ホラーマンガの巨匠3人の映画企画 “古潤茶”に岩井センセイが息子の売り込み!?
#映画
──節電で大変そうな今年の夏に、暑さを忘れられるDVDを、お化けメイクの小明ちゃんほか、本誌になじみの深いお歴々が、厳選レビュー!!
誰もが一度は読んだことのあるであろう、ホラーコミック界の巨匠、古賀新一・伊藤潤二・御茶漬海苔。この3人が、自分のマンガ作品を自分で映画化したプロジェクト「古潤茶」が始動!そこで本誌ではおなじみのホラー作家・岩井志麻子女史をお呼びして、本企画の発起人でありプロデュースを務めた御茶漬海苔先生と対談を実施。豪華プロジェクトのウラ側に迫る!
──まず、今回の企画は、どういった経緯で始まったのでしょうか?
御茶漬海苔(以下、御) 『エコエコアザラク』の古賀先生が、映画を撮りたいと言ったのがきっかけです。それを実現するに当たり、伊藤先生も呼んで自作を監督することにしたら面白いんじゃないかと。映像化する作品もそれぞれに自分で選び、キャストもこだわって選ばせてもらいました。古賀先生も、今までで一番イメージに近い黒井ミサ(『エコエコアザラク』の主人公)になったとおっしゃってます。
岩井(以下、岩) 『エコエコ~』は、何度も映画化されてたのに! それはもう、ご自身で撮る醍醐味ですね。
御 先生はいつも夜8時には寝ちゃうんですけど、撮影で夜中の3時まで起きてた日もあったんです。絵コンテもご自分で描かれて、すごい熱意で取り組んでましたから。僕も『惨劇館』はマンガのイメージ通りの女優さんに演じてもらえましたね。撮影日数が短くて、現場であまり会えなかったのが残念ですが(笑)。
岩 『富夫』の役者さんが美青年【古川雄輝。ドラマ『アスコーマーチ』などに出演】ですね! ホラーには美少女がつきものだけど、私としてはこれを機に「美青年ホラー」のシリーズを作ってほしいですよ。でも、映画を撮るとなると、普段のマンガ制作とはかなり勝手が違ったんじゃないですか?
御 マンガは基本的にひとりで作り上げるものだけど、映画はスタッフをどう動かすかが監督の仕事。その違いは感じましたね。でも自分が描いた絵が映像になるのは、やっぱり気持ちいいし楽しかったですよ。
岩 御茶漬海苔さんは、映画監督をやってみたいと昔から思ってたんですか?
御 そうですね、過去に一本撮ったこともあるんです。もともと、子どもの頃や、若い頃に観た『エクソシスト』(73年)や『シャイニング』(80年)に憧れてホラーマンガを描くようになったくらいで。
エンターテイメント
岩 男性は、映画監督に憧れる人が多いですよね。
御 岩井さんは憧れないんですか?
岩 ないですねぇ。むしろ、女性は女優に憧れることが多い気がします。
──岩井さんの初期代表作『ぼっけえ、きょうてえ』も三池崇史さんによって映画化されましたが、自身で監督したいとは思いませんでしたか?
岩 ぜんっぜんないですよ! 映像化はできないと思ってたし、自分で撮るなんて一切考えなかった。
御 じゃあ、観るほうだったら、ホラー映画だとどういった作品がお好きなんですか?
岩 大島渚監督の『愛の亡霊』(78年)ですね。ある女が若い男に惑わされて、夫を殺しちゃう話。それで夫が幽霊になって出てくるんだけど、ぼやっと座ってるだけなんです。呪うわけでも襲いかかるわけでもなく、ただ座ってる。それが本当に恐ろしくて。怪物にチェーンソー持って追いかけられたほうが、どれだけラクかと思った(笑)。
御 日本とアメリカだと、怖いものの価値観がかなり違いますよね。
岩 アメリカでは、暴力的なキチガイが襲ってくる作品がホラーとされてますね。その違いはどうしてなんでしょうねぇ。私には、ギャグに見えてしまうことがよくあるんだけど。
御 『エクソシスト』のブリッジで階段を降りてくるシーンも、普通に考えたら笑っちゃいますよ。だから、笑いと恐怖は紙一重なんだと思います。『呪怨』(03年)も、気づいたら布団の中に白い子供が入ってるなんてギャグですよ。
岩 「いつの間に!?」ってね(笑)。子どものころ怖がっていたホラーを今観たら、笑っちゃったりするんだろうなぁ。しかしどうして子どもはホラーが好きなんですかね?
・ユニバーサル・エンターテイメント
御 怖い怖い言いながら観ますよね。それは僕もいまだに不思議。怖がることに、なんらかの楽しさや快感があるんだとは思うんですけど。
岩 御茶漬海苔先生の作品だと、「蟲男爵」(ぶんか社『暗黒辞典2』収録)は本当に気持ち悪いですよね。虫って身近にいるし感情がないから、ライオンやトラとは違う怖さがある。あれとは絶対仲良くできない!
御 実はあれは最初、魚で考えてたんですよ。みんな食べてるから、これはホラーにできるなと思って。
──そういった作品の発想は、どこから生まれるんですか?
岩 恋愛小説だと実体験を基にできるけど、ホラーは自分が怖いものを描くしかないんです。怖いとはなんぞや、って突き詰めるしかない。
御 おっしゃる通りですね。
岩 それと、私の場合はなぜか”電波”な感じのキチガイがたくさん寄ってくるので、ネタにさせていただくこともあるんです。先生の周りにもいますか?
御 グチャグチャの銀紙で包んである、手作りチョコレートが届いたことはあります。「これは食べても大丈夫なのかな……」と(笑)。封筒にカミソリが入っていたこともあるし、中学校の学級委員長を名乗る生徒から手紙が来たこともありました。「あなたのような人がいるから、犯罪がなくならない」って。
岩 やっぱり怖い作品を書く人には、怖い人が集まるんですね。ちなみに……私は映画に関しては素人なんですけど、今回のプロジェクトの予算ってどれくらいなんですか?
ソード─』/(C)2011 ジェネオン・ユニバーサル
・エンターテイメント
御 それはまぁ、頑張りました(笑)。でも予算に関係なくいい作品が作れるのが、ホラー映画のいいところだと思うんです。大作ホラーって、あまりないですから。強いて言えば、『ハリー・ポッター』シリーズ(01〜11年)ですかね。あれは木がしゃべったりするし、よく考えたらかなり怖いですよ。
岩 あれもホラーですか!? じゃあ一番怖いのは『ターミネーター』シリーズ(84年~)で大儲けしたシュワルツェネッガーが不倫してた家政婦ですよ。だってシュワちゃんは地位も名誉も金もあって、どんな女だってモノにできるはずなのに、あのゴリラみたいな女ですよ。狂気の沙汰としか思えない(笑)。
──そんな怖さをベースに(笑)、今後も「古潤茶」としての活動・企画は続くのでしょうか?
御 そうですね、古賀先生が元気な限り続けたいです。
岩 古賀先生のマンガは私も中学生の頃から愛読してましたから、もう大ベテランですよね。でも今度は違う先生の作品を映像化するのもいいんじゃないですか? 古賀先生の原作を伊藤先生が撮るとか、シャッフルして。
御 それはいいですね、新しい世界が広がりそうです。
岩 そうそう、それと実は、ウチの息子が映画に関わる仕事を目指しているので、次回作では、ぜひ使ってやってください……!
御 あっ、私の作品でよければぜひ!(笑)
(文/田島太陽)
(ヘア&メイク/梁取亜湖)
(写真/田中まこと)
岩井志麻子(いわい・しまこ)
1964年、岡山県生まれ。少女小説家を経て、99年、『ぼっけえ、きょうてえ』で、日本ホラー小説大賞を受賞し再デビュー。媒体を股にかけ、エロと恐怖を本音で語る最凶オバハンキャラとして活躍中。『5時に夢中!』の木曜レギュラー。近著に『備前風呂屋怪談 湯女の櫛』(角川書店)など。
御茶漬海苔(おちゃづけのり)
1960年、神奈川県生まれ。マンガ家。84年に『精霊島』でデビュー。代表作に『惨劇館』(扶桑社ほか)『恐怖実験室』(秋田書店)など。その独特の絵柄にはファンも多い。「古潤茶」プロジェクト以前にも、実写ホラー映画の監督を務めている。
【宣伝担当者おすすめポイント】
マンガ界の巨匠だけあり、撮影現場でも本職の映画監督に負けない迫力で、特にマンガにはない効果音や音楽に気を使っていたのが印象的でした。古賀先生念願の「イメージ通りのミサ」、伊藤先生らしいおかしく不気味な恐怖感、「最後に残るのは愛」という御茶漬海苔先生のメッセージ。三者三様の良さが詰まった濃密な3作品です!
【作品解説】
『エコエコアザラク─黒井ミサ ファースト・エピソード─』
原作・脚本・監督/古賀新一 出演/前田希美、栩原楽人ほか 価格/3990円(税込) 発売/ジェネオン・ユニバーサル
美園ヶ丘高校に通う黒井ミサ。クラスメートが黒魔術により囚われの身になったことで、黒井家に代々伝わる魔術を駆使し、友人の奪還に向かう。古賀新一自ら描くシリーズの原点であり、真の『エコエコアザラク』。
『富夫』
原作・脚本・監督/伊藤潤二 出演/古川雄輝、木口亜矢ほか 価格/3990円(税込) 発売/ジェネオン・ユニバーサル
恋人と共に占いの館を訪れ、そこで出会った美しい年上の女性に魅せられてしまう富夫。誘惑されるがままに関係を結んでしまうが、女の目的は男の首をコレクションすることだった。御茶漬海苔先生の怪演も必見!
『惨劇館─ブラインド─』
原作・脚本・監督/御茶漬海苔 出演/逢沢りな、とっきー、高田宏太郎ほか 価格/3990円(税込) 発売/ジェネオン・ユニバーサル
団地に住む桜はある夜、自室のブラインド越しに殺人事件を目撃してしまう。仮面をつけた犯人は姉の夫・浩司だった。御茶漬海苔作品の中でも、人間の愛憎にスポットを当てた作品であり、日常に潜む狂気が描かれる。
[上映情報]
8月27日~9月2日、ユーロスペース(東京・渋谷)にて、「古潤茶」3作品のレイトショー公開(舞台挨拶あり)が決定! チケットぴあ(Pコード558-269)にて前売券発売中。
■【DVD特集】この夏観るべき激ヤバ映画8本!
・女優として一皮むけた演技に注目!! 『軽蔑 ディレクターズ・カット』
・ヤンキー嫌いも必見のリアルヤンキー映画 『BADBOYS』
・ホラーマンガの巨匠3人の映画企画 ”古潤茶”に岩井センセイが息子の売り込み!?
・原紗央莉ちゃんがやり切るすがすがしさよ!! 『牙狼〈GARO〉』&『呀〈KIBA〉』
・陰鬱すぎる『不思議の国のアリス』その暗さがクセになりそう!! 『アリス』
・”メンヘラビッチ”な妻をシャルロットが好演!! 『アンチクライスト』
・ナタリー・ポートマンがサエないメガネ女を好演!! 『メタルヘッド』
・生身のアクションが光るタイ映画 『マッハ! ニュー・ジェネレーション』
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事