主戦場はフィリピンから中国へ移動──臓器売買ブローカーは本当に儲かるのか?
#ヤクザ #プレミアサイゾー
──6月末、日本国内で久しぶりに、不正な臓器移植事件が発覚した。暴力団関係者の仲介により生体腎移植が行われた本事件だが、ドナーとなった青年は借金のカタに腎臓を売ったことが明らかになっている。その額、300万円。これは安いのか高いのか? 闇の臓器市場を真面目に分析する。
今年6月、都内の開業医・堀内利信容疑者が、住吉会系暴力団組長・坂巻松男容疑者に計1000万円を支払ってドナーの仲介を依頼し、生体腎移植を受けていたことが発覚、その後臓器移植法違反により関係者が逮捕される事件が起きた。手術に際し、堀内容疑者はドナーと養子縁組をして倫理指針に反しない偽装を施していたことがわかっており、現在はドナー側とレシピエント(患者)側それぞれの執刀医が、偽装縁組・金銭授受の事実を知っていたのか、自身も不当に報酬を得たのではないか、という点で捜査が進められている。また、ドナーとなった青年は組関係者に100万円の借金があり、その帳消しと報酬200万円(実際に支払われたのは10万円)を提示されて引き受けたことが明らかになっている。
日本では、1997年制定の臓器移植法第11条で、「移植に使用されるための臓器を提供したり、提供を受けたりしたことの対価、もしくはその斡旋の対価として財産上の利益供与を受けてはならない」「係る規定に違反することを知って、当該臓器を摘出・移植術に使用してはならない」と臓器売買を明確に禁止している。要は、移植において金銭授受があった場合、ドナーもレシピエントもブローカーも、それを知りつつ執刀した医師も罪に問われるということ。事件を受けて7月31日には、臓器移植をめぐる指針・法制度を整備研究する日本移植学会が「親族を装った生体移植が疑われる事例については、移植を実施する医療機関だけでなく、当学会も審査に加わる」と、倫理指針をより厳重にする方針を発表した。生体移植においては現在、提供者になれる範囲を6親等以内の親族、または3親等以内の姻族、その他の場合は個別に判断していくという倫理指針が定められている。
国内で臓器売買事件が発覚するのは2回目だ。万波誠──この名前を覚えている読者もいるだろう。腎臓病患者が、金を借りていた女性に、「腎臓を提供してくれたら借金200万円に300万円を上乗せして返す」と持ちかけて移植を実行した宇和島徳洲会病院事件(06年)の執刀医だ。この事件の調査過程では、同氏が、病気のため摘出された腎臓を移植に使用していたことも発覚。片や「患者第一の赤ひげ先生」、片や「病気腎でもお構いなしの移植狂」と、患者からもメディアからもさまざまな見方が存在し、疑惑や批判が飛び交った。その彼が今回レシピエント側の執刀医として登場したことから好奇と疑いの目が注がれているが、ほかの医師からは、彼の所業や今回の事件はどうとらえられているのだろうか?
「個人的には、移植に関する法律やシステムがザルなのが問題であって、万波医師個人の問題ではないと思いますね。臓器移植に関しては、そのための偽装結婚や偽装養子縁組は表沙汰にならないだけで、結構な数がありますよ。そんなこと、マトモな人は仲介しないから、当然ヤクザなどが絡んでくる。でも普通、そこまで医師は介入しないです。知ってても知らんふりというか、怪しいと思っても突っ込まない。なぜならキリがないから、というスタンスが大半だと思います」(30代外科医)
現行ルールを無視して移植を進める医師と、どうしても臓器移植を受けたい患者、お金を必要とするドナーの三位一体によって成立することとなった日本での臓器売買事件。その背景にあるものを、臓器売買問題を追ってきた記者はこう分析する。
「ここには2つの側面があります。ひとつは、いつまでたっても改善されない臓器移植の国内事情。規制が厳しく、脳死・心停止患者からの腎移植に関しては、待機患者1万2000人に対し、実際行われる移植は毎年150件前後。移植を受けられるまでに実質5〜15年はかかるといわれ、待機解消は進みません。親族にドナーが現れなかった患者は絶望的です。09年の法改正で、脳死・心停止患者本人がドナーカード等での意思表示をしていなくても、家族の同意があれば提供できることになりましたが、大幅な改善は見込めない。
もうひとつは、暴力団の資金源になっているという側面。今回の事件のように、借金を回収する手段として臓器を売らせるわけです。今までは債権の回収といえば、犯罪に使用する銀行口座やケータイの名義貸しだったのですが、こちらも規制が厳しくなり、臓器売買に手を出すようになったわけです」
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