口座データが消滅! 職員が謎の退職!! ゆうちょ銀行のずさんなデータ管理が裁判沙汰に発展
#郵政公社
政府が全額出資する「日本郵政株式会社」。その傘下にある日本最大の金融機関といえば、「株式会社ゆうちょ銀行」である。総資産約200兆円と預金残高175兆円は、他のメガバンクをはるかにしのぐ規模だ。そんな実質的な国営銀行で、個人口座の記録が消失する事態が発覚。不審に思った関係者がゆうちょ銀行を相手に訴訟を起こしていたことが分かった。
ゆうちょ銀行については、郵便貯金時代からデータ管理のずさんさが指摘されており、今回の事態も氷山の一角だと分析する専門家は少なくない。日本最大規模の金融機関で何があったのか。
騒動のはじまりは平成19年10月。大阪府八尾市で要介護5状態だった元金融業経営のAさんが病死した。次男・二郎さん(仮名)が、遺産相続の手続きを進めるうちに、不可思議な事実が次々と明らかになる。
まず戸籍を調べてみると、長男・一郎氏(仮名)の妻が、いつの間にか死んだ父と養子縁組を結んでいたことが判明。晩年、心神喪失状態に近かったAさんが、死の直前に長男の妻を養女にするという不自然な行為に、当然ながら二郎さんは一郎氏を問いただした(後に裁判で養子縁組の無効が確定)。
また、一郎氏の娘がゆうちょ銀行に勤務していたこともあり、「一郎が娘を使って父の金を使い込んでいたのでは」と疑いを持った二郎さんは、その旨も長男に問いただした。しかし、一郎氏の娘はこの直後、ゆうちょ銀行を突然退職。長男からは「娘は行方不明でどこにいるか分からない」(長男・一郎氏)という納得しがたい回答が返ってくるだけだった。
途方に暮れた二郎さんが、父Aさんの遺品を今一度整理してみると(この頃には一郎氏があらかた持ち去ってしまっていたという)、Aさん名義の4通の郵便貯金の通帳を新たに発見(編注:ここでは通帳【1】~【4】とする)。中身を確認すると、3通(【1】~【3】)は既に解約されており、1通(【4】)については残高が538万8,494円残されていた。
しかし、高額納税者で知られたAさんの遺産が一口座だけのはずがないと思っていた二郎さんは、過去に父・Aさんの担当をしていた元ゆうちょ銀行職員に非公式に聞いてみた。すると、「Aさんからは2つの定期口座や『●●●』など、少なくとも●千万円を預かっていた」との証言を得ることができた(編注:元局員の希望により具体的な数字や表記は伏せる)。
元職員によれば「2つの定期口座」とは、限度額1,000万円、10年満期で半年複利という利便性が極めて高い郵便貯金の主力商品の一つ。しかし、この定額貯金は郵便貯金法により一預金者につき一口座しか開設できないと決められている。2つの口座が存在したのはなぜか。これについては、関東のある特定郵便局に10年以上の勤務経験がある別の男性(44)が説明する。
「確かに一人一口座と決められてはいますが、かといって2つ、3つ作れないかというと、民営化前はどこの局でも普通に作ってました。特に地方では、本人確認も台帳管理もかなりいい加減で、資産持ちの高齢者を相手に架空名義でバンバン作ったものです」
元職員の証言が正しければ、Aさん名義の口座は手元の4通の他にも複数存在する可能性が高い。二郎さんはそう考え、次にような行動に出た。
「証言にある定期口座などに加え、おそらく長男やその娘が使い込んだ口座が他にも複数存在していると確信を持ちました。仮に長男らが既に解約していたとしても、任意の日付を指定してデータの照会をかければ、過去に存在した口座が浮かび上がるはずです。残高のあるなしはともかく、まずはどんな口座がいくつあったか、事実を一つ一つ整理しようと考えました。そうでないと、父も浮かばれないと考えたんです」
まず二郎さんは、平成20年12月に、「平成17年6月1日」と「平成18年2月1日」時点における(この日付はランダムに指定した)Aさん名義の口座の照会をかけてみた。返ってきたのは、[通帳【4】=残金538万8,494円]だけが存在したとの回答だった。
諦めきれない二郎さんは翌月、今度は「平成16年1月10日」時点での照会をかけてみた。というのも、[通帳【1】]は平成16年12月に解約されてはいるものの、記帳記録を見る限り、平成16年1月10日の時点では約990万円を残してまだ存在しており、さらに、この時点では[通帳【4】]も約590万円を残して存在していた(画像参照)。つまり、「平成16年1月10日」を基準とした照会に対しては、少なくとも[【1】]と[【4】]の2つの口座の存在が確認できるはずである。
約600万円の残高があったことを示している。
ところが、ゆうちょ側から返ってきたのは「(口座は一つも)発見できませんでした」という、「絶対にありえないはずの回答」(二郎さん)だった。
「通帳【1】が出てこないとおかしいのは当然ですが、つい先月の照会で確認されたはずの【4】も出てこないというのはどういうことなんでしょうか。『先月はあったと回答したじゃないか、なんで今回は出てこないんだ!』と窓口で聞いても、『こちらでは分からない』としか答えない。データ管理が恐ろしいまでにでたらめなんですよ」
業を煮やした二郎さんは、今度は「平成15年1月10日」時点での照会をかけてみた。記帳記録を見る限り、やはり[口座【1】]も[口座【4】]も存在していたはずの日付である。しかし、ここでの照会でも[【1】][【4】]のデータはなぜか確認できなかった。しかし、【4】については今日現在も残高が残っていて、言うならまだ”生きている”口座である。いったい”国営銀行”のデータ管理はどうなっているのだろうか。
なぜか翌1月の照会では検出されなかった。
一連の対応のずさんさから、ゆうちょ銀行に強い不信感を持った二郎さんは平成21年11月、事実関係の説明や口座【4】の残高の支払いなどを求めてゆうちょ銀行を提訴するが、十分な証拠を示すことができずに昨年取り下げている。これについて、企業の危機管理や企業間の訴訟問題に詳しい武蔵野学院大学客員教授の平塚俊樹氏は、「金融機関でこの手の話は、実はけっこうあるんです。特にゆうちょ銀行は、私が受けた相談だけでこれで3件目です」と、驚くべき実態を明かしながら、二郎さんのような立場の人間が訴訟で勝つ難しさを次のように説明する。
「大原則として、ゆうちょの口座はゆうちょしか管理できません。仮に二郎さんが訴訟を起こし、システム管理会社を介して立ち入り調査をしても、裁判所がシステムを調べるのには技術的に限界があるわけです。ゆうちょが『ない』で通せば追及の方法はなく、立証はできない。立証できなければ裁判には勝てないんです」
また、金融事情に詳しい経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は、「あくまで一般論」としたうえで「ゆうちょには昔からこの手の話が全国的にたくさんある」と言いつつ、次のように指摘する。
「地方の郵便局では、おじいさんやおばあさんの通帳と印鑑を顔見知りの職員が預かって、事実上の一任管理をしてしまうというのはよくある話です。その結果、局員が使い込んでいたなんていう話も珍しくありません」
また、データ管理のずさんさにも苦言を呈す。
「ゆうちょと他の民間銀行では、同じオンライン処理でも制度や管理の質に雲泥の差があるんです。ゆうちょは、昔の台帳管理からオンラインに移行する際に、田舎の小さな特定郵便局まで徹底できずに、相当の混乱があったはずです。どれだけ緻密に名寄せができたかは疑わしい。ただ、裁判で立証するのは極めて困難で、真相は藪の中となるパターンが多いようです」
二郎さんがあきれながら言う。
「調べ方によって口座が出たり消えたり、こんなずさんな管理の金融機関に金を預けて大丈夫なのかということです。長男の娘がゆうちょ銀行を突然辞めているのも不自然な話で、もし彼女が不正にかかわっているとしたら、組織としての責任も問われるはず。なのに調べる気配もない。この調子では、震災のドタバタでうやむやにされてしまった口座は多いのではないでしょうか。被災地の遺族が聞きに行っても『ない』と言われたらおしまいですからね。3月にみずほ銀行がシステム障害でバッシングされてましたけど、ゆうちょのデタラメぶりはその比じゃないですよ」
ゆうちょ銀行は二郎さんからの問い合わせに対し、データ管理については「住所が異なる場合には同姓同名の第三者として扱われるため、検索結果に反映されません」などと回答。口座【3】が出たり消えたりした理由については明確な回答がないという。
(文=浮島さとし)
ネーミングからは想像がつかないほどドス黒い。
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