カーラジオからメタリカが!! 全編に通底する”音楽の魔法”
#映画
──節電で大変そうな今年の夏に、暑さを忘れられるDVDを、お化けメイクの小明ちゃんほか、本誌になじみの深いお歴々が、厳選レビュー!!
■『メタルヘッド』
心に深い傷を負った親子のもとに、ロン毛のメタル野郎が現れる。好き放題暴れまくる彼に、しかしむしろ親子は癒やされていき──。メタル男が出てくる映画ならば、この人が語るしかないでしょう! 元メガデスのマーティ・フリードマン、よろしくお願いします!
交通事故で母親を亡くし、心に深い傷を負った13歳の少年・TJと、同じく妻を失った悲しみから腑抜けてしまったTJの父親・ポール。2人はTJの祖母・マデリンが独りで暮らす実家に戻り、精気のない毎日を送っていた。そこへ、自らを「ヘッシャー」と名乗るロン毛で半裸のメタル野郎が現れる。
彼はマデリンの家のガレージに住み着き、大音量でヘヴィメタルを流したり、違法にケーブルテレビ回線を引いてポルノ番組を見たりとやりたい放題。さらに、TJが淡い恋心を抱くスーパーのレジ係・ニコールをも巻き込みながら、彼らの日常をめちゃくちゃにしていく。しかし、そんなヘッシャーの行動は、暗く沈んでいたTJたちの人生に光を灯し……。
そんな荒くれ者のメタル野郎が主役の『メタルヘッド』を、元メガデスのギタリストであるマーティ・フリードマンさんは果たしてどう観たのか!?
──こちら、邦題がずばり『メタルヘッド』という……。
マーティ・フリードマン(以下、マ) これ全然メタル映画じゃないじゃん!(笑)
──ですよね(笑)。
マ 『グローバル・メタル』(メタル界の重鎮が多数登場するドキュメンタリー『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』の続編)みたいなのを期待すると、ガッカリしちゃうかも。タイトルロゴまでメタリカのパロディだし。
──原題は『HESHER』で、主人公の名前がタイトルになってますね。こちらもメタリカのロゴはパロってはいますが。
マ 「ヘッシャー」っていうのは、今ではもう死語なんだけど、長髪でボロい格好してハッパ吸ってるような、メタラーっぽい人たちを指す俗語なんです。「ヒッピー」とか「ギーク」みたいに、特定の人をカテゴライズする言葉。だから、人の名前として使われてるのはちょっと変というか、面白いんですね。
──なるほど。まあ、意味合いとしては「メタルヘッド」(=メタル好き)とほぼ同じなんですね。映画ではこのヘッシャーが、交通事故で母親を亡くしてふさぎ込んでいる少年にまとわりついて乱暴狼藉をはたらくわけですが、実際に、マーティさんの周りにそういう荒くれ者はいましたか?
マ メタラーは意外とオタクに近いんで、周りに被害を及ぼすようなイメージはないです。どちらかというと、ハッパ吸いすぎてヘロヘロになっちゃってる感じ。悪いことする人もいたけど、映画のヘッシャーみたいに、車を燃やしたりよその家で暴れたりはしないです(笑)。
■全編を彩る陰鬱な雰囲気が作品に特別な力を与える
──で、本作は、劇中でメタリカの楽曲が使われているのがセールスポイントになっているわけですが。
マ ぶっちゃけ、ストーリーには関係ないですよね。たまにヘッシャーのカーステレオから流れてきたりするだけだから。でも、それでキャラ付けができて、映画の宣伝にもなっちゃう。それは、メタリカの魔法ですね。
──かつてマーティさんの在籍したメガデスは、デビュー直前のメタリカをクビになったデイヴ・ムステインが作ったバンドですが、マーティさん個人はメタリカお好きなんですか?
マ 大好き! メガデスに入る前から超ファンです。僕はいろんな理由があってメガデスを脱退しましたけど、ひとつは、B級のメタリカでいたくなかったんですね。メタリカはジャケ写も曲もイメージも何もかも理想的。彼らのライブに行くと、ほんとにトランス状態で「ヘイ! ヘイ!」ってなっちゃう。でも、メガデスはプログレみたいなとこがあるから、たまにメタリカの魔法に近づいても、急に変拍子になってヘッドバンギングしにくかったりする。メガデスは、永遠に彼らよりカッコイイ音楽は作れない。顔は僕らのほうがイケメンだったかもしれないけど(笑)。
──メガデスのダークでテクニカルな部分が好きっていう人も、大勢いますよ。
マ 僕らもメガデスに誇りを持ってたけど、やっぱりメタリカは王道じゃん。メタリカがマクドナルドだとしたら、メガデスはバーガーキング(※マーティさんは大のマック好きでもある)。同じ音楽をやってる限り、ずっと比較されるし、自分でも比較しちゃう。
──ちょっと脱線しちゃいましたが、映画の内容については?
マ はっきり言って、悲しくなりました(笑)。ヘッシャーが陰気くさい少年の家庭を引っかき回して、家族を再生していくっていうコンセプトは素晴らしいんだけど、とにかく鬱なシーンの連続で……。
──マーティさんて、基本的にキラキラしたものがお好きですもんね。
マ それは、ハッピーな感情が伝わってくるから。AKB48とか、聴いた瞬間にテンション上がるじゃん(笑)。でも逆に、ザ・キュアー(英国のポスト・パンク~オルタナティヴ・ロックバンド)みたいな、暗い気分になれる音楽も好き。そういう意味では、『メタルヘッド』も、ザ・キュアーのアルバムと同じように、人を落ち込ませる力のある、特別な作品ですね。
──役者さんの演技については?
マ 最高! 低予算のインディーズっぽい作風だから、俳優の演技力がよけいに際立ってます。あのナタリー・ポートマンが、スーパーで働くさえないメガネ女を完璧に演じてましたし。あんなに輝かないポートマンは初めて見ました。あと、映画の舞台になってる町が、僕が育った場所によく似てたんですね。アメリカの、郊外の寂しげな町。そこにはあまり幸福でない家庭もあって、そういう家を覗くことは、アメリカの一部を覗くことでもあるんです。監督は、そのあたりをすごく丁寧に描いていたと思います。タイトルはメタルメタルしてるけど、中身は非常にアーティスティックですね。
(文・構成/須藤 輝)
マーティ・フリードマン
アメリカの世界的ヘビメタバンド、メガデスの元ギタリスト。アイドルソングから浜崎あゆみ、果ては八代亜紀までを愛する、極度のJ-POP&演歌ヲタク。9月14日にJ-POPカバーアルバム第2弾『TOKYO JUKEBOX2』を発売。
【宣伝担当者おすすめポイント】
メタリカの楽曲にファン狂喜!? CM、MTV、短編映画で数多くの賞に輝いたスペンサー・サッサー監督の長編デビュー作であり、ナタリー・ポートマンが自らプロデューサーを兼任しサンダンス映画祭で絶賛された注目作です。ジョセフ・ゴードン=レヴィットのワルな演技にも脱帽で、メタルに詳しくない人でも十分楽しめます!
『メタルヘッド』
発売/ポニーキャニオン 監督/スペンサー・サッサー 出演/ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ナタリー・ポートマンほか ブルーレイ版が4930円、DVD版が3990円(共に税込)にて9月21日に発売
母親の死から立ち直れないでいる13歳の少年・TJの前に突如現れた、ロン毛&半裸の傍若無人なメタル野郎・ヘッシャー。彼は下品で暴力的な言動によって次々とトラブルを巻き起こすが、その過激なバイタリティに影響され、いつしかTJは生きる力を取り戻していく。
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