ドバイの商業ビルとシロアリの意外な関係って!?『アラマタ生物事典』
#本
中国古来の薬学が起源となり、日本でも江戸時代に栄えた歴史ある学問「本草学」。その目的をかみ砕いて言えば、あらゆる生物の効能を発見すること。
生物事典とは、生き物の姿形の特徴や、「こんなところに生息している」「エサはこういうもの」などといった生態が解説されたものですが、荒俣宏監修による『アラマタ生物事典』(講談社)は本草学の視点が取り入れられ、どの生物がどんな役に立つのかが分かる、まったく新しい生物事典なのです。
「怖い……」
それが最初にページをめくった時の正直な感想でした。
は虫類や昆虫、さまざまな菌や植物のドアップ写真の数々が出てくる本書ですが、そのヴィジュアル的な迫力だけでなく、この「怖い」という感情は「畏怖」に行き当たります。
例えば、「オオキノコシロアリ」という生物。
この項目には、オオキノコシロアリの群れが女王アリを囲んでいる様子や、巣の外観などの写真がふんだんに使用されているのですが、女王は他のアリとは全然違った姿をしているし、巣は見たこともないような形をしているしで、ギョッとしつつ、2度見3度見してしまいます。加えて、シロアリと言えば害虫というイメージがありますが、解説を読んでみると、このオオキノコシロアリはヒトの身長よりも高い巣を作って、そこに独自の換気システムを築き、サバンナという厳しい気候のなかで常に一定の温度・湿度を保ち、その中で自分たちでキノコを育てて食料にしているそう。
それだけでも十分すごいのですが、さらに本草学的視点から見ると、その換気システムがドバイの商業ビルの構造に取り入れられていたり、そのキノコがヒトにとっては珍味中の珍味とされていたりと、驚きと尊敬の念が増します。
このように、人間には考えつかず、その生物をマネして自分たちの生活に取り入れようと思わせられるほどのスゴイ能力を秘めているからこそ、「怖い」と感じるのかもしれません。
マネと言えば、この事典には「ヒト」の項目もあるのですが、そこには「ヒトをここまで進化させてきたのは、ヒトの脳にある『ミラーニューロン』という細胞の、他人の心や行動を『マネ』する働きによるものではないか」と書かれています。そして、印象的なのが次の一文。
「キミが新しい技術を開発したいと思ったら、生物の成分や構造をマネするのが近道なのだ」
子どものころ図鑑を見るのが好きだったり、学生時代に理科便覧にハマった経験がある人も多いのではないかと思いますが、ヒトがそうやってほかの生物のことを知ろうとするのは知的な営みなのではないでしょうか。
漢字にはルビ付きで写真やイラストも満載と、子どもから大人まで楽しく読めるように作られたこの一冊は、知的欲求を満足させるのにぴったりです。
(文=萌えしゃン)
ヒトは生物に学び、進化する。
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