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演劇『星空のコンチェルティーノ お琴』

被災地復興への願いを込め、宮城県で上演され話題となった演劇が東京へ

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 雷雨に見舞われた8月26日(金)昼過ぎ。新宿駅西口から徒歩数分の劇場「新宿スペース107」では、この日から3日間に渡り上演される『星空のコンチェルティーノ お琴』の開演に向け、最後の稽古が行なわれていた。東日本大震災の被災地復興への願いを込め、8月中旬に宮城県仙台市で上演されたこの『星空の~』は、劇場に招待された被災者の感動をよび、現地で話題となった。

 演劇ファン待望の東京公演初日、開演を数時間後に控えた稽古現場を訪れると、客席でマイクを握り舞台へ真剣な眼差しを向ける演出家の大日琳太郎さんから役者へ、「体の向きをもう少し斜めに」などと、柔らかい口調ながら、細かい指摘が矢継ぎ早に出される。そんな大日さんと、ドレス姿で舞台の床を這いつき回り、喜怒哀楽の表情を急展開させていくお琴役で主演の上杉綾さんにお話しをお伺いした。

hoshizora082702.jpg開演を間近に控えた稽古模様

──簡単に作品のあらすじを教えてください。

上杉綾(以下、上杉) 舞台は太平洋戦争後間もない仙台です。ガダルカナル島から復員した作曲家・光夫は、ある日焼け跡の井戸端で、仙台空襲で亡くなった弟・千松の靴の片方を見つけ悄然としていると、私の演じるチャイナドレスの女・お琴と死亡した戦友・絹川により井戸の中にひきずり込まれ、劇団・星の一座と出会います。そこにはなぜか、死んだはずの弟・千松や准尉・原田が……実はこのお琴は、空襲で焼けた光夫の竪琴の精が、長年実兄を探しつつも出会えずに死んだ娼婦の肉体を借りて、人間に変成した姿でした。やがてその娼婦の霊がお琴に憑依するのですが、彼女が持っている兄妹の証の鈴を、なぜか光夫も持っていたのです。なぜ、光夫は復員後に曲を書けなくなってしまったのか? お琴とは一体何者なのか? そして、その娼婦と光夫は実の兄妹なのか? 夢と現実、生と死の世界を行き来しながら、様々な謎が徐々に解き明かされつつ、登場人物たちは、それぞれが進むべき道に至るという、回復の物語です。

hoshizora082703.jpgお琴役の上杉綾さん(右)と光夫役のオペラ
歌手・大山大輔さん(左)

──今回の演目『星空の~』は、初演が1992年ですが、今回なぜ改めてこの演目を上演なさろうと思われたのでしょうか?

大日琳太郎(以下、大日) 私は宮城県出身でして、今回の震災では実家の数キロメートル先まで津波が迫りました。演劇を通じ、少しでも被災された方々の力になりたい、生まれ育ったふるさとが元気になるために、何かできることがしたいとの思いから、この演目を選びました。初演は純粋な恋愛物語でしたが、過去の再演を通じ改訂を重ね、今回は時代と場所の設定を太平洋戦争後の仙台とし、光夫も第2師団(仙台所在部隊がメイン)の衛生隊としてガタルカナル島に出征し、還ってきた復員という設定にしました。光夫が生きる希望を取り戻す姿と、被災地の復興への願いを重ね合わせました。

hoshizora082704.jpg主演(お琴役)・上杉綾さん

──8月13~14日には、宮城県でも上演されましたが、いかがでしたか?

上杉 被災された現地の観客の方々は、大きな悲しみを経験し、非常に感性が研ぎすまされていらっしゃいます。ですので、生半可な演技では観客の心に届かないと感じたので、一つひとつの言葉、仕草に命を込めなければと、必死の思いでやりました。

大日 上演前には、私たち自身の手で、仙台近郊の避難所や仮設住宅に招待券を配って回り、数十名に劇場へお越しいただきました。上演後、「非常に感動し、元気を与えられました」「私たちも光夫のように、あの世に行ってしまった人に会いたい」と、感想も様々で、改めて被災された方々の心の複雑さを実感しました。

──今回のキャスト、スタッフにも宮城県出身が多いとのことですが。

大日 4分の3ほどでしょうか。地元の知人の伝手などをたどってお声がけし、参加していただきました。ですので、キャストの中にも仕事が終わってから駆けつける人がいたりするので、全員揃っての稽古も、宮城公演では現地で1週間、今回の東京公演では、昨日1日のみです。今日も、まだ来ていないキャストがいますよ(笑)。

──上杉さん演じる主人公のお琴は、死ぬ前の姿、死後さまよう姿、そして星の一座のメンバーと、時空を超え次々と役柄が変わります。また、怒ったかと思うと笑い、すると今度は急に悲しんだりと、表情が急展開する演技も多いですが、一番苦労なされた部分はどこでしょうか?

上杉 役柄や感情が次々と変わり、台詞も仙台の地元の言葉が入っていたり、韻を踏んでいたりと、気を抜くと自分が演じている役を見失ってしまいそうになります。そんな時には、私がこの舞台で一番伝えたい「ふるさとがなくなったわけじゃない! 見て、地平線の向こうにあなたの夢が横たわっているわ」という言葉を思い出し、軸を見失わないようにします。また、宮城県出身やベテランのキャストの方にアドバイスを頂けるので、非常に助かっています。

hoshizora082705.jpg作/演出・大日琳太郎さん

──上演の中では、合唱や神楽太鼓、ギター、舞踊などの演出が盛りだくさんで、あっという間に時間が過ぎてしまいました。

大日 日本オペラ界の星である大山大輔さんをはじめ、神楽太鼓の石坂亥士さん、長野オリンピック開会式の振り付けも担当された若柳梅京さん他、日舞、合唱など幅広い方面でご活躍なさっていらっしゃる方々にご参加いただいています。仙台の芸能専門学校生の皆さんもいます。

上杉 今回この上演に参加させていただき、とても良かったと思うのが、本当に幅の広い分野の方々とお知り合いになることができ、勉強できたことです。この経験を、是非今後に生かしていきたいと思います。

──そのような多様な方々を、どのように集められたのですか?

上杉 大日さんの人脈ですね。大日さんは、会うと誰でも仲良くなってしまいますから(笑)。

大日 ははは。

上杉 私が08年の再演で初めて参加させていただいたきっかけも、突然でしたから。

──オーデションなどではないのですか?

上杉 天丼のチェーン店でアルバイトをしているときに、お客さんとしていらっしゃった大日さんに、突然「演劇の主役を探しているのですが、是非お願いします」と言われたのがきっかけです。1回目はお断りしたのですが、次にいらっしゃったときにもお誘いをいただき、結局あれよあれよと……まさに育ての親という感じです(笑)。
(取材・文=編集部/写真=名和真紀子)

●『星空のコンチェルティーノ お琴』東京公演 上演情報
場所:新宿スペース107
開演日時:8月27日(土)昼の部14:00開演 夜の部19:00開演
     8月28日(日)昼の部13:00開演 夜の部17:00開演
開場は開演30分前
詳細は、以下URLをご確認ください。
http://www.space107.jp/index.html

最終更新:2013/09/11 18:33
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