メディア界の革命児・宇川直宏が挑む視覚コミュニケーションの可能性『@DOMMUNE』
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誰もが手軽に利用できるとあって、人気を集めているUstream配信。現在、さまざまな番組が配信されているが、そのパイオニア的存在であり、日本初のライブストリーミングチャンネルが「DOMMUNE」だ。この番組は、月曜から木曜まで東京・恵比寿にあるスタジオから生配信され、19~21時のトークプログラムと21~24時のDJプログラムの2部で構成されている。2010年3月の開設からこれまで、約700番組/2,000時間を無料で配信している驚異のチャンネルだ。
このほど、その主催者である宇川直宏氏が、DOMMUNEという、未踏の視覚コミュニケーションの可能性を書き綴った『@DOMMUNE』(河出書房新社)が発売された。これまでDOMMUNEに登場してきたアーティストたちとの対話形式をメインに、宇川氏自身がDOMMUNEをひもといていく。
「DOMMUNEとは民放の劣化版ではなく、滅びゆく紙メディアの墓場だ」と語る宇川氏は、休刊してしまった「STUDIO VOICE」(INFASパブリケーションズ)や「広告批評」(マドラ出版)、「エスクァイア」(エスクァイアマガジンジャパン)といった、自身と関わりの深かった紙メディアが蘇生する場としてDOMMUNEを位置付ける。そのためトークプログラムでは、宇川氏の趣味嗜好が色濃く反映された、ディープかつ、マニアックなサブカルプログラムを中心に配信されている。また、無料配信にもかかわらず、音響システムのクオリティーが非常に高く、DJプログラムでは音にうるさい音楽ファンたちをうならせている。
そんなDOMMUNEがUst番組という枠から飛び出し、その存在感をより強く世間に知らしめたのは、震災後の緊急配信と東日本大震災復興支援イベント「FREE DOMMUNE 0」、そして「DOMMUNE FUKUSHIMA!」の開局だろう。
日本中が混乱の中にあった震災4日後、DOMMUNEではいち早く義援金を募る音楽配信を開始。国内外のアーティストによる計8回の緊急配信を行い、750万円以上の義援金を集めた。さらに、1年前から企画されていたDOMMUNE主催のフリーフェスのコンセプトを”復興支援イベント”と変え、「東日本大震災復興支援イベント『FREE DOMMUNE 0』」を企画。普段はキャパ50人のスタジオから配信しているプログラムを、1万人以上最大2万の規模に拡張させ、より多くの義援金を集めることを目的としたこの壮大なプロジェクトには、その趣旨に賛同した国内外50組近いアーティストの出演が決定。前代未聞のフェスに注目が集まったが、まさかの悪天候のため、急きょ、中止を余儀なくされてしまった。
そして「DOMMUNE FUKUSHIMA!」の開局。これは、いまだ収束の目途すらたたない原発事故が起こった福島を孤立させるのではなく、そこから何か新しいことを世界に向けて発信していきたいという、ミュージシャンの大友良英氏らが中心となって立ち上げた「PROJECT FUKUSHIMA!」のプロジェクトの一環で、福島に住む人たちの手によってリアルな情報を発信していくために作られたメディアだ。DOMMUNEがこれまで培ってきたノウハウを、いわばのれん分けした形となったDOMMUNE FUKUSHIMA!は月に2度、DOMMUNEのプログラムのひとつとして配信されている。
グラフィックデザイナー、VJ、映像作家などなどさまざまな肩書きを持つ宇川氏は現在、その片書きをすべて捨て、365日DOMMUNEに全エネルギーを集中させている。無料配信にもかかわらず、なぜそこまでしてまでこのプロジェクトに賭けているのか。宇川氏は言う。「DOMMUNEは極私的な『現在美術』作品」だと。
図らずも、震災をきっかけにメディアとしての役割を見直されたUstream。活字メディアだけでなく、民放テレビ局も崩壊へのカウントダウンが始まっている今、DOMMUNEは”ファイナルメディア”として、日々その存在感を増している。はたしてこの快進撃はどこまで続くのか、今後も目が離せない。
(文=編集部)
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