンスから一般科学まで幅広く手掛ける。著書に『アリエナイ理科』シリーズ、『デッドリーダイエット』(ともに三才ブックス)、「『ニセモノ食品作り』最前線」(宝島社)などがある。
アリエナイ理科ノ実験室 ニコニコミュニティ
<http://com.nicovideo.jp/community/co1274778>
こんな教科書、欲しかった!
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